第四章 73  燃える里・思わぬ刺客




 カーズ達がメキアに乗り込む直前、ディードとバサトは一足先にクラーチ王国に転移で送って貰っていた。

 既に事情を聞いていた国王フィリップから、王国騎士団長のクレアを含む約十数名の手練れの騎士達、その中にはギグスとヘラルドの姿もあった、と馬を借りて王国の北東にある自由都市ライデンとの国境近くのエルフの里を目指した。

 馬で数時間の距離だが、時間が惜しい。騎士団の馬と自分達にアクセラレーションを重ね掛けし、ディードは縮地で更に加速しながら全速力で走り、バサトと約一時間足らずで里の近くまで到着したのだが……。



「そんな……、あの偽物の法律が発表されたばかりだというのに……」


「くそっ…、ナギトとフィリップの嫌な予想が当たりやがったってのか……」


 遠くからも赤い光が見えてはいたが、手前の小高い丘まで来て、それが確信に変わった。


 エルフの隠れ里が、森が、燃えている……。


 全焼とはいかないが、広大な森の三分の一は火の手が上がっている。そして炎に追われて里から抜け出した人々が、30人以上はいる野盗の様な連中に次々と捕えられては隷属の首輪を填められ、連行されて行く。そんな絶望的な光景が目の前にあった。


「おのれ……、よくもわたくしの故郷を…!!!」


 どうなろうが、里を抜けた自分には最早関係ないと思っていた。双子の姉と違い妹の自分は忌子いみごと言われ、差別されて育って来た。大嫌いな里だった。ユズリハと双子の妹のユウナギの仲睦まじい関係を心底羨ましく思った。クラーチで冒険者となっても、今迄の積もり積もった感情の鬱憤は完全には晴れなかった。そしてそんな愚かな部分につけ込まれた。

 だがカーズと出会い、彼の仲間達や家族と過ごす内に、本当の家族の温もりを知ってしまった。彼に会えて、里を抜けて良かったと……。

 それなのに…、この光景を見たときに自分が感じた感情は『怒り』だった。優しい人達も、心を寄せてくれた友人も少ないながらもいた。姉と扱いは違っても、妙な名前を付けられても、育ててくれたのは紛れもなく両親だった。


「いいか、もし里が襲撃されたら、友人や家族が被害に遭ったら…、後悔はないのか? 理不尽に嫌な目に遭って来たんだ、悩むし複雑な気持ちなのはわかる。でもな…、失ったら終わりなんだ…」


 カーズは5,000年という永い時間、何度も大切な人、アヤを失い続けてきたと聞いた。そして前世ではこの優しい両親も……。誰よりも大切な人を失うことの苦しみと痛みを知っている彼には、自分のちっぽけな心など簡単に見透かされてしまったのだ……。


「我が名はディード・シルフィル!!! この里で育ったエルフだ!!! これ以上の狼藉は、女神アストラリア様と、その闘士カーズ様の名の下容赦はしない! 死にたくなければ今すぐ退け! 退かぬなら…、この場で全員斬り捨てる!!!」


 且つての自分では絶対に出ることなどなかった言葉が口を吐いた。賊の一団が此方を見てざわつき始める。


「良く言った、嬢ちゃん! 俺は面倒くせえ、お前らみてーなクソ野郎共は片っ端から斬り伏せてやらあ!!! いくぜ!」


 女神刀を抜いたバサトが野盗の集団に猛スピードで突っ込み、次々に賊共を斬り裂いていく!


「お義父様、わたくしも参ります!」


 ダッ!


 丘から飛び降り、LRWライトローズ・ウイングを抜く!


「ハアアアッ!!!」


 ザヴァアン!! ズシャアッ!! ドシュッ!!!


「「「ぐぎゃあああああ!!!」」」


 里のエルフ達を連行している奴らを剣技で蹴散らす!


「次に斬られたいのは誰だ!!!」


 里の内部の方へはバサトが一人で向かった。ならば斬り捨てるのは目の前の十数人。鑑定、どいつもレベルは50程度。賊にしては高いが、この辺りを根城にしている連中だろう。今の自分のレベルは日々の厳しい格上との鍛練に、魔人戦、大迷宮攻略と、短期間で1,000を超えた。この程度の賊共など何百人いようが物の数ではない!


「調子に乗るな! こいつも捕らえろ!!」


「「「おおおおおお!!!」」」


「無駄だ!!!」


 ギャリイイイイイーン!!!


連接剣ウィップソード・アーツ・スネーク・バインド!!!」


 武器を手にして向かって来た野盗の5人程を纏めて搦め捕り、その勢いのままズタズタの肉片に斬り裂く!


 ジャキッ!


「くそっ! 何なんだアイツは?! お前ら、先にコイツに数でかかれ!!」


 賊の頭らしき奴が部下共に命令すると、エルフ達を捕らえていた数十人全員が武器を抜き、此方を標的に定めて向かって来る。今迫って来る連中を消せば最早勝負は着いたも同然だ。


「「「おらあああああああ!!!!」」」


 次々と向かって来るが、もう遅い! 既に発動させる魔法は構築済みだ。剣先を向けると、魔力ブースターの薔薇が美しく咲き誇る!


エアリアル・ブレード大気の圧縮刃!!!」


 ズヴァアアン!!! ザシュシュシュシュッ!!! ザアアアン!!!


 手下共は全て風圧の刃で全身を一瞬で斬り裂かれた。これ程までに成長していたとは…。超成長の恩恵とは凄まじいものなのだと実感する。

 そうしていると里のエルフ達がディードの正体に気付き始めた。


「あれは…、誰だ…?」


「イヤミーナじゃないのか…? 髪の毛は短くなっているが…」


「おい…、それってあの忌子いみごの……」


「まさか…、里を抜けたあの娘が助けに来てくれたというのか…?」


「いや…、もう一人、人間の男もいた…。復讐に来たのかもしれん…。気を許すな!」


「でも名乗った名前は違ったぞ。しかも貴族姓は風の精霊の名だ……」


 子供達の鳴き声や、助けを喜ぶ者、こちらの素性を訝しむ者達の声も聞こえて来る。だが今の彼女にとって、そんな些末なことはどうでもよかった。里を捨てたのは事実なのだから……。誰が何を言おうが、ここを死守することがカーズと仲間達との誓いなのだから。


「さて…、残りは頭の貴様だけだ……」


 ジャキィン!!


 賊の頭の眼前にLRWライトローズ・ウイングの切っ先を突き付ける。


「く……っ、たかが二人にここまでやられるなど……」


 おかしい……。たかがこの程度の賊共に手練れのエルフ達が負けるはずがない。なのにほぼ無抵抗で捕らえられている。森の中は迷路の様な結界、信用の置ける相手としか交易もしていないはず…。それにこれ程の火力、エルフの里の奥の清らかな水源で満たされているこの森が、燃えるなど……。

 恐らくまだ大将格がいる。探知に気配はないが、エルフ達は皆、鑑定すると弱体化状態になっている。里全てのエルフを弱体化させるなど、並の相手ではない。里の内部に入った賊共は既にバサトが一掃し、此方へ向かって来ている。


「貴様はなぜこんなにも都合のいいタイミングで里を襲撃した? メキアからの通信は各国の都市内部でなければ聞こえないはず…。黒幕は誰だ…? 言え! 言わなければ…、今すぐ首が胴体から離れることになる!」


 レイピアを賊の首筋に傷が入る程強く突き付ける。


「ぐっ…、お、俺達はここのエルフを奴隷にすれば、報酬を山程やると言われたんだよ…。アガリアレプトという名前の女から…。そいつがくれた魔道具を使ったら、とんでもない炎が森に巻き起こったんだ……」


 アガリアレプト? 以前カーズがいた世界の魔導書、そこに記された序列三位の悪魔だったはず…。しかしそんな上位の魔人の瘴気に触れていれば、こいつらはそれに侵されてまともな状態なはずがない……。どういうことなのか…?


「そいつは何処にいる、言え!」


 プツッ…


 切っ先を喉元に突き入れる。


「ま、待ってくれ! 近くで見ていると言っていたが、どこかまでは知らねえ! 俺達はもう手を引く! 頼むから命だけは助けてくれ!!!」


 こいつは本当に知らないのだろう…。この状況で嘘が吐けるはずがない。それにエルフ達を弱体化させたのはそいつだ、近くにいることは間違いないだろう……。


「もういい…、失せろ! 二度とこの里に近づくな……」


 振り向き際に舌打ちをして、一人で逃走を始める賊の頭。奴は狼の獣人だった。斬り捨てた賊共もあらゆる人種が混ざっていた。いや、兎に角、アガリアレプト……、その女を見つけなければ…。


 ドゴオオオオゥッ!!!


「なっ?!」


 逃走していた賊が炎の柱に包まれて消滅した。悪魔の仕業に違いない……。


「ハハハハッ! 全く人族というのは使えない奴らしかいないな! さあ、第二幕の始まりだ。精々楽しく踊ってみせろ!」


 上空10m辺りの何もない虚空から、巨大ないかつい鎌を持った女が現れる。これは以前ナギストリアが現れたときと同じ。亜空間に身を潜めていたということか?


「貴様がアガリアレプトか?! カーズ様の知識にあった奥義書とやらの序列三位。なぜ貴様の様な悪魔がここにいる!?」


 剣先を向けながら話しかけると、アガリアレプトはふわりと地面に降りて来て嗤い始めた。


「フフフッ、悪魔だと? 私は火と水を司る精霊。お前達の処へ寝返ったフルーレティと同様、霊素エーテルを操ることができる存在。下等な悪魔如きと一緒にするな。それとその下らない序列、それは正しい強さの順などではない。6柱の中の最強は私なのだからな。それに奴隷制の法律が公布されることなど既に決まっていた。ここに来れば特異点の仲間が釣れると思っていたぞ」


「なぜ…? なぜ精霊が悪魔や堕天神の味方をするのです? ルティは精霊なのに悪魔の仲間にされたことを心底嫌がっていたというのに……」


 薄いベージュのロングヘア、赤いサークレットに炎の様なマントを羽織り、体は濃い水の色を表す様な青いドレスアーマー。黒いブーツを穿いた若い女性の外見。しかし持っている大鎌は禍々しく黒光りし、不気味な装飾が施されている。


「全ての精霊が人族の味方だとでも思っているのか? 私達精霊は本来何物にも属さず、気ままに世界の自然を正常に保ち、静かに過ごしているのだ。そして私達は太古の昔から何度もリセットされてきたこの世界を知っている。お前達人間が自らのことしか考えずに自然を破壊し、互いに利権を奪い合う愚かな戦争を繰り広げてきたせいで……、この世界は二度も崩壊したのだ! お前達は種族を分けられても、さっきの賊の様な腐り切った連中が必ず現れる。魔物という共通の敵を創造しても、人族は己の利益の為に奪い、殺し合う…。私はもう穢れた人間共の魂にうんざりしているんだよ。それならば…、堕天神や下等でも人類を滅亡に導くという明確な目的を持つ連中の方が、善悪どちらにも染まらずに諍いを繰り返す人族よりもまだマシだと思っただけのこと。私の配下の悪魔共も、お前の仲間の神々に消されたみたいだが…。それならばお前達特異点の仲間の首でも取れば奴らへの手向けくらいにはなるだろう。私と出会ったことの不幸を呪うがいい! 来い! タリヒマーレ、エレーロギャップ!」


 ドゴアアアアアッ!!!  ザヴァアアアアアン!!!


 アガリアレプトの両側、右手に炎の巨人の上半身、左手に水龍の上半身が現れる!


「くっ…、問答無用ということか……」


「さあ、役立たず共、貴様らも不死者となって少しは役に立て! リザレクト・アンデッド不死者としての復活!」


「ウ、グ、ガガ…」


「グ…、ガアアアアア!!」


 先程全滅させた賊共がアンデッドとなって、動き始める。この状況はマズい…。精霊相手にこちらのスキルが通用するかもわからない上に、強化されて蘇った数十人。未だに森も燃えている状態では、隷属の首輪を着けられたエルフ達も逃げ場がない。


「ハハハ、堕天神から与えられた将軍という地位の影響で、魔法と言うものを使える様になったが…。中々に便利だ。さあ、先ずはそこのディードというエルフを血祭りにしてやれ!」


 精霊の霊力に魔力の両方が扱えるということか。里のエルフ達は魔法で弱体化させられていたということだろう…。そうでなければあの程度の賊如きに遅れを取ることなどなかったはずだ。


「ハアアアッ!!!」


 ギャリイイイイイーン!! ザキンッ!! ザシュッ!!


 連接剣ウィップ・ソードでアンデッド共を斬り裂くが、手足が多少ちぎれようが怯まずに向かって来る。死者には最早痛覚などないということだろう。


「ディード殿、無事か?!」


 遅れながら、クレアをはじめとした十数名の騎士達が到着した。


「ええ、今のところは何とか……。ですが、あの大鎌を持った精霊を斃さなければキリがありません。クレア様、騎士団はアンデッドを御願いします! すぐにバサト様も此方へ来られる。里の内部にもアンデッドが現れた可能性がある。わたくしとバサト様で、あのアガリアレプトの相手をします!」


「承知した。王国騎士団の精鋭達よ! 我らはアンデッドを討つ! カーズ殿から受けた恩を今こそ返す時だ!」


「「「ハッ!!!」」」


 馬から降りた騎士団達は連携してアンデッドを仕留めていく。


「受けよ! 我が炎の一撃を! 斬り裂け、フランベルジュ!!」


 クレアはカーズの創造武器である炎の剣で、アンデッドを次々と焼き尽くしていく!


「くそっ、アンデッドってのは気味が悪いぜ!」


「ギグス、集中しろ! カーズへの恩を返すときだ」


 成長したギグスにヘラルドのコンビも連携してアンデッドを仕留めていく。戦況は大きく変わった、あのアガリアレプトを斃せばこの場は収まる。


「悪い、嬢ちゃん。ちょっと遅くなったぜ、って何だありゃ?! 炎の巨人に水の龍?」


 里の内部から戻って来たバサトが目の前の敵に驚く。


「お義父様、わたくし達二人であの大鎌の女を斃します。あれは人族に敵対する精霊…、ここで止めなくては危険な存在です」


「よーっしゃ、いいぜー。だが精霊か…。霊素エーテルを力の源としている連中だ。それが使えない俺達にとっては神気を使う奴らと闘うことと同じ様なもんだ。俺が両サイドの炎と水をやる。大将首は嬢ちゃんに譲ってやるからな」


「はい、ではゆきましょう!」


 ドンッ! ダンッ!


 ディードとバサトの二人が駆け出し、アガリアレプトと二体の召喚された霊体へと距離を詰める!


「ハアッ!!!」


 ガギィン!!


 繰り出した斬撃は巨大な鎌で軽々と防がれる。


神刀技しんとうぎ八岐大蛇ヤマタノオロチ!」

 

 ズザザザザキィーーン!!!


 バサトの神刀技が炎でできた上半身のみのタリヒマーレを斬り裂くが、手応えがない。


「何だ、確実に斬ったはずだ?!」


「そいつらは霊体、物理攻撃が効くわけがなかろう。多少武器に魔力が籠っていようが、霊素エーテルが無散させてしまうのだ! 我が体に宿れ、エレーロギャップ!」


 バシャアアアア!!! ゴオオオッ!!!


 水龍がアガリアレプトの体を覆うと、大鎌が巨大な水で構成された大剣へと姿を変える。彼女自身も水のオーラを纏い、装備が水色に変化した。


「受けろ、人間共! ポイゾナス・メロウ!!!」


 ドパアアアアンッ!!!


「きゃあああ!!」


「うああああ!!」


 水剣から放たれた激しい水流を受け、後ろへ吹き飛ばされる!


「くっ、何だ…? 何の外傷もねえ…。何だったんだ今のは?」


「ええ、こちらもそうです。ですが、何かの影響を受けたのかも知れません……」


 立ち上がり、再び剣を振るう!


細剣技レイピア・アーツ天星衝てんせいしょう!!!」


「神刀技・水龍すいりゅう!」


 ディードの一撃はアガリアレプトの水で構成された様な体をすり抜け、バサトの水の魔力を纏った一撃、水龍はタリヒマーレに多少のダメージは負わせたが、ほぼ無効化されている。その後もあらゆる攻撃や魔法が意味を成さない状況が続く……。





「無駄だと言ったものを…。そろそろ体が言うことを訊かなくなってきただろう? お前達の顔を見ていればわかるぞ」


 呼吸が荒くなり、眩暈がする。頭痛がし、吐き気を催してきた。


「ハァ、ハァ…、こ、これは一体…?! 呼吸が……、目も霞んで、意識が…」


「くそっ、体、が、言うことを、訊かなく、なって、きたぜ……」


 急激に体の力が失われ、その場に膝を着く。視点も定まらなくなってきた。


「水毒というものを知っているか? お前達人類の体は60~70%が水で構成されている。先程放ったポイゾナス・メロウがじわじわと効いて来たということだ。水毒とは水分の過剰摂取で引き起こされる症状。私がお前達に撃ち込んだのは純粋な水。水分の多量摂取は血液中の塩分濃度を低下させ『低ナトリウム血症』という症状を引き起こす。眩暈や頭痛、吐き気や嘔吐、錯乱、意識障害、呼吸困難などの症状が現れ、麻痺した様に体が動かなくなり、やがて死に至るというものだ。大人しく意識を投げ出せばメロウの如く心地よい陶酔の間に死を迎えることができる。もう足掻くな。その陶酔のまま、苦しまずあの世に旅立つがいい」

 

「くっ、う、が、はあ…。こんなところで、死ぬ、訳には、いかない…。カーズ、様との約束、を、この、里、を守らなければ……」


「く、そっ……、体が……動か、ねえ……」


 ドシャッ! ダンッ!


 二人して、地面に力なく倒れる。意識が朦朧とし、耳鳴りがする。このまま目を閉じれば、苦しまずに死ねるのかも知れない。だが、このまま死ねるはずがない! 新たな名を貰い、漸く共に闘える様になってきたのだ。ここで意味なく無駄死にすることなど、自分が自分を許せない。


「くっ……、キュアラ!」


 状態異常回復の魔法を唱えるが効果がない。


「無駄だ、それは自然現象の様なもの。外部から毒を撃ち込まれたり、魔眼などの強制的な状態異常とは違う。ただの水分の過剰摂取なだけだ。それにその状態では魔法を唱える為の魔力を上手く練ることなどできん。その装備に色々と付与されているみたいだが、自然現象で減り続ける体力を回復することなどできないだろう」



「くそっ、やっぱりあいつは忌子だ!」


「あいつがあんな化け物を連れて来たんだ!」


「この里はもう終わりだ……、あの忌子を生かしておいたからだ!」



 遠くから自分を詰る声が聞こえて来る…。だが、何と言われようと自分はカーズ達との約束を果たすのみ!


「う、ぐ…、ああああああっ!!!!」


「嬢、ちゃん……やめ、ろ!! 死ぬ、ぞ…!」


 最後の力を振り絞って立ち上がる。感覚がない腕に力を入れ、LRWライトローズ・ウイングを握る。


「フッ、闘志だけは見事だな。ならばタリヒマーレよ我が体を纏え!」


 ゴオオオオゥッ!! ゴゴゴゴ……!!!


 炎に包まれたアガリアレプトの武器が炎の槍に変化する。


「ハアアアッ!!! 連接剣ウィップソード・アーツ・クイーンビーズ・ネット!!!」


 最早霞んで朦朧とした目で、力など無きに等しい麻痺した体で大技を放つ!


「さらばだ誇り高きエルフの闘士よ! デッドエンド・フレイムトルネード!!!」


 ズンッ! ゴオオオオオオッ!!!


 オリハルコンのマジックドレスを貫通する程の威力の、炎の槍の竜巻の様な突きが、ディードの胸を貫いた。


「が…、ハッ、……ご、めん、なさい、…カーズ、さ……ま……」


 ガダンッ!


「く、そっ、…、済まねえ…ナギ、ト…」


 最早亡骸となったディードの横で、バサトも意識を失った。


「フッ、所詮は人族。闘志だけでは勝てんのだ。さあ王国騎士団とやら、次はお前達の番か?」


 アンデッドを片付けた騎士団の方に向き直るアガリアレプト。


「あの二人が……。だが退くわけにはいかん! 総員構えろ!」


 フランベルジュを持つ手が震える。クレアに騎士団が死を覚悟した時だった。


 シュンッ!!!


 カーズと彼にしがみ付いているイヴァリースが転移で到着した。


「か、カーズ殿!?」


「クレアか…、ディードとクソ親父はどこだ?」


「そ、それが……」


 クレアが指差した方向を見る。そこには地面に転がった二人。胸に重傷を負って既に息をしていないディードと、意識を失っているバサトの姿があった。


 ドゴオオオオオオオオッ!!!!!


 炎の竜巻の如く溢れ出す神気と魔力。白銀に赤の模様の神衣カムイが一瞬にしてカーズの体に装着された。イヴァリースも驚き、カーズから離れる。倒れた二人の近くにニヤニヤと嗤う炎の槍を持った女が立っている。


「お前か…? ディードと親父をやったのは……?」


「フフフ…私はアガリアレプト、腐った人族に制裁を与える精霊にして将軍。そこの二匹は私に剣を向けた愚か者達だ。なるほど、お前が特異点のカーズ――」


 ドズンッ!! ドゴオオオオオ!!!


「ぐ、え…が、あっ!!!」


 カーズの左拳が鳩尾にめり込み、ドラゴングローブから光り輝くブレスが放たれる! 神気を纏った強烈な一撃に、その場に膝を着くアガリアレプト。


「テメーが誰とか聞いてねえ。あの二人をやったのはテメーかって聞いてんだよ」


「が、はっ、……何だ…この力…は?!」


 ゴキャアッ!!! ドガガアアッ、グシャアッ!!!


天馬絢舞脚てんまけんぶきゃく


 うずくまって腹を押さえていたアガリアレプトの顔面に回し蹴りが炸裂する! その威力で地面を抉りながら後ろへと転がり、吹っ飛ぶアガリアレプト。


「げ、ぶっ…!? ぐ、あ、がああ……」


「もう一度聞くぞ…、テメーがやったのか…?」


「く……、そうだ…っ! 私が…この愚かな人族共を地獄に送ってやったのだ!」


 顔を押さえながら、立ち上がるアガリアレプト。だが鼻血が溢れ、口からも激しく流血している。


「…そうか…、俺の大切な仲間と父さんをやったのはテメーか…。後でキッチリ殺してやる。逃げるなよ。イヴァ、暴れ足りないんだったな? この二人を回復させるまで遊んでやれ」


「ニャハハ、さすがにボクを優しく迎え入れてくれた仲間をやられた分は、……キッチリやり返させてもらうのさ…!」


 鞘から聖剣ライトブリンガーを抜くイヴァリース。穏やかだったその目つきが獰猛な肉食獣の様に変わる。



 カーズは怒りを抑え込みながら倒れている二人の元へと向かった。





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漸く到着。

次でリベンジ!


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