第四章 63 Something Slept In The Abyss
カーズとアヤが龍の疾走で道中の魔物はほぼ全て消し飛ばした。あの様子では最下層手前などあっという間だろう。後は少しペースを抑えて進むだけでもすぐに最下層に辿り着ける。
「さすが、は…、あのお二人、ですね…」
「父上、に母上…、なんと凄まじい…。もうかなり奥まで、魔物の気配が消えています…、ね」
「あいつら…。こっちが、疲れて来た…タイミングを、見計らってやがったな。まあ…、少しは休憩したかったところだ、アガシャも、ディードの嬢ちゃんも、しっかり休んどきな。わざわざ俺まで喚び出したくらいだ。何かを感じてるのかも知れねえからな、あのバカ息子は……」
さすがに息を切らせていた三人は、その場にある丁度いい大きさの岩場に座り込んで、休憩を取ることにした。そこへ後ろを付いて来ていたアリアとダカルーも合流した。
「バサトさんにディード、アガシャもお疲れ様です。私達はここで少々休みましょう。何が起きるかわかりませんし、回復しておいた方が賢明です。私も魔力は温存しておきたいので、この
「おおお…! アリアちゃん、何だこの飲み物? 一瞬で疲労が消えた。しかも甘くてサッパリしてるぜ」
「それは異なる次元を繋ぐ世界樹と言う、巨大な神樹の樹液を天界で加工した飲み物です。大量生産することはできませんが、魔力を譲渡して回復させる必要もない。下界の
「そうじゃな……。あやつは無策で突っ込む様な愚かな真似はせんじゃろうしのう。しかし父親の方はまるで性格が違う様に見えるのう」
アリアに相槌を打つようにダカルーが答える。
「いや竜王さん、根っこの部分じゃあいつは俺と変わらねえよ。本来攻撃的なんだ。感情が爆発したら、俺なんよりも恐らくとんでもない化け物になるだろうぜ。普段は冷静ぶってやがるけどな」
「……確かにお爺様の言う通りなのかも知れませんね。ティミス様に斬りかかろうとした時、父上から溢れ出した力……。あれには恐怖を感じた程です……」
「……ギルドで私を助けてくれた時も、かなり抑えてはいたようでしたが凄まじい殺気でした。それにあのナギストリアとの闘い。全く情け容赦などなかったですしね。ハア……、何て素敵なのでしょう……」
助けられた時のことを思い出し、うっとりとトリップし始めるディード。最早いつものことだが、全員が「こいつちょっと危ねえ」と思った。
「大丈夫ですよ。カーズは神の試練で『鋼の意志』を得ています。怒りに支配されそうになっても必ずブレーキがかかる。闘志と冷静さを併せ持つカーズにとっては最高の
「ハハハッ!! アリアちゃんみたいな女神様にそこまで息子を褒められちゃあ、鼻が高いってもんだぜ!」
「いえ、私も関係的には豪快で愉快な父ができたみたいで嬉しいですよ。しかし、バサトさんの刀の扱いは神の刀技ですよね? 誰に師事したんです?」
「えっとなあー
「なんと…、フツマには私も且つて刀の扱いを習いました。道理で太刀筋が見たことあると思いましたよ。それにレピオスにも補助魔法系は一通り……。まさかそんなことが起きていたとは、彼らもこういう事態を想定していたのでしょうか……?」
「あいつら神様の考えることなんてさっぱりだぜ。俺は落ち着きがないから抜刀術は無理だと言われたしよ。まあいいさ、そろそろ追いかけようか嬢ちゃん達。追いつくのが遅くなる。全く、孫娘を放って行くとは…、まーだ親の自覚が足りねえなー」
バサトに頭をぐしゃぐしゃと撫でられたアガシャは少し困った様な、それでいて恥ずかしくも嬉しそうな顔をした。
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「アリア達も向かって来たようだな。こっちも周りの掃除は終わったし、のんびり待つかー」
念の為に神気結界を張り、アヤとその中で適当に異次元倉庫から出したものを飲み食いする。こちらも取り敢えず休憩だ。超スピードで約30階層分くらいを駆け抜けたしね。
「うん、でも最下層のアレは何なんだろうね…」
「超デカい魔石が地面に埋まっていたな。封印した子孫ってのはどこにも見えなかったけど、魔術かなんかで隠してんのかな? あの竜王の間の地下室でも不思議な言葉で鍵を掛けたりしてたし、俺らの言語理解スキルでもわからないんだから。どんな風に隠してるのか謎だな。それ以外は特に何もなかったし、最下層って普通はボスがいるもんなんだけどなあ」
「まあゲームとか普通はそうだよね。あの魔石から魔素や瘴気が生み出されてるのかな?」
「魔石は魔素の結晶のはずだよな…。じゃあ何で瘴気はここから出て来てるんだ? ……やっぱりあのデカい魔石、何かまではわからないが妙な反応が
「かなり上の階層近くまでここから出た瘴気が充満してるくらいだし…。そんな存在がいたら…恐ろしいことになるね…」
俺の膝の上に座り、こてんと後頭部を俺の方へ預けて来る。その仕草と間近で見るアヤの綺麗な髪と香りで、心が落ち着いていく。これが見た目通りの年齢同士なら互いにムラムラして仕方ないのだろうが、俺らは前世からの何十年という記憶がある。だから安らぐ様な気持ちになって、逆に落ち着くんだよな。まあいちゃつきもするが、さすがに人前では控える。漸く結ばれたのに、もう長年連れ添ったような感覚なんだよ。不思議だ。今はアガシャもいるし、さすがにねー、こちらが恥ずかしいと思ってしまうんだよな。見た目と中身が一致しないし、俺達はこれからもずっとこの見た目のままだ。老化で死ぬことなどないのだから。
「色々と大変なことには巻き込まれていってるけどさ…、俺達は絶対にずっと一緒だからな…」
「どうしたの、急に? んっ…」
アリア達の気配が近づいてくるまでの間、俺達は抱き合って静かに長い口づけを交わした。
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約2時間後、アリア達が追い付いて来たようだ。道中の魔物はほとんど消滅させたものあるが、真っ直ぐ来るとやっぱり速い。千里眼で見えていたが、アリアが出していたドリンク、みんなメチャクチャ回復してたし、折角だから貰っておこう。今は待っている間に
「お、漸く到着か?」
「私は兎も角、他の人達はあのスピードに付いて行けませんよー。こちらの前衛組を休ませるつもりだったんでしょうけどー」
「まあなー、そういうこと。俺達にもさっき飲んでたやつくれよ、いざって時に使うからさ」
「はいはい、あの速度で進んでおきながらちゃっかり見てたんですねー。どうぞー、貴重なものなので大切に使って下さいね。とりあえず3つずつ渡しておきますからー」
貰ったボトルを異次元倉庫に突っ込む。1本だけマジマジと瓶を見てみると、元気爆発
「一応最下層、ピッタリ100階層だったな、部屋の中を探知や鑑定してみたが、地面に埋まっている異常にデカい魔石以外は何もなかった。封印もどこにあるのかわからんが、これはばーちゃんに任せたらいいだろうから気にしてないけど。おいアリア、あのバカデカい魔石は何だ? 魔素の結晶なんだよな、何でアレから瘴気が湧き出してるんだ? 管轄者なら調べとけよな。中に何かの気配を感じるんだが、それ以上は結界みたいなもので弾かれる。色々と説明してくれ」
「…わかりました、調べてみます。ダカルーは封印を」
みんなで揃って最下層へと降る。これまでの階層より一回り程狭い空間だが、それでも充分な広さはある。何があるかわからないので、アヤにディード、アガシャは入口近くで結界の中に入ってもらっている。親父は好き勝手に動き回ってるけど。
ばーちゃんは奥の方の壁に手を付いて何か呪文を唱えている。恐らく結界か封印の解除をしているのだろう。任せておいて大丈夫そうだ。アリアの方へと移動する。地下に大半が埋まった巨大な濃い黒紫の魔石を調べているが、何かわかったのだろうか?
「ばーちゃんは一人で封印解除やってるみたいだが、どうだアリア? この魔石、魔素は確かにわかるが、なぜこれ程までの瘴気が出ているんだ? それに中にある奇妙な探知の反応…、何がいるんだ?」
しゃがみ込んだままその魔石に手を置き、何かを調べているアリアには声が届いていない。
「おい! どうしたんだよ!」
「! カーズ…。これは…そういうことだったのですか……? ゼニウス様…魔素を発生させるためにこんなものをエネルギー源にしていたとは…。なんて危険なことを……」
「だからそれは何なんだよ?」
「すまぬ! 手を貸してくれんかのう!?」
ダカルーが先程の壁を扉の様に開けている。その中から封印された次代の竜王を封じている容器の様なものを出すのを、手伝って欲しいとのことだ。壁の中に入ると、
「カーズよ、儂は一人とは言っておらんぞ。漸く竜王の器の子孫が生まれたのじゃよ。まだお主の実力に比べると粗削りではあろうがの。この兄弟、兄がアジーンに、妹がチェトレ。姓はバハムルじゃ」
「そうだったのか。でも髪の色もばーちゃんを含めて見たのは黒髪ばっかりだったのに、この二人は少し変わっているんだな。黒がベースだが、兄は青い髪が混ざっているし、妹は濃いピンクか、全然違うんだな」
「うむ、初代の儂は兎も角、この子達は突然変異に近いのかも知れんな。今までにない髪色に強い神格もある。勇者が現れたということは、この子達も竜王の末裔として戦わねばならん。今から封印を解く、部屋の中心辺りに移動させてくれんかの?」
みんなで運んだがメチャクチャ重かった。封印された状態ごと持ち出されないためなのかも知れないな。だが異次元倉庫があれば簡単に持ち出されるよな…、だからあんな壁の中に隠していたのだろうか…?
立たせた二つの棺の前でダカルーが
「昏き闇の奥底へと封じた我が次代の竜王達よ、この世に邪悪が蔓延り始めた。今こそ目覚め、その使命を果たせ! 竜王封印解除!」
言語理解スキルに集中していると、彼女の言葉は何とか理解できた。ここの里にしか伝わっていない言葉なのだろうな。声に出せる気はしない。
ガタンッ! ガタガタガタンッ!!
半透明な蓋をした棺がガタガタ動く。ポルターガイストみたいだなー。自然に巻かれていた
そして眠りから覚め、目を開けた二人。黒に青の混ざった短髪の兄のアジーンとピンクの混ざった綺麗なロングヘアの妹チェトレ。眠っていると幼そうに見えたが目を開くと印象が変わるな。立派な青年、女性に見える。龍人だけあって逞しそうだしな。などと思っていると、突然二人して目の前のダカルーに抱き着いた。
「「初代様!!!」」
「うむ、そうじゃ…。無事で何よりじゃった…」
「俺達も本当は闘いたかったんだ…、っ…」
「はい、里を荒らす者が如何に強大であろうと、次代の為とは言え…私達だけが逃げる様なことになるなんて…」
三人共涙声だ。辛かったんだろうな…。
「気にするでない、その儂を、里を救ってくれたのがこの特異点のカーズとアストラリア様に、後ろの冒険者達じゃ。里を再び襲った悪魔共も片付けてくれた程の凄まじい手練れ、礼を言うようにな」
「なるほど、アンタが帰還したという特異点か。俺はアジーン、初代様に代わりこれからは俺達が力にならせて貰う。そして今迄の感謝を」
握手しながら礼をしてくれた。
「あなたがカーズ……。私は妹のチェトレ。兄同様、力にならせて貰います。そして同じく感謝を」
二人と握手を交わす。さすが次代の竜王。よく教育されている、礼儀正しいなあ。
「ダカルーのばーちゃんには、あ、ばーちゃんって呼ばせて貰ってるんだ、悪いな。偶然
そうして暫く互いに自己紹介など会話を交わしていたのだが、アリアがいつまで経っても戻って来ないので、巨大な魔石のもとへと向かったのだが…。どうも顔色が悪そうだな…、どうしたんだ?
「どうなったんだ、アリア?」
「カーズ…、ここには余りにも危険な者が眠っているのです。先程ジジイにも念話で確認を取りましたが、魔素だけでなく瘴気が溢れている理由もわかりました。しかも、この世界にある10の大迷宮、いや出現していないだけでまだあるのかも知れない。それら全ての最下層にこれらは眠っているのです。仮死状態に近いため私達の探知でははっきりと存在が、いえ、
「何だよ……、何なんだ? 何が眠っているってんだ?」
「それは―――」
「感動の再会に、未知との遭遇。そろそろ気が済んだか? アストラリアに特異点共よ!」
いきなりデカい声が響き渡った。みんなの表情が戦闘時の引き締まった雰囲気に変わる。誰だ…? 特に気になる反応はなかったはずだ。
「オラァ! どこにいやがる!? 誰だテメーは! 出て来やがれ!!」
親父が叫んだ。全く気が短いな、このオッサンは。
「里からずっと追跡していたが、全く気付かないとはな。もっとよく壁を見てみることだ!」
「この声は…、バルゼ!?」
アリアが正体は明かしてくれたが…、気配が掴めない。
「壁だと? くそっ、どこだ!?」
全力で探知と神眼で探す。そのとき小さな
「まさかそこにいる汚ねー
「カッカッカ! ようやく気付いたか特異点のカーズ! その通りだ、堕天した際に他の次元の伝承が流れ込んできた! それにより俺は強大な力を手に入れた! これはその能力のほんの1つよ!」
「蠅になって喜べるのはテメーくらいだ。さっさとその小汚ねー姿から戻れ、ハエ叩きでぶっ叩くぞ」
「カッカッカ! 口だけは達者だな。ならば見せてやろう、俺の姿をな!」
カッ! バキィーン!!
小さな蠅が黒く輝き、殻が割れる様な音と共に中からずるりと人型の堕天神バアルゼビュートが姿を現した。気色悪いなこいつ。
「こそこそと神のくせに姑息なことしてんじゃねーよ。丁度いい、何を企んでここに来たのかは知らねえがな。陰でテメーらのやってることにいい加減ムカついてきてたんだ。ここでぶっ潰してやるぜ!」
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出て来たよー蠅野郎。そして何が眠っているのか?
どうせ碌なものじゃないよねw だってOVERKILLだもん(笑)
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