第六章 115 Thunderclap


 2日目、朝一で2ー5の男子生徒に手紙を預ける。


「ま、またですか?!」

「あの根暗のどこがそんなにいいんだ……」

「いや、別にそういうものではないんだけど……」

「くっ、仕方ない。行くぞみんな」


 リーダー格の男子に連れられて男子連中がローズルキーを強襲する。俺達はまた離れてノイズ・コレクト雑音・音声収集で聞えて来る声を拾う。


「おい、貴様にまた手紙だ」

「……またか? 一体何なんだ?」

「黙れ。早く読め」

「昨日に続いてまたしても。心底殺したいな……」

「ちっ……、迷惑な……『どきゅーん! ばきゅーん! 恋はラビリンス。今日も迷宮入りでーす!』……意味がわからん」

「貴様あ! あのカリナさんからの手紙を意味わからんだと!」

「誰だそいつは?」

「貴様、しらばっくれるな!」

「やはり恋文なのか?! 彼女はそういうものじゃないと言っていたが……」

「全学院男子に謝罪しろ! お前の罪は重過ぎる!」

「……、いい加減にしろよ……?」

「「「貴様が言うなああああ!!!」」」


 

 うむ、今日もアリアの手紙は絶好調だな。こっちも笑いが止まらない。周りの男子の反応も面白過ぎる。『恋』と一文字書いてあるだけで恋文にはならんだろ? どういう頭の構造なんだ? 思春期恐るべし。

 魔神がワナワナとしているのが伝わって来る。良い感じに煽られているな。

 昨日1日ノイズ・コレクトで周囲の反応を聞いていたが、コイツに対しての周囲から冷ややかな対応や野次が凄かった。どうやら目立たない様に眼鏡をかけて陰キャ設定で侵入していたせいで、クラスカーストは底辺ぽい。そんなところに見た目だけは綺麗にできている、特に目立ち過ぎてしまった俺が接触したせいで、何処に行っても絡まれたりジロジロ見られたりと、相当イライラしているのがよくわかった。寮でもずっと弄られていたしな。

 敢えて自分の設定は崩さないつもりなのだろうが、この分だと本性を我慢できなくなるのも早いだろう。高慢でプライドの高いロキだ。1週間も持たないだろうな。さっさとその性根を晒してしまうがいい。



「ねえ、カリナ。今日も手紙を男子に渡してたとか噂になってるんだけど……」


 まあ、こっちにも当然とばっちりが来る。悪戯をするには相応の犠牲が付いて回るのだよ。こっちは適当に誤魔化しておくだけだけどね。


「特に意味はないんだよ。ちょっと用事があっただけで」

「ふーん、まあカリナがそう言うならその程度なんだろうねー」


 聞き分けが良くて何よりだよ、リーシャ。交渉術Sの御陰で此方の被害はほぼなし。周りが押し寄せて来てもリーシャ達が上手く宥めてくれるからね。




 3日目、今日も2ー5の男子連中にアリアの手紙を渡す。


「またしても貴様に手紙だ。読め」

「……またか? 何がしたいんだ……?」

「黙れ。さっさと読みやがれ!」

「3日も続けて……。心底殺したいぞ」

「ちっ、何なんだ……『どんどんどんぱふぱふどんどんどん! あなたが一等賞でーす! 賞品は……スカ! 残念でしたー! 次の抽選をお待ちくださーい!』……またしても意味がわからん」

「貴様ああああ!!! ぱふぱふだとおおおおお!!!」

「そこになおれ! 叩っ斬ってやる!」

「どういうことだ、コルァあああああああ!!!」



 おお……、やべーな思春期。そこだけ抜き出してキレるとは……。しかし、ちょっと刺激し過ぎている気がするな。その後もクラス中からヤイヤイと、女生徒にまでひそひそ何かを言われている。


「貴様ら……、いい加減にしろ! この俺様を馬鹿にしやがって……! 下等な人族風情が調子に乗るなよ!」


 ドンッ!!!


 怒り狂ったローズルキーが校舎の上の階までの天井を突き破り、上空に飛翔した。キレるの早過ぎるだろ……。所詮傲慢でプライドの高いコイツには我慢と言う言葉などなかったということだな。アヤとアリアに目配せして上空に転移する。

 突然の出来事で、影に潜んでいるぶちには対応できなかったか。しかも上空だと影は遥か下だ。


「「「換装かんそう!」」」


 装備が一瞬で装着される。さあ、もう潜伏はできまい。ここで決着をつけてやるぜ。空中で魔神衣ディアーボリスを纏ったローズルキーと対峙する。


「……やはり貴様らか。よくもこの俺様をコケにしてくれたな。結界に細工をしたのも貴様らだろう? いい加減イライラしてきたところだ。全員消し去ってくれる! 発動しろ、終焉ラグナレク・血界ブローヘルー!」


 カッ! ゴゴゴゴゴゴゴ……


 中心部の起点から学院全体を覆う様にヤツの血界が発動された。赤黒いオーラに包まれるかの様に展開される血界。どういうことだ? 外部の起点は全て破壊したはずだ。


「外部の起点を全て破壊したところで、一箇所でも起点が残っていればマーキングした箇所に血界が展開する。無駄な足掻きだったな。このムカつく学院の連中から精気を吸い取ってやるぞ!」


 展開された血界内で人々が倒れて苦しんでいるのがスキルで視える。マズイな……、どうやら詰めが甘かったようだ。


「その前にテメーを滅却してやるよ! 大見栄切っておきながら逃げるんじゃねーぞ! 来い、神衣カムイよ! いくぞ、神剣ニルヴァーナ!」


 カッ! ジャキィイイイイイン!!!


 俺達の身体に神衣が装着される。そして二人も神器を手に取った。


(リーシャ聞こえるか? 学院内はどうなっている?)

(! ……この、声はカリナ?! 突然赤い霧が立ち込めてみんな気を失っているわ。私はカリナとの稽古でレベルが上がったから、何とか耐えれてはいるけど、このまま、じゃ……)

(くっ……。待ってろ、直ぐに何とかしてやる)

(う、ん、お願、い……)


 マズいな……、リーシャも意識を失った。とっとと片付けなければ命に関わる。


「アリア、血界を破壊してくれ。コイツは俺とアヤで仕留める!」

「わかりました。解析の詰めが甘かった私の責任でもあります。ここは任せましたよ!」


 フッ!


 アリアの気配が消えた。起点部分に転移したのだろう。


「アヤ、いくぞ。俺達でコイツを滅却する」

「ええ、こんな逃げ腰野郎に負けたりしない」

「ククク……、いいぞ……若い精気が血界を通して流れ込んで来る。この前までの俺様と一緒だと思うなよ、神族共が!」

「へっ、他者を犠牲にしてドーピングしなきゃ勝ち誇れないクソがほざくんじゃねーよ」

「こそこそと汚いのよ、小悪党が! 学院を好き勝手にしてくれた礼をしてあげるから!」


 ヤツの手にも炎の魔剣レーヴァティンが具現化される。なるほど、確かに以前よりは燃え盛る炎が威力を増している様だな。


「はあああああ……、受けなさい! 全てを凍てつかせる凍気の一撃を!」


 ピキイイイイイィン! ドゴオオオオオオ――!!!


 アヤの右手から巨大な凍気の鳥が翼を広げて羽搏く様に放たれる!


「オーロラ・フェニックス!」

「ぐっ……!? うおおおおおおお!!! フュール極炎のメイルシュトローム巨大渦巻!!!」


 パアアアーンッ!!!


 アヤの魔法を喰らいながらも、炎の奥義で何とか相殺しやがった。確かに以前とは違う様だな。


「フッ、所詮オーロラなど薄衣に過ぎん! 邪魔だ! これでも喰らえ! フュール極炎のラグナレク終焉!!!」


 ガキィイイイイイイン!!!


「うぐっ!」


 精霊剣ルティで炎の大剣の一撃を防ぐアヤ。だがヤツのあの攻撃はここからもう一段階炎が燃え上がる!


「避けろ、アヤ!」

「はっ!」


 ドゴアアアアアッ!!!


 更なる炎が大剣から放たれる前にアヤは回避した。被弾したら丸焦げになるところだ。危ない、冷や冷やするぜ。再び正面で向かい合い、互いが武器を構える。


「アストラリア流細剣スキル」


 ドウッ!


インフィニティ無限・スラスト刺突ー!」

「「フュール極炎のピスティ刺突!」


 ガガガガガガッ! ドシュシュシュッ!!!


「ぐあっ!?」

「くっ!」


 手数ではアヤが圧倒したが、大剣に纏われている炎がぶつかり合った剣に飛び火してアヤにもダメージが入っている。このままだと膠着状態が続きそうだな。


「ニルヴァーナ二刀、刀フォーム」


 二刀流にしたニルヴァーナを腰に差す。チキッ! 両手の親指で鍔を少しだけ持ち上げる。神刀技しんとうぎ奥義・千手観音せんじゅかんのんで粉々にしてやるぜ。


「待って、カーズ! コイツは私が斃す! 女の子達を酷い目に遭わせたコイツは許せないから!」

「……、そうか。なら任せる。だがコイツが逃げそうになったら介入するからな」

「ありがとう。任せて!」


 そんなことを言われたら手は出せないな。全く、言い出したら聞きやしないんだから。それにコイツはこの場から逃げ出したりはできない。コイツの魔力の波長は俺が握っている。外部からの干渉でそれを狂わせることもできる。その程度はさせてもらうぜ。ヤツの魔力の波長に俺の魔力を流して少しずつ狂わせていく。

 それよりもアリアはまだか? さっさと血界を破壊してくれ。


「アストラリア流細剣スキル、ダイヤモンドダスト凍結する宝石の墓場・ショットの一撃!」

フュール極炎のスラッシン斬撃!」


 ドゴオオオオオ!!! ガキィイイン!!!


 氷と炎の闘技が交錯する! ヤツの攻撃には常に炎が纏われている。それを相殺する様にアヤは氷属性の剣技や魔法、それを纏わせた攻撃を繰り出している。さすがは魔法の天才。相手の嫌がる属性での闘い方に特化させているな。


「ちっ、チマチマと鬱陶しい……! だが俺様の力が炎だけだと思うなよ! 終焉よ来たれ! ラグナレク終焉のロフシュティン極大隕石!!!」

「「なっ……!?」」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!


 こいつ、隕石を召喚しやがった。マズイ! この辺り一帯が、この国自体が壊滅する!


「カーズ!」

「任せろ!」


 ソード形態に戻したニルヴァーナを握り、隕石に向けて飛翔する。砕けばその欠片が飛散し、大地にも被害が出る。ならば、異次元へとぶっ飛ばす。これがアガシャに伝えた、アストラリア流のソードスキル極技だ!


ディメンション次元・ブレイカー破断刃!!!」


 ザンッ!!!


 俺が斬り裂いたのは隕石が迫り来る手前の空間。そこにはアリアの使ったディメンション異次元のゲート同様、宇宙の様な異次元空間が広がっている。そこへ吸い込まれる隕石。直接斬れば、斬ったその部分だけが異次元へ飛ぶことになる。だから手前の空間を大きく縦に斬り裂き、隕石それ自体を飲み込ませたのだ。異次元へと消え去ると共に空間の裂け目も閉じていった。

 急激に力が抜ける。凄まじい威力なだけあって力の消費も大きいな。多用は厳禁だ。


「ハァハァ……、危なかった」

「くっ……?! 何なんだ、一体? 俺様のラグナレク終焉のロフシュティン極大隕石を異次元へ消し去るとは……!」

「いや、今のはやばかったぜ。テメーの魔力を取り込んでなければ、もっととんでもないのが落ちて来た可能性がある」

「?! そうか……、先程から俺様の魔力の波長が乱れている様に感じたのは貴様が原因だったということか?!」

「ご名答。前回テメーにわざと腕を斬らせたのはこのためだ。お前みたいな危険な野郎は追い詰められたら何をするかわかったもんじゃないからな」

「神でもない人間がなぜそこまでの芸当ができる……? 貴様は一体何者だ? ! そうか……、『大いなる意思』が言っていた神魔大戦に邪魔な『反抗者』とは貴様らのことだな! ならば貴様は絶対に殺してやる……!」

「お前は『大いなる意思』とやらと繋がっているのか? そいつは何者なんだ?」

「ククク、今から死ぬ貴様らにはどうでもいいことだ。それに……、俺達魔神は―――……。ちっ、やはり口に出せないか」


 やっぱりそう簡単には教える気はないか……。それに今何かを喋ろうとしたが声が出ていなかった。何か呪縛の様なものをかけられているのかも知れないな。鑑定には何も視えないが……。


 フッ!


 アリアが転移で戻って来た。血界に蹴りが付いたんだな。


「お待たせしました。血界の解除に成功しましたよ。ついでに学院の被害者全員をエリアヒール範囲回復で治療しておきました。さあ、年貢の納め時です!」

「さすがアリアさん。でもコイツは私が斃すからね」

「そういうことだ、俺らは逃げられない様にしておこう」

「わかりました。でも危険な時は介入しますからね、アヤちゃん」


 念の為リーシャに念話を送る。


(リーシャ無事か?)

(カリナ? ええ、もうみんな大丈夫みたいだけど。カリナは一体何者なの?)

(それは……。大丈夫なら良かったよ)

(え、ちょ――)


 念話を切った。これ以上は危険に巻き込みかねない。知られると制約ギアスで縛る必要まで出て来る。安否がわかればそれでいい。

 さて、アヤの闘いに集中しよう。そう思った時だった。遠く南の方で何かが動く様な気配を感じたのは。


「これは……? クリスタルの塔?!」


 アリアの星の目スター・アイには視えているのか? 


「アリア、何があった? 説明してくれ」

「魔王領に巨大な天を衝くほどの青い塔が出現しました。しかもこれは……、恐らく大虐殺で滅んだはずの機械文明の技術? ルクス達が見つけた地下帝国の人間が姿を現したということですか……?!」

「逃げられたんじゃなかったのか? なのに何故わざわざ自分達から姿を現したんだ……?」

「わかりません。しかしあんな物には天上からジャッジメント裁きのヘヴンズフォールが発射されます。ほら!」


 空を白い稲妻が駆けて行くのが一瞬見えた。同時に南の魔王領の方から凄まじい轟音が聞こえて来た。


「やったのか?」

「いえ……、どうやら避雷針、しかも神鉄製の避雷針で雷が散らされました。これは恐らくデマキナが用意したものでしょうね」


 その時、空を巨大なスクリーンの様にして映像が映し出された。しかも3D映像の様な立体的な映像だ。何て科学力だよ……。そこにはアガシャ達の証言にあった、機械仕掛けのスーツの様な衣服を着た老人が映し出されている。そしてその老人が口を開いた。


『早速いかづちとは無粋な神々よ。この世界ニルヴァーナの諸君、ごきげんよう、初めましてだな。私は地下帝国バベイルの皇帝イグナーツ。諸君らは知っているか? この世界が且つて二度も神々の身勝手な行いで崩壊したということを。そしてその非道を『大虐殺』と呼んでいることをな。我らはその生き残り。裏切った神の気まぐれでその暴虐を回避した者だ。蒙昧な諸君らは知らないであろう? 神の愚行で科学が発展することを不可能とされた愚かな者達よ。聞け、世界の指導者達よ! 今こそ立ち上がるべき時なのだ。傲慢な神々にこの世界を好き勝手に改竄されるのには我慢がならぬ。我々は神々へと復讐する。我が帝国にこうべを垂れるのならば傘下に加えてやっても良い。だが勘違いするな。これは要望ではなく強制だ。我らに歯向かうと言うのなら、それは天上の腐った神々と同様滅ぼすべき存在。諸君らの科学力では我が帝国に歯向かう術はない。まあ数日の猶予は与えてやろう。それでも従わないと言うのであれば、我々は全世界の国々に対して宣戦布告する。挨拶代わりだ、受け取りたまえ』


 イグナーツがそう言った瞬間、南から空を幾重にも白く輝くレーザーが駆け巡った。アリアが星の目スター・アイを展開して見せてくれたのは、それらが各国の手前の大地を大きく穿ったという惨劇だった。勿論今いるバルドリード公国の南門手前にもレーザーによって爆発が巻き起こり、大地が爛れていた。


『次は全国家の都市の中心部に今のを放つことになる。命が惜しければ我がバベイル帝国に服従することだ。そうそう、この世界には悪魔と呼ばれる面白い存在がいるのだな。今や悪魔共もこの帝国の一員。服従か死か? 懸命な判断を待っているぞ! ハーハッハッハッハッハ!!!』


 全世界が騒然となる。アリアの星の目スター・アイはそこまでを見せてくれた。そして空に映し出されていた映像が消えた。


「何ということを……! この世界の管轄者として黙ってはいられません!」

「落ち着け。一刻を争うのはわかる。だが先ずはこのクズを葬送してからだ!」


 ローズルキーの方を向き直る。この事態を愉しむかの様にニヤニヤとにやけていやがる。


「ククク……、面白いことになったなあ? 俺もあの帝国とやらに力を貸してやろうか」

「いいや、テメーはここで死ぬ。逃がさねーよ」

「そうよ。あなたはここで仕留める!」


 アヤに念話を送る。


(時間が惜しくなった。先に俺がアイツの動きを封じる。その隙に粉々にするんだ)

(ええ、ありったけのやつをお見舞いしてあげる)


 刀の形状になったニルヴァーナで抜刀術の姿勢を取る。さあ、いくぜ!


「アストラリア流抜刀術」


 ブンッ! ドズンッ!


「がはあっ!?」

飛龍ひりゅう!」

 

 抜刀の勢いのまま抜いた刀を投擲する。それがローズルキーの土手っ腹に突き刺さる! 


「くっ、覚えていろ! ?! 何故だ!? 転移できないだと?!」

「バカが、その刀は俺と魔力の糸で繋がっている。そこからお前の魔力に干渉して魔力の流れを妨害しているんだよ。そう何度も逃がすと思ってるのか?」

「くそっ! ならばこの剣を抜くまでだがはああああああ!!!」


 バチバチバチバチィ!!!


 ニルヴァーナが金色に輝く稲妻に変化する。


戦型せんけいらい。超高圧の電撃だ。最早痺れて動けないだろ? 今だ、アヤ! やれ――!!!」

「羽搏け私の神気よ! 今こそ悪を絶つ時! アストラリア流細剣スキル・奥義!」


 最高潮まで高まった神気に神衣が輝く! アヤが右手を後ろに引き、精霊剣ルティに左手を添え、痺れて動けなくなったローズルキーへと渾身の突きを放つ構えを取る!


 ドンッ! 


スターペネトレイトをも穿つコメット彗星ー!!!」


 力強く踏み出して放つ、至近距離からの光速一点集中刺突! 強烈な神気を纏ったその一撃は前方の空間を大きく穿ち、その空間ごと全てを貫き消滅させる!


 ドゴアアアアアアアアアアアア!!!!!


「うぐああああああ!!! くそっ、こんなところで力尽きるとはああああ!!! ウギアアアアアアアアアア!!!!!」


 シュゥウウウウウウウウウ……


 極光の塊に飲み込まれてローズルキーは完全に消滅した。全く、今回はたった一匹に手間取らされたぜ。しかも次の問題が降って来やがった。 


「うん、ちゃんとアイツの神格が降り注いで来てる。これで完全に消滅させられたね。良かった……」

「そうだな。まさかここまで梃子摺てこずるとは思わなかったけど、任務達成だ」

「やれやれです。しかしバベイル帝国はやってくれましたね……。最早制約ギアスも意味を成しません。天界の機密や禁足事項が知られてしまった。ジジイに会いに行かないといけません。二人は学院に話を着けたら一旦自宅に戻っていて下さい。再攻撃までに何とかする必要がありますし、ルクスやサーシャも天界にいるみたいですからね」

「そうか、わかったよ。オッサンによろしくな。取り敢えず友達くらいにはさよならを言って来るさ」

「アリアさん、早く戻って来てね」

「はい、絶対に刺激しない様にして下さい。奴らが悪魔とも結託した今、例え生き残りとはいえ殲滅することになるとは思いますが……」

「『神々の業』だって言いたいんだろ? でもな、俺もこの世界に生きてるんだ。あんなあからさまな悪を片付けるためなら、俺だって悪魔になれる。この世界を護るって、こいつを手にした時に決めたんだ。それに俺達はみんな仲間で家族だ。少しでもいいから、一緒にその業を被らせてくれよ。死んだら地獄でちゃんと裁いてもらうからさ」


 手元に戻って来た神剣ニルヴァーナを握り締める。


「そうだよ。あんなのって絶対に許せない。アリアさん、私達をもっと頼ってね」

「カーズ、アヤちゃん……。ありがとうございます。今の言葉だけでも本当に嬉しいです。それでもあなた達には……、そんな業を背負わせたくないって思うのは神の傲慢でしょうか……?」


 いつもより力がない。業とはいえ、アリアには大虐殺は辛い思い出だろうしな。


「いや、ただの我が儘程度だよ。だから気にするな。神とか言う前に俺達の姉さんなんだろ? だったらその我が儘にくらい付き合うさ」

「うん、そうだね。お姉ちゃんなんだから、もっとしっかりしてくれないと」

「ありがとう、二人共。では学院長には念話を送っておきます。友人達にお別れを言ったらリチェスターで待機しておいてくださいね。では行って来ます!」


 シュン!!!


 アリアの気配が消える。天界に向かったのだろう。しかし、バベイル帝国か。ナギストリア達なら何か知ってるかもしれないな。戻ったら聞いてみるとしよう。

 バトルドレスを男性体用に切り替える。性別は今のままでいいか。とりあえず挨拶だけはして行くとしよう。勝手に消えたら感じ悪いもんな。



 ・


 ・


 ・



「―――と言うことで、カラー姉妹はこの学院の行方不明事件を解決しに来てくれたSランク冒険者だったということです。私も今学院長から聞いたばっかりで、まだ混乱してるけどね……。道理で何でもできるわけよね……」


 リディア先生がエメラルドグリーンの髪をした頭を掻きながら説明してくれた。いやいや、何でもはできませんってw SSは伏せておいた。数人しかいないからすぐバレてしまう。


「みなさん、短い間でしたがお世話になりました。悪魔が学院に潜んでいたので、それの討伐に来ていたんです。でも、もうそいつはやっつけました。ですからみなさんは、今世界は大変なことになっているけど、それは我々が何とかしますし、自らの力を磨くことに尽力して下さい。力がないと何も守れない。だからと言って理不尽な力を振りかざすのは間違っています。正しい力の使い方を学んで下さい。そしてもし誰かがいつか冒険者になったのなら、一緒に冒険が出来ることを楽しみにしています。仲良くしてくれてありがとう。学生時代を思い出して、楽しかったです。みなさん、お元気で。以上です。失礼します」



 みんなからの拍手やお礼の言葉を受け取って、一礼してから教室から出る。そこには既にアヤが待っていてくれた。


「じゃあ行こうか、カリナ?」

「うん。でももうその名前を使う任務はやりたくないけど」


 


 ほんの数週間程度だったが、懐かしく感じる校舎や施設を歩いて抜ける。色々あったな……、剣や魔法の授業に作法、お腹が痛くもなったし久々に泳いだ気もする。前世では荒れてたから真面目に授業受けてなかったしなあ。もう一度学生生活を満喫できたのは嬉しかったかもね。結果的に別れることになるとわかってたけど、みんな良くしてくれた。さようなら二度目の学生生活。



 南にある学院の門を潜る。さて、転移でリチェスターに戻るかという時に後ろから声がした。


「「「カリナ!!!」」」


 振り返ると、リーシャにヴォルカ、シュティーナが追いかけて来ていた。かなり走ったのだろう。息が乱れている。


「やだよ、折角仲良くなれたのに!」

「そうだよ! もちょっとゆっくりして行ってもいいじゃねえか!」

「まだあなたから色々と学びたいんです!」


 参ったな……、湿っぽいのは苦手なんだよ。魔力をコントロールして、男性体に戻る。嫌われた方がいいかも知れないもんな。三人には俺のことは忘れて、人として生きて欲しい。俺の胸が縮んで少し背が高くなったことに驚くリーシャ達。


「俺の本当の名前はカーズ・ロットカラー。潜入任務の為に魔力で女性体になっていたんだ。姿と名前を偽っててごめんな。でもここから先は俺達がやらないといけない問題が沢山ある。みんな俺のことは忘れて人として生きていってくれ」

「カーズ?! あのSSランク冒険者の?! 魔法ヴィジョンでSランクマッチを見たことがあるぞ……。似ているとは思ってたけど、まさか本人だったなんて……!」

「じゃあ隣の妹さんは……、元クラーチのアヤ姫様ですか?!」


 あー、あの試合は世界中に放映されてたんだったか。最初の認識疎外のかけ忘れは響いたな。アヤも今は認識疎外を解いている。だからシュティーナに認識されたんだろうな。


「ええ、そうです。任務とはいえ、あなた達にはお世話になりましたね。ヴォルカ姫も幼い時に少しだけ面識がありますよ。立派になられましたね」

「いえ、そんなこともわからず失礼致しました!」


 ガバっと頭を下げるヴォルカ。残りの二人もその場に跪いた。


「私はもう王族ではなく冒険者です。カーズ達と共に世界の危機と闘っています。そんなことはしなくても結構ですよ」

「「「しかし……!」」」


 まあ、一国の元姫様だしなあ。そういう態度にもなるか。


「気にすんなって。アヤも気にしてないから」


 頭を上げて立ち上がる三人。


「じゃああねさんは?! 実況してた人だよな?」

「あいつはこの世界の唯一神、アストラリアだ。俺達はその神格を受け継いだ姉弟姉妹きょうだいしまいみたいなもんだよ。あのクソ帝国が好き勝手言った以上、今更隠しても仕方ないしな」

「マジかよ……!」

「「なななな……!?」」


 まあそりゃ驚くわな。俺らはもう普通の人間じゃない。


「カリナ、いやカーズかあ……。本当は男の人だったんだね」

「うん、ごめんリーシャ」

「ううん、任務だったんだし、仕方ないよ。それに別に嫌じゃなかったよ?」

「そうか、そう言ってくれるなら良かった。多少は罪悪感があるからさ」

「どの道凄い美人だしね。でもそれなら……」


 急に抱き着いて来たリーシャにキスをされる。マズイ、アヤの前だ。後で怒られるな。そのまま離れるリーシャ。あーあ、これは忘れろと言うのは酷だな。


「えへへ、ファーストキスだよ。大好き。いつかまた会えるといいな。私も冒険者になるから。強くなって一緒に冒険できるよう頑張るから。カリナ、いやカーズも元気でね」

「……全く、思春期は怖いな。ああ、その時が来るのを楽しみにしてるよ。俺達はリチェスターに住んでるから、いつでも遊びに来てくれ。それじゃ、行こうアヤ」

「うん、みんな元気でね。転移リチェスター」


 ヴゥンッ!!!






「行っちまったなー」

「そうですね。いつかまた会えるでしょうか?」

「うん、みんなでリチェスターに遊びに行こうね。それまで、さよなら……私に『勇気と覚悟』を教えてくれた人……」



 リーシャ達は暫くの間、北東のリチェスターの方角の空を眺めていた。



 

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大虐殺と向き合うことになる、一つのテーマとも言えます。

さあ、どうなるのか・・・

続きが気になる方はどうぞ次の物語へ、♥やコメント、お星様を頂けると喜びます。執筆のモチベーションアップにもつながります! 

一話ごとの文字数が多いので、その回一話でがっつり進むように構成しております。

今回のイラストノートは此方、

https://kakuyomu.jp/users/kazudonafinal10/news/16817330669683171620

そしてこの世界ニルヴァーナの世界地図は此方、

https://cdn-static.kakuyomu.jp/image/d5QHGJcz

これまでの冒険と照らし合わせて見てみて下さい。

そして『アリアの勝手に巻き込みコーナー』は此方です。

https://kakuyomu.jp/works/16817330653661805207

アリアが勝手に展開するメタネタコーナー。本編を読んで頂いた読者様は

くすっと笑えるかと思います(笑)

そして設定資料集も作成中です。登場人物や、スキル・魔法・流派の解説、

その他色々とここでしかわからないことも公開しております。

ネタバレになりますが、ここまでお読みになっていらっしゃる読者様には、

問題なしです!

『OVERKILL(オーバーキル) キャラクター・スキル・設定資料集(注:ネタバレ含みます)』

https://kakuyomu.jp/works/16817330663176677046


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