第四章 56 My Home・「ただいま」と「いってきます」
ギルドで報告を済ませ。忘れていた
「うわ―…、マジかよ、ここまでの豪邸とは…」
地図を受け取っていたので迷わずに到着した、クラーチ国王に用意させた、中立都市北部の都市長の屋敷の近くの一等地にある屋敷。いや、もうガチ貴族の豪邸だよこれ! 屋敷全体を囲む柵があり、門を開けると屋敷までの約20m程の長方形の庭には噴水、門から真っ直ぐにレンガ造りの道があり、二階建ての豪邸の入り口に繋がっている。
「「おかえりなさいませ、皆様!!」」
「ああ、初めてだけど…、ただいまだ!」
大きな扉を開けて中に入ると、侍女のリアとククリがメイド服で出迎えてくれた。目の前には吹き抜けの大きな踊り場というか空間が広がっている。中央には二階へと続く階段とその後ろには地下へと繋がる階段だ。すげえ…貴族の大豪邸だ。いや、今一応なんちゃって貴族だけどさ。上の階は個室が左右と正面にあり、俺達冒険者組は上階に住むことになるらしい。階下にはキッチンに食堂、
「一階は正面玄関を入って右手に食堂、その奥にキッチンがあります。左手にはソファーなどを設置したリビングでのんびりと寛ぐことができます。そして左手奥は、外の露天風呂まで続く大浴場です。厳重に隠蔽がかけられているので外から覗かれることはありません。一階の正面の個室は6つですが、ここは基本私達が使わせて頂きます。あと二名来られるとのことですしね。あ、それと御手洗いは各階にありますので」
とククリが説明してくれた。そして二階へ上がる階段から今度はリアが説明をし始めてくれる。
「では二階へ、階段を上がって正面に6部屋、渡り廊下を進んで左右にそれぞれ3部屋ずつ、計12部屋ありますので、好きなお部屋をお使い下さい。最低限の家具の準備はしてありますので、どの部屋も快適に過ごせるはずです。そして屋上にも
「ほっほーう、では私が鍛練場に改造しましょう。倉庫は一階の一部屋を
「ああー…、…はあ、…そんなことが…? で、ではアリア様にお任せ致しますね…」
うん、久々に普通の人の反応を見た…。ありがとうリア。
そして孤児院から荷物を持って来たエリユズにユズリハの双子の妹のユウナギが合流、俺の母さんも家事をお願いしたいので召喚。そして部屋割りとなった。二階は左端からアヤ、俺、アリア、ディード、ユズリハ、エリック。一応ゲストのルクス、サーシャにまた寝こけている竜王のダカルハ・バハムルは右端から詰めてもらった。一階はキッチンのすぐ左隣は
まあ結界があるから悪意がある奴は侵入なんて不可能だろうけど、二階に上がったところにエリックの部屋。隣にはユズリハだし、侵入者に同情する。そして色々と互いに自己紹介した。
「はじめまして、カーズさんに皆さん。ユズリハの双子の妹のユウナギです。よく姉からお話は聞いていました。お会いできて光栄です。それに私までこんな立派なお屋敷に住まわせて頂けるなんて、本当に感謝致します。家事のお手伝いは任せてくださいね」
見た目はそっくりだが、ユウナギの髪の毛は濃い茶色だ。うん、分かり易い。間違えなくて良さそうだ。そしてもの凄く礼儀正しい。さすが孤児院で子供達のお世話をしているだけある。
「正反対だろ?」
と笑いながら口に出したエリックに、ユズリハのボディーブローが突き刺さる。
「何か言った?」
うん、これは俺も思ったが口に出さなくて良かった。俺には恐らく高ランクの魔法が飛んで来る。そして安く買い物するとかの為にユウナギ、リア、ククリにまでいつの間にか
「どうせ買い物が安くなるくらいですから、問題なしですよー」
こいつはもう何でもアリだわ。竜王様はまた寝ちゃったけど、あの龍人一族は『バハムル』を継承するらしい。貴族とは異なるし、基本的に里から出ないから例外なんだと。ユウナギはユズリハと同じ『ラクシュミ』を、ククリとリアは悩んでいたので、アヤが『クラーチ』を代わりに名乗ってくれというお願いでその姓になった。まあ買い物の時に見せる程度だしね。目立つようなことをするわけじゃないからいいんだけど。そして地上で活動しやすくするために、神の2人、俺に神格を与えてくれた姉兄でもあるので、名目上ロットカラーで統一。もう何だろ、神様と同じ姓を名乗るとか奇妙な感じだよ。
更に一緒に住むと言うことは俺達の事情は知っててもらわないと困るので、リア、ククリ、ユウナギは制約で縛ることになった。母さんはもう死人で召喚獣のようなものなのでどうしようもないらしいが、この人が無駄にペラペラと喋ることはないので大丈夫だろう。そして神格の中にずっといるのも窮屈だろうと思って、小さくサイズを変えて召喚したヨルムだが、あのバーベキューでも出来そうな広い庭で好きに過ごしてもらっている。
ということで、管理組が家のことや食事の準備などをしてくれている間にアリア達が異次元倉庫を応用した空間・時空魔法で、地下室を改良し、何処までも広い果ての見えない鍛練場が出来上がるのを見ていた。もうね、神様が3人もいるとやることがメチャクチャだよ…。あらゆる法則をガン無視した、見た目は草原の様な鍛練場。でもね、地面しかないんだよ。壁も天井もない晴れ空の下みたいな感じだから暴れたい放題なんだよ。……これぞ考えたら負けなやつだ。
今空間のテストを兼ねて稽古というか立ち合いをしているのはアヤと、アリアのお手製装備に俺の創造武器で攻守に充実したディードだ。
エリックが王家から褒美に貰ったミスリル製の防具は
「ハッ!!」
「ヤアッ!」
ギギギギィイン!!!
互いのレイピアが交錯する!
チャキッ!! ガウンッ!
距離を取った位置からアヤの
「くっ、モード・チェンジ、シールド!」
パアアアアアアッ!! ジャキィン!
ディードのレイピアの片翼の形をしたナックルガードが大きく展開する!
パアーン!!
反射した魔力撃がアヤへと向かう!
「
ダンッ!!
「つっ―!?」
ガイイィーーン!!!
それを加速スキルで一瞬にして掻い潜り、シールドへと斬撃が入る!
「反射させた瞬間に次の攻撃がすぐに入ると、反射が発動しにくいのよディード! すぐ次を組み立てないと!」
「はい! アヤ様、ハアッ!」
バキンッ!!
盾で払い距離を取ると、剣の
「ファイアボール!!」
ボボボッ!! ドドドオゥッ!!
ディードの剣先から5発の火球が放たれる!
「アストラリア流
ザザザザヴァアン!!!
「ブレイク・スペル」
魔法が斬られる!
「先ずは無詠唱からだね、ディードの課題は。声に出したら何が来るのか丸わかりだよ!」
「…その通りですね。まだまだ鍛えなくてはなりません! モード・チェンジ、
ギャリイイイィン!!!
刀身が刃を纏った鞭の様に変形する! それをレイピアで捌くアヤ。
ファーレとやり合ったときにあの連接剣は厄介だったからな、機能に付け加えさせてもらったのだ。扱いも難しいだろうが、ディードが鍛練すればキーワードなしでも変形できるようになる。そして
ギィン! ギギギギィン!!!
不規則な動きをする連接剣だが、アヤのレイピアに悉く突き落とされる! まだ魔力コントロールの練度が足りないな…。武器のスペックに振り回されている。
「くっ!」
ドンッ! チャキッ!!
連接剣の伸び切った間に距離を詰められ、アヤのレイピアの刃がディードの首筋に突き付けられた。
「はい、勝負アリ!」
審判をしてるのは俺だ。
「さすがです。ありがとうございました、アヤ様」
「いいえ、ディードはまだ武器や身体強化に使う魔力が弱いかなあ。カーズをよく見てみて、常に魔力が体の周囲を薄いけど高密度で循環して壁みたいになってるでしょ? 他のみんなもそうだけど、
「なるほど、あれが
礼をするディード。謙虚になったなあ、いや、元々こういう気質なのかもね。無理をしている感じもないし。
さてと、本題に戻すとするか。やることが立て込んでて中々突っ込んで話せなかったんだよね。
「おいアリア、サーシャの言ってた勇者ってジャンヌちゃんだろ? 魔王が復活したってことなのか? ぶっちゃけ関わりたくないけど、あの3神に利用される可能性もあるしな。どこにいるのかわからないのか? でも勇者なら強いんだろうし、放っておいてもよくないのか? どうなんだよ」
「あの子は…色々とへっぽこなんです…。なのでいつも旅立つときは私が念話でアドバイスをしてたんですよー」
「へっぽこ女神がへっぽこ勇者のアドバイスかー…、世も末だな」
「むー! さっきから念話も送ってるし、
「お前の力は肝心なときに使えないこと山の如しだな……」
「何ですかー!? その人類史上類を見ない様な高威力の罵倒はー!!?」
ムキー! と腕をぐるぐる回して地団駄を踏む女神様。こいつは本当に落ち着きがないな。
「じゃあ一旦自分の神域に戻るなりして痕跡を探せよな」
「はっ、そうでした! では一旦戻ります! アディオース!!!」
転移で即座に行ってしまった。
「あの子は相変わらずねー」
「天界だと猫被ってるからなー」
「あ、やっぱ二人は知ってるんだ…」
「まあなー、ゼニウスのオヤジが原因だな…」
「仕方ないわね…」
「それも予想通りだな…」
ルクスが席を立つ。みんなはそれぞれの鍛錬をしている。
「さてカーズよー、あの大剣使いのエリックに稽古をつけてやるぜ。約束してたしな。サーシャはユズリハってハーフエルフの子を見てやれよ。槍を使うみたいだしな」
「そうね、折角なので見所があるか見てあげましょうね」
・
・
・
自己鍛錬をしていたエリユズに、ルクスとサーシャがそれぞれ稽古をつけてくれたが…。まあ当然と言うか手も足も出なかった。神の二人はアリアのお手製のクレイモアにポールアックスで相手をしていた。武器性能はそこまで差はないのだが、やはり基本能力に武器の扱いの練度が違い過ぎる。魔法も然りだ。
「神様ってのはみんなこんなんなのかよ! 勝ち目が全く見えねえ…」
「何をやってもまるで歯が立たないなんて…」
まあ端から見てもこの神二人が凄すぎたんだけどな…。俺が相手しても軽く死ねる。
「アリアに大剣の扱いを教えたのは俺だしな。槍はサーシャだ。だが人族で神格なしでここまでやる奴はそうそういねえ。折角だし俺と来るか、エリックよー? 修行もつけてやるし、二人で世界を回る方がお前の力も伸びる。PTは俺達全員と組んだ状態にしておけば、どこにいても互いの修行の経験は共有できるしな。お前にはまだ伸びる余地がかなりある。俺が鍛えてやるよ」
「私も彼女、ユズリハは中々見所があると思うわ。私と世界を旅してみる? もっと上を目指せるポテンシャルはあるわよ。それに長いこと弟子もとってなかったしね」
「えー、ウチの主力を引き抜くのかよー?」
不満を口にしたが、エリックとユズリハの2人はもう気持ちが決まっているかのように答えた。
「お願いします、ルクスさん。俺はまだまだ弱い…。カーズの背を任される力もない。今回のあのナギストリアと堕天神、俺達じゃ相手にすることすらできねえ。アヤやディードが加入したことだし、この際何処へでもいくぜ。鍛えて下さい!」
「私も今のままじゃ、肝心な時は足手まとい…。いつも最終的にはカーズにアリアさんがいなくちゃ何もできない…。カーズは最初は目標だったけど、今は超えたいし隣で対等に闘いたいんです。サーシャさん、お願いします!」
真剣に頭を下げる二人。そうか…、一緒に闘う内に意識がどんどん高くなって来てたってことか。悔しさを感じるってことは現状に満足したくないってことだしな…。気持ちはよくわかる。俺もスポーツで上を目指した人間だしな。
「ってことだが、PTリーダーの意見はどうだ? カーズよう」
「そうね、リーダーの意見を聞かないとねー」
ルクスとサーシャが笑顔でこちらを見る。
「…戦力ダウンはぶっちゃけ厳しいが、二人の意識が高くなったからこその気持なんだろ? だったらこいつらの希望を叶えてやって欲しいのが本心だよ。さみしくはなるけどPTはそのまんまだし、いつでも帰って来れるだろ? その分自分も、アヤとディードも鍛えるさ。だから気が済むまで鍛えてやってくれよ」
四人が笑顔になる。どうせ俺が断るなんて思ってなかったんだろうけどさあ。わざわざ試すなよなー。
「よっしゃ、帰ってきたら勝負だからな、カーズ!」
「私もよ!」
エリユズとそれぞれ拳を合わせる。
「ああ、俺も負けないように頑張るよ。途中で泣くなよー」
神様がそれぞれについてるんだし、心配はしてないけどね。何回も死ぬ目に遭うことになるのはもう理解してるだろうし。
「じゃあ飯食ったら出発だな」
「先ずは
話を聞いていたアヤとディードは複雑そうだったが、彼らを頼りにしていては自分達の成長にならないという気持ちもあったのだろう。すぐに賛成してくれた。
「さみしいけど、その分私達が頑張らないとね、ディード!」
「はい、わたくしももっと強くなってみせます!」
新旧交代みたいになったけど、互いに成長したらいいんだしな。あ、そうだ。
「なあ、ルクスとサーシャが遭遇した
「俺が飛ばされたのは
「私は
もう戦況が決してる様な場所に無理矢理転移妨害で飛ばしたんだな。ファーレ、マジで性格が悪い。やっぱふざけてやがる…。
「ああ、そいつは財宝をばら撒く悪魔なんだよ。多分意味はないと思う。そして俺の世界に存在した大奥義書とかいうフィクションの魔術書を模倣して遊んでるんだよ。ふざけてるだろ? そんであの堕天神達は皇帝やら公爵やらを名乗って遊んでやがる。俺のところには竜王バハムートが操られて来たんだが、その二国には何かそういうものはいたか? 使役してる悪魔は6匹、1匹のサタナキアって奴は俺が滅却した。だから残りはさっきのも合わせて5体ってことだ」
「そうか、あれは操られていたんだな。混戦で気が回らなかったぜ。こっちには神鳥ガルーダがいたな…。なるほどそういうことだったのかよ」
「こちらには神狼フェンリルがいたわ。操られていたのね…」
「だったら残りは神獣グリフォンに、神龍ケツァルコアトル、不死鳥フェニックスに…と、このくらいか?」
ルクスが挙げた名前はRPGやファンタジーなんかじゃお馴染みだ。おいおい…マジでいるのかよ!
「ええー?! そんなん実在するのか? マジかよー…。ん? でもグリフォンはアリアが狩りまくってたみたいなんだけどな…」
胸元のグリフォンプレートを見る。
「ああー、アリアは一時期素材集めにハマってたからねー。グリフォンには嫌われてるでしょうねー」
「あいつは…、何やってんだよ? 自分の世界の神獣を狩ってたのかよ…。まあとりあえずその辺は操られてるってことだよな、解放してやらないと。隷属の首輪ってのを付けられてるからな。その後遺症で竜王様が今もおねんねだし」
アホだー、呆れてモノも言えん。まあとりあえず情報は集まった。後は出てきたところを潰すしかないな。
夕食前に狙ったかのように戻って来たアリアも含めて、全員で夕食中。竜王様は回復魔法をかけても中々回復しないので、まだお休み中だ。そして母さんの料理は久々だ、美味い。
「で? ジャンヌちゃんは見つかったのかよ?」
「ええ、
結局エリユズ達四人の出発は翌日、エリックはルクスに、ユズリハはサーシャに連れられて世界の調査兼修行の旅に出た。何かあれば互いに念話で伝え合えるし、緊急時にはこの家に集合する手筈になっているけどね。
「「いってきます!」」
晴れ晴れとした顔をして旅立った二人は少し大人びて見えた。これはもののついでだが、俺達の留守中に何かあると困るので、屋敷の管理人達もPTで経験共有状態にしておいた。これで多少の相手ならまず相手にならずにボコられる。化け物屋敷とか、その内言われそうな気がするけどね。
・
・
・
数日後、東大陸北部、ローマリア帝国帝都ローム。
大観衆の集まったコロシアムで今闘っているのは、赤毛がかった黒髪に黄金の美しい長剣を手にし、背中に弓を背負った女性と、筋骨隆々の巨体に巨大な
(もう飽きたわ、さっさと終わらせていいわよー)
観客席から見ていた、美しく輝く月の様な金色のウェーブの掛かった髪をした女性から、念話が飛ぶ。
(承知致しました。アルティミーシア様)
そう答えた女性は、一気に攻勢に転じる。
「ハァッ!!」
ガキィ! ギィン! ギギィン!!
高速の剣技が相手を追い詰める!
「アルティミーシア流ソードスキル」
ドパァン!!! バキィイイン!!
「
強烈な突きが、巨漢戦士の
「ぐっ、くそっ…」
武器を壊され、項垂れる男戦士。
「そこまで! 勝者アガーシヤ・ルーナ!」
大歓声の中、アガーシヤと呼ばれた女性は先程の観客席にいたアルティミーシアという女性の下へと歩み寄った。
「やはり月の民の敵じゃないわね。ニルヴァーナの民というのは」
「はぁ…、しかしこんなことをしていても良いのでしょうか? ティミス様…」
「ファーレがやられちゃったみたいでねー。折角最強の特異点を連れて来てあげたってのに。ゼニウス様に表立って逆らうのはこっちが不利になるし…。先ずはアリア、ここニルヴァーナの唯一神様でも尋ねましょうか。手土産にここの賞品でも持ってね。その方が向こうもコンタクトを取って来るでしょうし。アガーシヤ、貴女の魂の両親に会えるかも知れないわよ?」
「はあ…。では…、あと一戦。決勝も勝ってそちらへ向かいましょう」
アガーシヤと呼ばれた月の民の少女は、そう答えると再び舞台へと向かって歩み出した。
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おっと何か色々と起こるなあー。
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