第六章 121 負けられない理由
互いの武器が交錯する。高速で鳴り響く金属音。ディードと関羽の攻防は一進一退だった。
「ハァ、ハァ……、まさかエリックとユズリハが敗れるとは。ですが、あなた方は自らの意志で闘っている訳ではないのでしょう。ならばこんな不毛な闘いは止めるべきです」
「ハァハァ……、確かにその通り。私達は冥界の奥底の夢界で眠っているところを無理矢理目覚めさせられたに過ぎない。だが、先程の呂布や貂蝉の様に相手を戦闘不能にしない限りは縛られた魂が肉体を支配して闘うしかできないのだ。ここ異世界のエルフの少女よ、名は何という?」
長い黒髪ポニーテールの美女の姿をした関羽が、苦しい自らの状況を吐露した。ならば、その禍根を断つという強い気持ちを持ってディードは名乗った。
「我が名はディード・シルフィル。カーズ様によって新たな生と名を与えられた神々の闘士。あなたはわたくしが全力を以て止めてみせましょう、関羽雲長。そしてあなたの背後にいる悪を今こそ討つ!」
ディードの
「ハッ、凄まじい闘気! まさかあの戦国の世でもこれほどの好敵手はそうはいなかった。ではゆくぞ、ディード・シルフィル。見事我が魂を解き放ってみせよ!」
ドンッ!!! ガギィイイイイン!!!
ライトローズ・ウイングと
この
なお日本では刃の形状が類似の柄の短い中国刀のことを青龍刀と言う場合があるが、これの中国での名称は柳葉刀であり誤用である。「青龍刀」という名称は本来「青龍偃月刀」の略称なので、青龍偃月刀とは別に青龍刀という武器が存在するわけではない。
そして鍔迫り合いの膠着状態からディードの連接剣スキルが炸裂する。
「アストラリア流
斬り結んでいた状態のライトローズウイングが連接剣へと変化し、関羽の武器を搦め捕る。
「モーニングスター・スロー!」
「ぐっ?! 身体の自由がっ!」
巻き付けた連接剣で、関羽をジャイアントスウィングの様に振り回し地面に叩きつけた。
ドゴオオオオオオッ!!! ジャキィ!
「がはっ!」
「アストラリア流連接剣スキル」
連節剣をすぐに手元に収め、次の技を放つ。立ち上がった関羽を囲む様に異次元の入り口が幾重も広がり、そこから連接剣が放たれる。
「
「
ガガガガキィイイン!!!
「なっ?!」
狭い空間で関羽が高速で全方向に武器を薙ぎ払い、ディードの連接剣を全て弾いた。
「素晴らしい攻撃。全方位から異次元の刃が襲いかかるなど見たこともない」
「それを初見で全て蹴散らすあなたも相当の化け物ですね。ならば次は、アストラリア流連接剣スキル」
カッ! ドゴオオオオオオッ!!!
「
相手を飲み込む竜巻の如きディードの連接剣スキル。それに真っ向から青龍偃月刀を持ち構える関羽。
「
ゴパアアアアンッ!!!
関羽が全力で縦に振るった武器から巨大な衝撃波が放たれる。互いの技の威力がぶつかり合い、両者とも後ろへと弾き飛ばされる。だが、何とか踏み止まり、次は更に渾身の一撃を振るうことになる。
ザザッ! 両者が地面を踏み締める。
「わたくしにはもう負けることなど許されないのです。今こそ見せてあげましょう。連接剣の奥義を」
「良かろう、ならばわたしも関流の奥義をお見せしよう。ディードよ、なぜそこまで自身の勝利に拘るのだ?」
「……魔神に操られているあなたにはわからないでしょう。わたくしはカーズ様に全てを救って頂いた。その恩と彼が護りたいもののためにわたくしも剣を振るうのです。護るための剣に敗北など許されないのですから」
「フッ、気に入ったぞ。ならば我が一撃、見事凌いで見せよ!」
右手でライトローズ・ウイングの柄を強く握る。関羽も青龍偃月刀を右の後ろ手で持ち、左手を前にかざして力を溜める。
「咲き誇れ神気よ! アストラリア流連接剣スキル・奥義!」
「関流刀術・奥義!」
カッ! ドオオオオオオオオオン!!!
前方へ突き出した剣の先から極光の光線と共に刃が伸びて行く。アストラリア・エクスキューションの内部に刃が仕込まれている様な連接剣スキル・奥義。しかも放った光線を連接剣の様に操ることもできる必殺の一撃である。
それに対して関羽が放ったのは高めた闘気を剣閃から繰り出すシンプルが故に強力な一撃。
「
「
互いの繰り出した奥義の威力が中間で燻ぶり合う。気を抜けば両方の奥義を同時に浴びることになる。
「う、うううう、うああああああああ!!!!!」
「う、これほどとはああああ!?」
最後に限界まで神気を高めたディードが押し切ったが、関羽が直前で力を抜いたようにも感じられた。
ドゴオオオオオオオオッ!!!
燻ぶり合っていた威力が関羽に襲い掛かり、ディードの連接剣の先端が関羽の胸元を貫通した。
「ハァハァ……、最後に情けを掛けられるとは思いませんでしたよ。納得はいきませんが、あのまま奥義をぶつけ合っていれば勝っていたのはあなただったでしょうに……」
「見事だ、ディード・シルフィル。最後に私の力が抜けたのはこの戦いで充分に満足できたからであろう。我が身はもう消える。だが私の闘いの経験は其方に受け継ごう。受け取るがいい、私に仮初めの命を与えた神格を。そして魔神や『大いなる意思』、いや『ゼムロス』の野望を阻止するのだ……。ぐ、おおおおお!!!」
ドシュッ!
残った左手で心臓を突き、関羽が神格を取り出す。全力を出し切ったディードはフラフラとしながらも近づき、光り輝く神格を受け取った。
「ではさらばだ、神々の闘士、ディード・シルフィルよ」
「ええ、あなたこそ見事な武将でした。あなたの意志はわたくしが継ぎましょう」
音もなく消え去る関羽を目にしながら、力を使い果たしたディードはその場に倒れるのだった。
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爆発音が鳴り響く。アガシャの弓と黄忠の弓から放たれる強力な矢が寸分たがわずぶつかり合う。
「儂の弓とここまでやり合える者がいるとは。やるではないか小娘よ」
妖艶な紫がかった黒髪をなびかせる美女の黄忠がそう告げる。
「小娘ではありません。私はアガシャ・ロットカラー。永い時を経て女神ティミス様に育て上げられた月の特異点。そして魂の父カーズの娘として、あなたには負けない」
「良かろう、アガシャよ。ならば我が弓術の神髄を見せてやろう。見事我が魂を解き放って見せよ!
光速の一矢が黄忠から放たれる。それを同じく高速の矢で迎え撃つアガシャ。
「アルティミーシア流弓術スキル・
ビシュシュッ!!! バゴオオオオオッ!!!
互いの一矢が激しくぶつかり合い相殺される。
「ならば流星に貫かれるがいい。アルティミーシア流弓術スキル・
アガシャが放った一矢が上空で破裂し、流星群の様に降り注ぐ。
「流星か、ならば撃ち落としてみせよう。
カッ! バチチチチチィッ!!!
黄忠が放った一矢が幾重にも分裂し、上空から降り注ぐアガシャの流星群を撃ち落とした。互いの弓術はほぼ互角。ならば必殺の一撃を放つのみ。奥義の一矢を振り絞る。
「これがアルティミーシア流弓術スキルの奥義! 月光の光の一矢を受けなさい!
「面白い! ならば受けるが良い。燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんや。
ドゴオオオオオオオオッ!!! ガキィイイイイインッ! ザシュッ!
「くっ!」
「がはっ!?」
互いが放った強大な光線の様な一矢が掠め合い、すり抜けた一矢がアガシャの右肩と黄忠の左胸に突き刺さった。パタパタと鮮血が飛び散り、アガシャは膝を着いた。神衣と魔神衣に守られているとはいえ、それぞれの強力な奥義はそれらを貫いて肉体へとダメージが入る。だが神の流派の奥義が最後は押し勝つことになり、黄忠の傷は完全に致命傷だった。
「……私の、勝ちですね、黄忠漢升。あなたは望んでこの世界に復活させられた訳ではないはず。もう一度大人しく夢界で眠りに就くのです……」
荒い呼吸をしながら、渾身の奥義の一矢を放ったアガシャが言い放つ。その言葉に黄忠は少し悲しそうな表情をした。
「ふふ……、象鼻刀での闘いもしてみたかったが、確かにその通りであろうな。望んだ復活ではない。儂の神格を持って行くがいい。久々に心躍る闘いであったぞ、アガシャよ……。我らを操った黒幕を討つのだ……」
「『大いなる意思』、いやあなたの仲間も言っていた『ゼムロス』……。それが大世界を魔神を操って混沌に包もうとしている、でしたか。その者に勝つまで私達は歩みを止めません……」
「その通りだ……。お主達の武運を祈る……」
音もなく消え去る黄忠を
「よくやったわアガシャ。あなたはもう立派な神々の闘士。回復してあげるから、今は休みなさい」
「……ティミス様、ありがとうございます。少しは父上に近づけたでしょうか……?」
そう言って目を閉じたアガシャの頭上には黄忠が遺した神格がキラキラと輝いていた。
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「フフッ、魔神の力を与えてやっても所詮は元人間。くだらない誇りや意志が邪魔して完全な傀儡にはならないということかしらね……。出来損ない共め、ならばそのくだらない人としての意思を全て消し去ってあげるわ。
俺達の動きを強靭な神気の糸で封じ込めているヴィオレが背後の残った魔神達を狂戦士化させた。まずいな、エリック達が負ける程の手練れだ。それが自我を失くし、悪鬼の如く襲いかかったらアジーンやチェトレが危ない。
「ははっ、計算違いだったようだな。俺達はそう簡単には負けない」
そう言った俺に対して、ヴィオレは残忍な笑みを浮かべる。
「身動きも取れずに私の
ギチギチギチ……、バゴッ!
「がっ!」
俺の意志に反して右の拳が自分の頬を殴りつける。ヴィオレは指先だけで糸を操ってここまでのことができるということか……。だが、この手の能力は必ず穴があるはずだ。考えろ……。
「「「カーズ!!!」」」
アヤにアリア、イヴァが心配して声を上げるが、こいつらも動きを封じられている。絶対に助けなければ……。
「次はどこを潰してあげようかしら? そうね、こんな状況なのにまだ闘志を失っていないその目。まさに目障りだわ。次はそこね」
ギリギリギリィ……
右腕が勝手に動き、右手の人差し指と中指が俺の両目に迫って来る。くそ、思い通りになってたまるか!!!
バギンッ……!!!
「驚いた……。まさか糸の拘束に逆らって右腕を折ってまで、命令に背くとは……。カーズ、あなたは思った以上に危険な存在の様ね……。でも他の連中はどうかしらねっ!!?」
ゴキン! バキバキィ! ガキンッ!!!
「うぐっ!」
「があああああ!!!」
「あぐっ!!!」
アヤにイヴァ、アリアの身体の骨が捻じれて砕かれる。この野郎……、やってくれたな! この糸をぶっ飛ばしてやる!
「ぐ、うおおおおおおお!!! 燃えろ、俺の神格よ! 燃え滾れ、神気よ!」
ボッ! ボボボボッ!!!
俺の身体から放たれた神気の炎がヴィオレのギャラクティカ・マリオネーションの神気の糸に燃え移り、燃やし尽くした。
「くっ、まさかこれほどの灼熱の炎を全身から放って、糸を無効化するとは……!?」
カッ!
「
何とか治療した右腕に、左手に握っていたニルヴァーナを二刀状態にして二刀流の構えを取る。
「わかったのさ。カーズ、そんな奴にやられるななのさー」
「仕方ありません。ですが命を無駄に捨てることは許しませんよ、カーズ」
「わかってるよ。だがあいつは俺の仲間を傷つけた。絶対に許さん。アストラリア・エクスキューションを弾きやがったのは驚きだったが、俺の剣はそれだけじゃない」
イヴァとアリアが後方へと飛翔する。そしてアヤから俺にありったけのバフがかけられる。さあ、これからが勝負だぜ、原初の七色、紫のヴィオレ!
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順調ではないが、何とか英霊達を撃破。
次はカーズの反撃です。
続きが気になる方はどうぞ次の物語へ、♥やコメント、お星様を頂けると喜びます。執筆のモチベーションアップにもつながります!
一話ごとの文字数が多いので、その回一話でがっつり進むように構成しております。
今回のイラストノートは此方、
https://kakuyomu.jp/users/kazudonafinal10/news/16818093075104287922
そしてこの世界ニルヴァーナの世界地図は此方、
https://cdn-static.kakuyomu.jp/image/d5QHGJcz
これまでの冒険と照らし合わせて見てみて下さい。
そして『アリアの勝手に巻き込みコーナー』は此方です。
https://kakuyomu.jp/works/16817330653661805207
アリアが勝手に展開するメタネタコーナー。本編を読んで頂いた読者様は
くすっと笑えるかと思います(笑)
そして設定資料集も作成中です。登場人物や、スキル・魔法・流派の解説、
その他色々とここでしかわからないことも公開しております。
ネタバレになりますが、ここまでお読みになっていらっしゃる読者様には、
問題なしです!
『OVERKILL(オーバーキル) キャラクター・スキル・設定資料集(注:ネタバレ含みます)』
https://kakuyomu.jp/works/16817330663176677046
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