第四章 67 特異点と神話の類似性
再びゼニウスに代わって貰った。また人形がオッサンに変化する。意味のわからんところに技術をつぎ込まないで欲しいわ。
「特異点か…、最初に特異点と定めたのは、アリアの天秤で秤にかけた三人の清魂保持者のことを言う。カーズにアヤ、そしてこの世界の勇者のことじゃな。それが徐々に多くの意味を持つようになったのだ、清魂だけでなく余りにも狂暴な
「なるほど…、何かに凄まじく秀でた、突出した才能の持ち主や魂の在り方、世界の運命を左右する使命を与えられている勇者や魔王もそれに含まれるということだな…。じゃあ、それが世界に与える影響とか、なぜ初めて会う者達が俺達を特異点だとわかったりするのかについて教えて下さい」
「特異点の存在は世界に大きな影響を及ぼすのだ。分かり易く言えば魔王はこの世界を破滅に導く為に生まれ、その影響で魔物達が活性・狂暴化する、これだけでも世界にとっては大きな影響であろう? そしてカーズよ、お主がこの世界に帰還してからのこの短期間で、一体どれ程の事態に遭遇したか、思い出してみよ」
「……確かに、魔王の例は分かり易いな。それに俺が帰還してからか……。二日目にアヤが賊に襲われているところに遭遇して、王国で悪魔や邪神とも闘うことになった。その後はナギストラリアに神の試練、
「特異点という存在は周囲の者達に少なからず影響を与えるものだ。特に清魂保持者のお主達は、味方になってくれたり手助けをしてくれる存在が多いのではないか? 例えば、そこのエルフのディードであったかな? 彼女が強く生まれ変われたのはお主の魂の影響に、与えた新名に特異点の力が宿ったからであろうな。アヤが多くの国民に慕われているのも、清魂の影響であろうしのう。お主の帰還がアヤの魂と共鳴し、直後に再会できたのも、多くの事件に巻き込まれているのも、特異点同士が惹かれ合い易く、周囲への影響力が大きいが故じゃ。そして生まれながらの神格者や悪魔、精霊などは普通の人類よりも感覚が鋭い、それでお主達が特異点であると見抜くことができるのであろうな。感覚的なことじゃからのう、余もはっきりとは言えんな……」
「では…わたくしは、もしカーズ様に出会わなければ、未だにあの頃の様に愚かなままだったと。そういうことになるのですか……?」
「うむ、端的に言えばそうかも知れぬ。カーズとの出会いに、与えられた新名にお主は感謝するべきであろうな。そしてそんな影響力を持つものが現時点では7つ存在する。カーズにアヤ、魂の子であるアガシャ、濁魂のナギストリア、勇者に、次代の竜王が魔王にされるとは難儀だったが、その二人。奴らが混沌の時代と言うのも納得ができるであろう? 普通は一つの世界に多くとも3つ存在するかどうかじゃからな」
ディードとオッサンが話しているが、なるほど、影響力ね…、特異点であるが故に色んな事に巻き込まれていた? いや、特異点だからこそ行く先々で何かしらが起こるということか…。どの道巻き込まれ体質は同じじゃねーか!
「そうか…うん、まあ理解できたよ。それにディードにルティ、イヴァを救えて良かったと思っている。ダカルーのばあちゃんも
アリアの隣にいるばーちゃんを見る。
「うむ、お主に会わなければ儂はまだ操られていたかも知れん。魔物と間違われて命を失っていたかも知れんしのう。しかし大神様、カーズは自分の特異点としての凄さに気が付いておらん様じゃが、何故に教えてやらんのですかな? アリア様もそうですが」
「それ大迷宮で言ってたよな? 俺はなんか特別とか。それってどういうことなんです、ゼニウス様?」
「お主は……、本当に自分に無頓着じゃのう。神の試練を突破できる程の者がどれだけ凄まじい魂に心、意志の強さを持っているのか理解しておらんのか? 神ですら突破できない者がおるというのに。その上お主はボロボロの崩壊状態の小さな神格で、前世までを生き抜いた。例え記憶がなくとも、因果や次元が酷く捻じれた世界で永い時を過ごしたことで、お主の魂は
なるほど、ならあの5,000年は決して無駄ではなかったということか。俺とアヤを強くしてくれた試練だった、そういう風に思えば苦しんだ甲斐があったというものだな。二度と経験したくはないけど。
「そうか…、そういうことか。奴らが危険過ぎるとか言うのは、そういう俺の内面を見ているからということなのか…? でもなあ…、俺は自分が特別だなんて思ってないし、思いたくもないよ。そんなイキった勘違い野郎にもなりたくないしな。特異点については、さっきの清魂計画で言った様に、子供が特異点だと親が早死にするとかティミスが言っていたけど、もし俺達の間に子供が産まれたら俺達は死ぬってことなんですか?」
「それはお主達とそのアガシャの魂の結び付きが強かったからであろうな。本当の親であるお主達が異次元で因果に翻弄された副作用の様なものがこの子にも影響を及ぼしたのであろう。同じ世界に戻った以上その様なことは起こらんぞ。他の世界でも存在する特異点は、問題なくちゃんと子孫を残しておるからな」
「そうか…、うん、なら良いんだ。そういう心配はしなくてもいいんだしな。でも俺の両親やアヤの前世の父親が早くに亡くなったのは特異点への干渉が原因だったんだろうな。まあ今死んでるのに元気だからいいけどさ。この世界でもクラーチの残念王に奥さんの姿がなかったのは、俺の帰還が遅れたからだろうな…」
「私もお爺様にお婆様は楽しくて素敵だと思っていますよ、父上。ティミス様から最強の特異点となるべく辛い修行の日々を送っていただけだった私には、今はとても楽しく充実していますから」
「そっか、だったら良かったよ。アガシャはこれからもここで暮らしていくんだ、遠慮はナシだからな」
頭を撫でてやると嬉しそうに頷くアガシャ。最初に会ったときは感情が読み取れなかったが、徐々に明るくなってきたし、これでいいだろう。二度とティミスには渡さんからな。
「よし、じゃあ特異点については大丈夫だ。どうせ魔王の二人は元に戻してやるし、ナギストリアは俺が消す。そうすれば3つの特異点がなくなるから、世界も安定するだろう。だが問題はなぜ7つ揃うことが既にわかっていたのかだ、魔王の器の二人に、俺とアヤ、勇者にナギストリアはわかっていたとしても、アガシャが来ることはあの天界の時点ではわかるはずがない。やはりティミスはあの時点で既に裏で繋がっていたと考えるべきだろうな…」
「なるほど…、そう考えると辻褄は合いますね。さすがカーズです」
お、アリア復活したか? こいつが静かだと調子が狂うんだよな。
「ああ、そういう腹積もりで行動しよう。証拠も出た。ゼニウス様後は頼みます。あいつは害悪でしかない。サーシャにアガシャには悪いけどな。さて次だ、俺が不思議に思っているのはこの世界に現れる悪魔や、神、堕天神も含めてだが、地球の神話との類似性が異常に高いということだ。他にも世界があるはずなのに、何故か地球の神話やらの逸話が色濃く表れている。地球の神々は不干渉と聞いているが、一体何人で何という名前なのかを知っておきたい。更に地球で学んできたことだが、地球の誕生は大体約46億年前と言われている。
「確かにそうだね…、前世でそう学んだし」
アヤも当然知っている、それに過去の遺物なども多く発見されているしな。
「あそこは俺らも行ったことがねえからな、どういう世界なんだ?」
「そうね、基本的にずっと不干渉だけど広いから管理者としては数名の神がいるとは聞いてたけど。そう言えば聞いたことがないわ」
ルクスにサーシャも知らないのか? やはりきな臭いな……
「あそこは大世界でもかなり大きな中心部分に当たる、そしてその46億年前に誕生したのが大世界。間違いではないが、何かしら情報が改竄されておる可能性もあるのう。文化レベルとしてはそろそろ大虐殺が起きても仕方ないレベルの諍いの多さに汚染度だが、特にこれと言った報告も上がっておらん。確かにカーズとアヤの前世の記憶から見る限り、表立って神が何かをしたという形跡はないのう…」
「俺は地球の神は架空のモノと悪魔から聞いた。だが、伝わっている伝承や現れる悪魔の能力、地球の神話や宗教的な逸話は、この世界の神や悪魔と多少名前が異なるくらいで本質的には同じだ。そこにいる神々しかそんな真似はできないだろうと思っていたんだ。誰がそこにいるのか教えて貰いたい」
「うむ、そうじゃな…。何か由々しき事態が起きている可能性もある。あそこには7人の神を送って管理させておるが、この数千年は何の報告もない。アリアにお主を探させた時にも、彼らは接触してこなかったしの。まあよい、では挙げてゆくぞ」
数千年か、紀元前から考えても人類の文明発達と周期的に一致するな…
「一応メモを取っておこう」
寛ぎスペースのテーブルの上から紙とペンを取り出し、準備する。
「では挙げてゆくぞ、ミカヤハウェバ、アラスフラー、シジマールタ、ヴァルナスタマズダ、グルマハーヴァル、ブラヴィシュヴァに
「そいつらかなり古参じゃねーか、オヤジ。何楽させてんだよ?」
「古参のベテランだからこそ任せたのでしょうけど、そんなに信用できそうな方々が報告をせずに人間に好き勝手させているというのは気になるところね…」
「私は面識がありませんね…。カーズを見つける為に地球を探索していた時にも、これと言って何も感じませんでしたし、コンタクトも気配もありませんでした…」
アリア達もあまり知らないのか? しかしメモに書いた挙げられた名前、やはり微妙に
「何かわかった?」
アヤがルティを膝に乗せたまま訊ねて来る。ルティは寝てるのか。同じく右隣のイヴァも俺にもたれて寝ている。いい気なもんだなあ。
「ああ、わかった。引っ掛かると言うか、サーシャやルクスの名前が地球では捩って変えられていたのと同じだよ。どれも地球での宗教の最高神や称えられる対象として自らを祭ってある。地球自体がそれほど大きいなら信者数も稼げるし、自分達の力を信仰によって増幅させるには調度いいのかもな…」
「ほう、教えてくれぬか? カーズよ」
「じゃあ先ずは最初のミカヤハウェバ、こいつはミカエル、ヤハウェ、エホバという様にキリスト、ユダヤ教関連の崇められる対象だ。キリスト教を創らせたのはこいつだろうな。次にアラスフラー、これは太陽神アラーだろう、イスラム教関連の神だ。シジマールタは釈迦の本名であるゴータマ・シッダールタだろうな。仏教に関与している。そしてヴァルナスタマズダ、これはヴァルナとアフラ・マズダー、ゾロアスター教やマニ教にあたる神だろうな。グルマハーヴァル、これは結構マイナーだがそれなりに信者がいる、グルーナーナクという教祖、マハーヴィラやヴァルダマーナという神を崇めるインドのシク教やジャナ教だろう。ブラヴィシュヴァにはブラフマー、シヴァ、ヴィシュヌというバラモン教やヒンドゥー教の最高神達が含まれている。最後に
「どうしたの? 難しい顔して」
アヤにはバレてしまうか……。だがこれはある意味核心を突いているかも知れない。嫌な予感しかしねえな……
「信頼できるから送った七人の管轄神が音信不通で、巨大な世界で諍いを起こす原因とも言える宗教を布教させて人間を対立させていながら、管理としては不干渉。そして姿を消した原初の7色の魔神……」
みんなの表情が厳しくなる。特に神様組は顕著だ。
「いつの間にか入れ替わっていたってこと?」
「あくまで推測だけどな。でもどう考えても不自然だ。そして数も丁度7人。ゼニウス様、大変かも知れないですけど、これは調べてもらいたい。出来れば早いに越したことはありません。この世界にまで影響が来ているんだ、放っておくには危険な予感がする。それにサーシャ達の逸話が勝手に捻じ曲げられたら、力を失う可能性もある。地球の人口は異常だからな。そしてあの堕天神の三人がいきなり地球の文化を遊戯として持ち込んだ。世界はたくさんあるはずなのに……、そういう意味で引っ掛かっていたのもあるんだよ」
「うむ……、なるほど、確かにお主の危惧は尤もじゃ。他の世界にまで影響を及ぼすとなると看過できん。此方は任せておくがいい。また追って連絡しよう。わからないことがあればいつでも念話を飛ばしてくれて構わん。ではな、其方は任せたぞ」
オッサン人形が消えた。念話で話すよりはマシだが緊張感に欠けるなあ。しかしこの体になってから、記憶が欠けることなく綺麗に思い出せる。過去にほんの僅か目に入れた内容でさえ先程の様に鮮明に脳裏に浮かぶのだ。神話やらを興味からとはいえ学んでおいて良かったな。
「よし、じゃあこれからの作戦だ。俺達はメキアに向かい聖女勇者の救助に、奴隷にされた人々の解放。人手が必要になるだろう。恐らくティミスのあの様子からアーシェスがいる。こいつはここで絶対に仕留める。そしてもう魔王としてあの二人は覚醒させられたはずだ。サーシャにルクスは魔王領でなるべく時間を稼いで欲しい。魔界からの
「おう、いいぜーカーズ! 分かり易くて」
「ふふっ、いいわね。その案に乗りましょう!」
「ありがとう二人共。魔王城の最奥にはファーレにナギストリアもいるらしい、ティミスが情報を集めて来るとか言っていたが、何をしているのかわからん。ファーレもナギストリアも俺が致命傷を与えている、バルゼも同様かなりダメージを喰らわせた。仕留めて貰っても構わないからな」
「おう、やってやるぜ。任せときな!」
「ええ、こっちは任せておいて」
よし、これであいつらの計画は全部ぶっ壊してやる。まあ今日は情報処理で疲れたし、出発は明日で充分だろうな。英気をしっかり養ってからだ。
(カーズ、我が息子カーズよ、聞こえるか?)
クラーチの残念王から連絡だ。何かあったのか? 念話スキルをみんなが聞こえる様に展開する。
(どうしたー、残念
(そうか、突然消えたのでな、其方の召喚魔法であったか。いやそれよりもだ、たった今宗教国メキアから全世界の国に通信が入ったのだ。だが余りにも信じられない内容でな、確認をと思ったのだが…)
(メキアから? 何だよその通信って?)
(アストラリア様、アリア殿の名の下に奴隷制度の解放を許可すると現法王からの通信だったのだ。まさかそんなことはありえないと思ってな。アリア殿はそこにおられるのか?)
(いますよ、クラーチ王。それは天界の裏切者共がメキアの法王達を魔眼で操り無理矢理言わせているのです。法王の様子はどうでしたか?)
(なるほど魔眼で、…道理で余り呂律が回っておらず、活舌も悪かった様に思いますな)
(やはりそうですか。おのれバルゼにアーシェタボロス…。この世界の禁忌に手を染めるとは…舐めてくれましたね……)
まあこれは当然アリアはキレるだろうさ。俺もいい加減頭に来てるからな。
(今や全世界が混乱している。我らはアリア殿の潔白を証明するべく、断固反対の姿勢を取っているが、唯一神の教えを広めるメキアの影響力は大きい。今は反対国家が多いが、裏で動き出している様な昏い組織もあるらしい。我らが勝手にアリア殿の名を出すこともできん。大きな国はひとまず大丈夫だとは思うが、少数民族の里などは危ない可能性もある。ここの北東のエルフの里などは危険であろうな…)
ディードの顔色が曇った。嫌で飛び出したと言っても生まれ故郷だしな…。気にはなるだろう。
「ディード、親父を送るついでにクラーチに行きたいなら送るぞ。こっちは速攻で何とかするし、里が心配なんだろう?」
「いえ…、特に気にしていません。あんな里どうなろうと…」
うん、わかり易く虚勢を張ってるな。バレバレだ。仕方ない、前からガシッと肩に両手を置き目を見て話す。
「いいか、もし里が襲撃されたら、友人や家族が被害に遭ったら…、後悔はないのか? 理不尽に嫌な目に遭って来たんだ、悩むし複雑な気持ちなのはわかる。でもな…、失ったら終わりなんだ…。そして今の立派になったお前を見せつけて、見返す絶好のチャンスでもある。しょうもない奴らくらい、軽くぶっ飛ばしてこい。一応応援にウチのクソ親父つけてやるしな」
「…ふふっ…、カーズ様には内面までも見透かされているのですね…。その通りです、意固地になっている場合ではありませんよね。そして今の私はディード、新しい生を得た且つてとは違う存在。何も起きないならそれでいいですし、何かあっても、メキアの制圧まで耐えてみせます」
(そういうことだ、義父さん。今からクソ親父とディードをそっちに送る。騎士団から数名出してエルフの里の警護に当たらせてくれ。そして…、耐えてくれ。俺達がメキアに乗り込んで悪神をぶっ潰して来る。それまで他の国とかの説得は頼むからな)
(わかったぞ、カーズよ。ではまた動きがあれば知らせる。お互いにベストを尽くそうではないか)
(お父様、私もいます。メキアは必ず取り戻しますから、王国や他の国々をお願いします)
(アヤ…僅かの期間に逞しくなった様だな。うむ、できる限りやってみせよう。では検討を祈る!)
(ああ、全部終わったらまた城でパーティ開いてくれよな)
(ハッハッハ、任せておけ!)
何だか多少まともになった気がするな。以前よりポンコツ感が抜けている気がする。どうしたんだ? いや、今はそれどころじゃないな。
「変な法律まで公布された以上、時間との闘いになった。食事を取ったら作戦開始だ。エリユズにも伝えてやってくれよな、ルクス、サーシャ」
「「まかせて/な」」
夕食を取ってから、親父とディードをクラーチへ送り、その足で俺達はメキアへ、ルクスとサーシャは魔王領での時間稼ぎに向かった。夜明けまでに決着を着けてやるからな。
------------------------------------------------------------------------------------------------
謎は解けたかな?
いや増えてんじゃんwwというツッコミがありそうですが・・・
仕方ない、ざっくりなのがOVERKILL!
さあ遂に突入!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます