第四章 65 7つの特異点
ガッ! ガシィ!!
「ぐあっ!?」
「きゃあっ?!」
「漸く注意が完全に逸れたな。捕らえたぜ、次代の竜王のガキ共。少々痛手は負ったが、俺の本当の狙いはこいつらなんだよ」
離れていたアジーンとチェトレの背後にバルゼが傷だらけながら現れ、二人の頭をその巨体で掴んで持ち上げた。
「どういうことだ?!」
「カーズ、貴様が奥義を放つ瞬間に周囲に飛ばしていた分身の一匹に俺自身を移し替えたのだ、間一髪だったがな。まさか分身とはいえあそこまでやられるとは…、さすがファーレを追い詰めただけはあるぜ。それに俺の不俱戴天まで砕くとはな…、とんでもねえ特異点だ。だが不利だとわかっておきながら勝負をつけるまで闘うとでも思うか? お前らの力量を測りながら、こいつらから完全に注意が逸れるのを待っていただけだ」
「なるほど…、最初の
とは言っても人質を取られた様なもんだ。しかも掴んで前方に持ち上げられているから攻撃もできない。なぜあの二人を狙っていた?
「カカカ! その割には口惜しそうな表情だな。俺達はこれを待っていたんだよ。次代の竜王を器とする、且つてない魔王の誕生を! しかも二人も同時に生まれることになるんだぜ!」
「くっ、放せ!」
斬りかかろうとするが、やはりこの二人を盾にされる。
「おのれ…、卑怯な…」
「バルゼ…、あなたという人は…」
ダカルーとアリアにもきっちり注意を払ってやがる…。脳筋は演技か…、パワー主体なのは間違ってないだろうが頭も切れる、してやられたぜ。それにやはりアリアは若いというだけあって、他の神々の能力の全てをわかっていない、これは不利だ。この分身体を蠅にして飛ばすのは堕天してからの能力だろうがな…。
「カッ! 何とでも吠えろ! さあ受け取れ! この世界に立ち込めた負の感情の結晶を! 新魔王が二人、しかも竜王の末裔からの最初にして最強の魔王達の誕生だ!!!」
「ぐっ!? ぐああああああああああ!!!!!」
「う?! ぎ、ああああああああああああ!!!!!」
バアルゼビュートから二人の頭へと注ぎ込まれる大量の瘴気を含んだ負の感情の結晶。それが放つ異常なまでの黒いオーラ!
「まさかこれが狙いだったとは…」
魔人共が集めていたという負の感情はこいつが持っていたのか…。「バルゼが何かを企んでいるみたいだし、大迷宮…気を付けることね」…ティミスが言っていたのはこういうことか…、だがあの口振りからしてあいつはこのことを知っていた可能性が高い。まんまと踊らされたってのか…。胸糞悪いぜ。
「お前らはティミスと裏で繋がってやがるのか?」
「あん? あの性悪コウモリか? 知らねーな、他の二人は仲が良かったみてえだが、俺はあいつの胡散臭さが気に入らねーしよ」
「があああああああ!!!」
「ああああああ!!!」
掴まれている二人の髪が黒と灰色が混ざった様な禍々しい色に変わっていく。目も白い部分が黒く変化して眼球が赤く光り、負の瘴気が体から溢れて来る!!!
「くそっ、どうしろってんだよ…!」
「チェトレ! アジーン! 目を覚ますのじゃ!!」
ダカルーが呼びかけるが返事はない。背から黒いドラゴンの翼が生え、牙も爪も角も鋭くなっていく……これが魔王化の影響なのか…?
「アリアさん! どうにかならないの?!」
「そうです! これでは…あまりにも…っ…!」
アヤとアガシャがアリアに訊くが…
「完全に魔王になってしまったら、最早手立てはありません…。聖女勇者も捕らえられ、この場にはいない…、力づくで滅却しなければ世界に大被害が起こります…」
「ばーちゃんの次の竜王だぞ! しかもいい奴らだった、殺すしかないってのかよ!?」
「カカカッ! 打つ手ナシか? さあどうする、同族を、罪なき世界の観測者を殺せるか?」
この蠅野郎…、自分もボロボロのくせに勝ち誇ってやがる。いや…、考えろ!! 流し込まれたのは負の感情…ナギストリアの記憶や、俺が神の試練で見た過去の様な幻覚や幻影と似た様なものを見せられて自我を失っているだけかも知れない…。ならば…
「アレなら効果があるかもしれない…。現実破壊の力をなるべく抑えて精神、見せられている幻覚にのみに狙いを絞る!」
左手をまだ魔王化の状態で苦しんでいる二人にかざし、神気と魔力を集中させる。
「カーズ、何をするつもりじゃ?!」
「まさか…!?」
アリアは恐らく俺の記憶から何となく察したのだろう。
「まあ見てろ…。見せられている幻覚、負の感情のみを破壊する。多少肉体にダメージは入るかもしれないが…、ショック療法みたいなもんだと思ってくれ」
「カカカ! 今更何ができる?!」
この蠅は勝ち誇ってやがるが、魔王にされた二人はまだまともに喋ることもできないし、肉体、要は表面上の変化が表れた程度、心の中ではまだ抗い闘っているはずだ。次代の竜王がそんなにやわじゃないだろうよ!
「じゃあいくぜ…、多少荒療治かもだが、お前達二人の見せられている幻影を負の感情ごとぶっ壊してやるからな!」
みんなが見守る中、記憶や精神を侵食するその負の感情のみに
「幻影よ、負の感情と共に消え去れ!!!
ドゴオオオオオオオーーーーン!!!!
「「うああああああああ!!!!」」
「なっ、ぐおおおおっ!!! 貴様、正気か!?」
鑑定で視ていた通りに心と脳内に侵食していた部分にのみ照準はキッチリと
「う…、ぐ…俺、は、…?」
「し、初代、さ、ま…?」
よし、効果アリだな! やはり負の感情という幻影的なもので操っているんだろう。その人自身の人格は生きている。二人はまだ何が起きたのかわからないという顔をしているが…。
「なっ…?! バカな…魔王化が解除されるなど…。カーズ、やはり貴様は危険過ぎる特異点の様だな…。だが、まだ負の感情は腐る程ある! 次に会うときには手遅れだ!」
ガッ!!
「「うあああ!!!」
意識がはっきりしていなかった二人がまた捕らえられた。あいつの間合いにいる以上は解除してもキリがないな。
「くそっ、捕まっていてはどうしようもない…」
「さらばだ! 会いたければ魔王領に来い! だがその前に貴様らは魔神とでも戯れていろ!」
カッ!!! ドゴォオオオ!!!!
バルゼが口から放った魔力撃が巨大な魔石を大きく砕いた!
「なっ、何てことを!? バルゼ、あなた達自身の首を絞める危険なことになるかも知れないというのに…」
「知らんな! 来い、フルーレティ! 足止めしろ!!」
ドォオオオオン!!!
「ではな、この借りは魔王領で返してやるぜ! これでこの世界に7つの特異点が揃った。混沌の時代の幕開けだ!!!」
ブンッ!!!
くそっ、転移で逃げられたか…。そして喚び出されたフルーレティという大奥義書序列四位の悪魔。白い肌に白い髪、黒い装飾品に鳥の羽でできているかの様な黒いドレスを纏っている、幼い感じの女性だ。背中からは白い鳥の翼。…だが呑気に欠伸をしているし、瘴気もまるで感じない。やる気も全く感じられないし、敵意すらない。ボケーっとこっちを見て来るだけだ。
フルーレティ、確か仕事を命じると夜のうちに片付けてしまう。望んだ場所に
「カーズ、さっさと滅却してしまいましょう。あの魔石の方が危険です!」
アリアが焦っている。こいつは…落ち着いてちゃんと相手を調べようぜ。
「いや、ちょっと待て。こいつはそういう気はなさそうなんだ。瘴気も出ていないし、鑑定したら精霊だった。それに能力的にも戦闘向きじゃない。話せるかも知れないんだ、試してみる」
ニルヴァ―ナは既に鞘に納めてある。そのまま彼女の近くまで歩く。
「なあ、フルーレティ、闘う気はあるのか? ないのなら話を聞きたいんだが、いいか?」
話しかけると、フルーレティは目を輝かせながら話し始めた。
「あーー!!! キミが噂の特異点のカーズやな? ウチはそう、フルーレティや。でもなあ、ウチは悪魔やなくて精霊なんよー。何やあの神様達に勝手に仲間に入れられてんー。ほらー、ウチから瘴気なんて出てへんやろー? ホンマ迷惑しとってんー、助けてくれへんかなー?」
何で関西弁なんだ? いや、そういう風に聞こえる言語なのかもな。しかしよく喋る子だな。大奥義書の悪魔は精霊ともいう表記があったし、全てがこれまでに見た馬鹿な悪魔とは違うってことかも知れないな。
「何で俺のことを知ってるんだ? それに助けるってどうしたらいいんだよ?」
「みんながやたらと噂しとるから会ってみたかってんなー。ん? あー、唯一神様に竜王様もよー見たらおるやんかー。えーなあ、楽しそうやわー、ウチも連れてってーな」
うん、やっぱり敵意は感じない。そして俺の腰回りに抱き着いて来る。何だろう…発育の良い小さい女の子みたいな感じだな。
「アリア、この子は精霊なのか?」
「そうですね…、しかも嘘もついていません。偶然名前が同じだっただけで加えられたのかも知れませんね。瘴気も全くありませんし、あの白い肌、雪などを司る精霊でしょうね…。害はないですが、向こうの軍勢に無理矢理所属させられているみたいです。あなたの記憶にある雹を降らせる能力に、他の精霊を喚ぶこともできるようですし…。精霊や天使には特殊な能力がありますからね、戦力になると思いますよ。どうしますか?」
特殊能力に、天使…また知らんことが出て来たな。そしてあいつらのやってることも大概杜撰な感じがする…。
「じゃあどうやったらその状態から解放できるんだ?」
「あ、せやカーズ、キミと召喚契約したい! なあなあーランクはー?」
「そういうことですね」
なるほど、こちらと契約すれば切れるってことか。
「SSだけど」
「マジかー、なら名前適当に捩って変えて契約してやー。ならあっちの変なのと切れるし、能力も強くなれるから役に立てるし助かるんやけどなあー」
「どうする、みんな?」
「悪い子じゃなさそうだし、召喚契約したらヨルムみたいに仲間になるんでしょ? 逆らったりもできないだろうし、困ってるんならいいんじゃないかな? 家も広いんだし」
さすがアヤ様は寛大だ。
「儂はあの二人が気にかかるが…。敵対しないのなら良いのではないかの?」
「私も、彼女が父上の召喚対象になるというなら味方が増えるということですし、構いません。ですが間違って悪魔扱いされたのは気の毒ですね…」
「落ち武者親父はどうでもいいが、ディードはどうだ?」
「まあ、悪意がないのであれば…、ここに放っていくのも可哀想ですしね」
何だかんだでみんな寛大だ。仕方ないが、また女の子が増えるのはどうなんだろうか…。エリック早く帰って来いよなー。…まあ、気にしてもしょうがないか。
「じゃあ契約しようか、フルーレティだし…『ルティ』でどうだ?」
「おおー、それでええでー! これからはルティで呼んでなー、新名ゲットやー!」
ぴょんぴょん飛び跳ねるルティ。まあ嬉しそうだし、人助けしたみたいなもんか。
「ではここに召喚の契約を結ぶ。よろしくな、ルティ。取り敢えず一旦神格に入っていてくれ」
「あいよー、また喚んでなー」
ヨルムの様に光の粒子になって体内へと吸い込まれた。
「次に喚んだときにはSSランクの召喚効果が上乗せされる。向こうとの契約も切れた以上やられたとしか思わないだろう。さて次だ、魔石はどうなってるんだ? アリア」
地面ごと大きく破壊された巨大な魔石。アリアはその内部をじっと見ている。
「中で寝ている子がいますね……」
巨大な魔石が分厚い卵の殻の様に割れて、内部、その中心部に黒髪の剣士の様な恰好をした女性と言うか少女と言うか、その中間の女の子が眠っている。銀の鎧に腰には黒い片手剣、赤いマント。しかし最早瘴気はそれ程感じない。小さな神格の輝きは感じるが…、魔神? という程の禍々しさも感じない。鑑定、イヴァリース、猫獣人 女 呪われた剣聖、Lv1270……。年齢はわからない。よく見ると頭に黒い猫耳が付いているな…。
「おい、何で獣人?! しかも瘴気出してたのあの剣だろ? 呪われた剣聖とかいう称号になってんぞ! それに人族なら助けないと」
魔石の中へ降りて、少女を抱き上げて上に運ぶ。
「この剣か……、魔剣
カッ!!! シュゥウウウゥゥゥゥゥ……
「鑑定、聖剣
「え、いや、あははー。何なんでしょう……(;'∀')」
「この期に及んでマジで意味わかんねーよ!? 何で人族が封じ込められてんだ!? 魔神とやらはどこいったーーー!?」
俺の叫びがダンジョン内にこだまする。いい加減意味不明なことばかり起こるので、俺達はメキアに乗り込む前に一旦リチェスターの自宅に戻ることにした。
ここまでの謎の言葉やらの情報整理に、天界ゼニウスのオッサンとも話がしたいし、サーシャとルクスにも協力して貰わないとな。
それに天界でも聞いたが、7つの特異点、それが揃ったら一体何が起こるんだ……?
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どんどん意味不明なものが出て来ますねー。
取り敢えずの章タイトル回収です
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