第三章 44 神々の熱き闘い・贖罪と裏切り
「な……っ、私の奥義でも滅却できないなんて……?!」
アリアが驚きと困惑の声を上げる。
「フッ、さすがは神の奥義。だが貴様の技はあの腑抜けの記憶から全て知っている。アストラリア、貴様では俺には勝てん! さあ自分の技で自分が吹っ飛べ!!」
傷だらけのまま起き上がり、暗黒剣を頭上高く構えるナギストリア。嘘だろ!?
「
黒いレーザーのような剣閃がヤツの大剣から放たれる! マジかよ、アレを撃てるのか?
「くっ!」
「「避けろ/て! アリア!!!」」
サーシャとルクスの二人が寸前のところで、アリアをその軌道線上から救い出す!
ゴオオオオオオオォウッ!!!!
黒い一撃が通り過ぎた跡は、大地が黒く爛れ、腐敗臭がする。負のエネルギーの影響か? その地面を見ているだけで吐き気がしそうだ。
「フン、避けたか……。ハア、ハア……大人しく闇に飲まれれば良いものを……」
ナギストリア、かなり消耗しているようだな。これなら勝てるかもしれない。
「仕方ねえ、三人同時にいくぜ! 最大出力だ、構えろ!!」
「ええ、そうですね……、これで私達の過ちを消し去ることができるのなら」
「仕方ないわね、やるしかない!」
三人がそれぞれの神器を構える。
「分かたれよ、クローチェ・オブ・リーブラ!」
パキィーン!!
アリアの神器が2つに分離し、それぞれの手に握られる。あれは二刀にも変化するのか? ならば二刀流の奥義を使うということか、初めて見る。ならばヤツも知らない技ということになるな……。
「いくぞ! 神格を燃やせ、神気を高めろ!!」
「「「はああああああああ……!!」」」
三人の神気が高まり、天高く渦巻く! 離れた此方までその余波がビリビリと伝わって来るほどだ。
「うぅ……、凄まじい神気だ……。近づくのも危険なくらいに」
「うむ、神が三位一体となって放つのだ、小規模ながら宇宙創造のビッグバンにも匹敵するほどの力が生まれる。いくらヤツとて無事では済まん。ゆけ! 我が子達よ、あの悪鬼を消滅させるのだ!!」
大丈夫なのか? 想像もつかないが、エリシオンが崩壊するかもしれないほどの力の高まりを感じる。ダメだ、立っていられない。力なく膝を着く。
「喰らえ! 軍神の闘気を! 奥義・
「受けよ! 愛の女神の一撃を!
「正義の裁きを今ここに!
ルクスの大剣からは全てを焼き尽くす輝く炎の大砲の様なエネルギー波が、サーシャの神槍からは無数の星々の輝きの様な光の束が、そしてアリアの二刀からはあらゆるものを飲み込み切り裂く竜巻の様な一撃が放たれる!!! 3つの奥義が合体し、途轍もない力の奔流がナギストリアを襲う!!
「ぐっ、ぐおおおおおおおお!!!! ふざけるな、神共があああ!!!
ナギストリアの剣からも黒い波動が放たれる!
ガカアアアアアアアッ!!
両者の放った技が空中で激突する! 衝撃で吹き飛ばされそうになる俺をゼニウスが一層強固な結界で守ってくれた。どうなる?! 神々の三位一体が届かないはずがない! 空中でぶつかり、一つになって中間で均衡を保ち、くすぶるとんでもない質量のエネルギー! 神の三位一体と互角とは……、なんてヤツだ。だがそれが徐々に均衡を破り始め、ナギストリアの方へと押し返していく。いいぞ、押している、いけ!!
「「「はあああああ!!!」」」
ゴオゥッ!!!!
最後に三人が高めた神気が大きく均衡を破った!! 中間でくすぶっていた威力がナギストリアを飲み込む!!
「ぐぅうう!! ぐはあああああああ!!!!!」
ドオオオオオオオオオオオオオオ―――ンン!!!!
遂に神々の奥義がヤツを捕らえた! 凄まじい爆発とその余波が四散する!! 見たことなど勿論ないが、これが宇宙創造のビッグバンってやつなのか? エリシオンが、世界が崩壊するほどの衝撃が突き抜け響き渡る!! 爆発の光と耳を劈くような轟音、巻き起こる土煙で目を開けていられない。
「ハアハア、やっただろ?」
「ええ、さすがに……」
「あれでも消せないとなると……、ハアハア……」
爆発の轟音も徐々に失せ、土煙が晴れてくる。だが俺の目には信じられない光景が映る。
「う、嘘だろ……!?」
ズタボロの傷だらけになり、体中から血を流しながらもその場に意地のように立ち続けるナギストリア。だが最早力は残っていないだろう。甲冑も粉々、暗黒剣にも大きく何本も亀裂が入っている。もう勝負はついたはずだ。
「く……、おのれえええ!!! 神共がああああ!!!」
傷だらけの状態で叫ぶナギストリア。コイツ……、まるで自殺でもしたいかのように見える……。自らを破壊したいとでもいうような……、そこまでして闘う理由が俺には最早理解できない。
「……もうやめろ! そこまでしてお前に何が残るんだ!? 勝負はついてるだろ、死にたいのか!?」
「フン、惰弱な……。カーズ、貴様には理解できまいよ。だが、死にたいのか、か……、ククク、そうかも知れんな……。それに俺に残っているものなど憎悪しかない。全て奪われたのだからな!」
くそ……、俺の言葉はコイツには届かないのかよ……。
「それにしても……、ククク……、面白い。さすがは腐っても神か……、よもやここまで追いつめられるとはな!」
「もうあなたに闘う力は残っていないでしょう。そのまま投降しなさい!」
アリアが声をかける。どう見ても勝負アリだ、これ以上抵抗しても無駄だろう。それにここは天界、もっと多くの神々がいるはず。ゼニウスが呼べば恐らく、それぞれの管轄の世界から転移して来ることも可能だろうし。
「断る、貴様らに投降するなど反吐が出る! それに時間稼ぎついでだが、貴様らの力も理解できた、そしてこちらも漸く解析が終わったところだ! 来い、お前達!!
地面に血塗れの右手を叩きつけると同時に、3つの巨大な魔法陣がナギストリアを囲むように出現し展開されていく。裏切りの召喚? だが邪神とは違う、何を呼び出したんだ?
「あれは!?」
「おいおい、何てことしやがる……」
「神格から神気の波長を辿ったというの!?」
何だ? どういうことだ? 邪神ではないが、恐ろしい程の力を感じる。
「マズい! カーズよ、そこを動くでないぞ!」
ゼニウスが懐から白い
「くそっ! 大神め、邪魔をするなあああ!!」
まだ召喚術の最中だ、あれを妨害するつもりなのだろう。他の三人は大技の直後の反動でまだ動けないようだしな。
「これを狙っていたとはな。使いたくはなかったが……、神の未来視を甘く見るでないぞ! ここで貴様を封じれば全て終わりだ!」
スクロールを広げると同時に
「ここに我が力を注ぎ、悪鬼を封ず!
「ぐああああああ!!!」
スクロールに描かれた魔法陣へとナギストリアの黒い負の力が吸い込まれていく! だがどれだけの力を残しているんだ? 黒いオーラが次々と吸い込まれていく中、執念のようなものでその場に留まり続ける。そしてヤツが展開した3つの魔法陣から三人の神気を放つ奴らが次々と現れる。だが何だ、ここにいる神とは違う。放つ神気もあの邪神のように黒く禍々しい。女性二人に男性一人、何なんだこいつらは?
「くっ、いかん! 我が子達よ! 奴らを止めるのだ!」
ゼニウスがアリア達に叫ぶ。
「チッ、余計な手間を増やしやがって!!」
「仕方ないわ!!」
「まさかこんなことまで企んでいたとは!」
アリア達三人が召喚された神々に斬りかかる!
ガキィイイン!!!
それぞれの武器で応戦する召喚された神達。何なんだよ一体?! 状況が理解できない。
「奴らも取り込め! 封神結界よ!!」
ナギストリア一人に向けていた封印術を4つに分散させる。それぞれの力の波動が、現れた奴らも飲み込み、その力を吸収していく。だが4人も吸収するにはスクロール1枚の力では足りなかったのだろう、それでもかなりの力を吸い込んだように見えるゼニウスの結界術らしきものは力を失った。
「信じたくはなかったが……、やはり繋がっておったか。ルシキファーレ、バアルゼビュート、アーシェタボロス……」
ギィンンン!!!
鍔迫り合いをしていた三人も距離を取る。また訳のわからない奴らが出て来やがった、何が起こってるんだよ?
「ハア、ハア……、さすがは大神と言っておいてやろう……。俺達の力の大半を封じられるとは……。だが最早その術は力を失ったようだな。来い、お前達!」
三人の召喚された奴らが、まだその場に蹲っているナギストリアの元へと集まる。
「大丈夫ですか? ナギストリア様」
一人の女性が声をかけた。長い黒髪に黒い堕天使のような翼。この美しいエリシオンには似つかわしくない不気味さだ。
「力の多くを失ったが、動くのに問題はない。お前達はどうだ?」
「同じく私達もかなりの力を吸収されましたが……。然したる問題はありません」
この女性も少し短いが黒髪だ。そして黒い悪魔のような翼が生えている。
「我ら三神あなた様へ、今ここに忠誠を誓う」
この男は一層気味が悪いな。長い蠢くような黒髪に、まるで昆虫のような羽が4枚。それに三神? やはりこいつらは神なのか? ナギストリアの前に跪く三人。だがなぜナギストリアがこいつらを喚び出した? 何者なんだ? 悪そうな奴らというのは見たらわかるが……。
「カーズよ、大事ないか?」
ゼニウスがスクロールを持って此方へと転移して来た。
「はい、俺は大丈夫です。でもあいつらは…?」
「奴らは邪神の封印を解いた罰として、神の牢獄へ幽閉していた者達だ……。黒い翼の女がルシキファーレ。虫の羽の男がバアルゼビュート。蝙蝠のような翼をしたのがアーシェタボロスだ。ナギストリアが使った裏切りの召喚で完全に闇に堕ちたということだろうな。あのような異形に変化したということは……」
ヤツが使ったのは裏切らせて召喚する術だったってことか? だがなぜ肉体を得たばかりでそんなことができるんだ? くそっ、情報が足りなさ過ぎる。
「ん……? 他の神々と同じで俺が知っているのとは多少名前が異なるけど……、ルシキファーレということはルシファーか? バアルゼビュート、こいつはベルゼブブ、アーシェタボロスはアスタロトってことか? 悪魔として伝わっているが、元々は神だったってことか? いや、ルシファーは元は天使って言われてるし、あながち間違いという訳ではないのか……?」
まあいい、大して役に立つ知識じゃないな。
「ほう、お主がいた世界ではそのような伝承があるとはの……。だがまずは奴らを何とかせんといかんな。しかし、どうしたものか……」
「おい、テメーラ、何やってやがる!? 更に罪を重ねようってのか?」
ルクスが声をかける。
「しかもそんな危険な人間に下るとは……、どういうつもりなの?」
サーシャの言う通りだ、先程まで異常な強さを見せていたが、ヤツは本来人間だ。なぜ神が忠誠を誓うんだ?
「ええ、罪を犯したとはいえ、あなた達は……。なぜなのです!? ファーレ、バルゼにアーシェス!」
アリアが口にしたのは、おそらくあだ名か。あの口振りから元々悪い奴らじゃなかったってことだろうか?
「フッ、我々はこの変化のない天界にうんざりしてきていたのだよ。アリア、君はまだ若いからわからないかも知れないがね」
ルシキファーレ、ファーレと呼ばれた女性が答える。ルシファー、本物は女性だったのか……。
「その通りだ。都合のいいように下界に干渉しておきながら、気に入らなければ滅ぼすといった支配体制もな。ナギストリア様は我らに人の生の尊さを教えて下さった。更に牢獄からも救って下さったのだ」
こいつはバアルゼビュート、バルゼとか言われてたな。虫の羽……、ということはこいつはその内デッかいハエになるってことだろうか。
「そこへ運良く特異点の転生が重なったのよ。その彼、いや今は彼女みたいね? その子に分け与える神格に私達がとびっきりの悪意の一滴を込めておいてあげたということよ。気の遠くなる年月の憎悪が燃え上がるようにね」
アーシェタボロス、アーシェスと呼ばれていたな、こいつは嫌なタイプだ。ねちっこくて性格が歪んでそうなのがわかる。こいつらが余計なことをしてくれたということだな、魂のアポプトシスがうまく機能していなかった俺の知らない心の中の憎悪も、こいつらがくだらんことをしたせいで目覚めるきっかけに繋がったと。そういうことか、腹立つな……。
「そうして目覚めた俺の前に都合よく邪神が現れた。メフィストフェレスがルシファーの配下だと言っていただろう。特異点に敵うはずもない雑魚を召喚してくれたおかげで、俺は奴の神格を取り込み、完全な自我を手に入れた。最後は肉体のみ。そいつの体を乗っ取ることには失敗した。だが貴様ら神々は大虐殺の汚点である俺を見過ごすはずがない。ならばどうだ、わざわざ秘術まで使って俺を切り離し、実体化させてくれるとはな。やはりお前達神々は蒙昧で傲慢、更に短慮で浅ましい程愚かよな」
ここまで予想通りに事が進んだとでも言いたそうだな。それにしてもうまくいきすぎだろう。しかしこいつらだって腐っても神だ、俺が理解できないことを簡単にやってのけても不思議じゃない。
「で? これからどうするってんだ? ここでお前らを潰せば全て終わりだ。くだらねえ奸計だったな」
確かにルクスの言う通りだ。奴らは力をかなり封印された。アリア達が奥義を使って消耗しているとはいえ、まだこちらに分があるように見える。
「これであの世界には特異点が7つも存在するという混沌の時代が訪れる。今回はここでお開きにしてやろう。行くぞ、お前達」
くそっ、逃がしてたまるか。ここまで追いつめたんだ、何か、何かないのか……? 体力も魔力もない、神格を燃やす力も……。ならば、俺が燃やせるのはただ一つしかない!
「く……、おおおおお!!! 燃えろ! 俺の命よ、せめてヤツに一矢報いる力を!」
ゴゴゴゴゴゴ……
「よせ、カーズ! その状態で無茶をするな! 俺達に任せておけ!」
「カーズ! やめなさい!」
ドンッ!!
燃やした命の炎でヤツに飛ぶように突撃する!
「邪魔だ!」
立ちはだかる3神を吹き飛ばし、ナギストリアに迫る。そして左手の拳を振り抜いた!
ドゴッ!!
「うぐっ!!!」
渾身の一撃がヤツの顔面を捕らえたが、魔力も乗っていないただの意地と根性で放った拳だ。衝撃追加は発動しない。そのままヤツともつれるようにして倒れる。
「逃がすかよ……。ハァハァ……、どうせくだらないことでも企んでるんだろうが……?!」
そうは言ったものの、もう力が入らない。
「最後の力を無理矢理振り絞ってまで俺に一撃を届かせるとは…。惰弱な貴様にしてはよくやったな……。がはっ……、だが今のは効いたぞ。お返しだ、奴らのところまで吹っ飛べ!
ドオオオ――ン!!
「ぐああああ!!」
ヤツの放った黒い衝撃に吹き飛ばされる!! こいつ、まだこんな力が……。
「おっと、お前は無茶しやがって……」
ルクスにガシッと受け止められる。
「行くぞ、お前達、さっさと起きろ」
「「「ハッ」」」
俺が吹っ飛ばした三人も起き上がり、ナギストリアに肩を貸して支える。
「逃がすと思っているのですか?!」
アリアが構える。
「フッ、一時撤退だ。お礼はまたさせてもらおう」
マズい、転移するつもりだ。
「逃がすか! 受けよ、大神の雷を!
ドオオオオオオオオオオオオオオンン!!!!
ゼニウスの強大な雷が奴らを捕らえたと思ったが…。遅かったようだ、最早奴らの気配はない。
「逃げたか……、ニルヴァーナに向かったのであろうな」
「あんなのが地上に降りたらとんでもないことになる……、でも今の俺では、ヤツには勝てない……。訳がわからないこともたくさんだ」
「……でも今は一旦休むべきね。私達も消耗しているし、彼らの力は大きく削いだ。すぐに何か大きなことをすることはできないはずよ」
「そうですね、サーシャの言う通りです。先ずはカーズを休ませなければなりませんし……」
「ここもメチャクチャだしなあ。ちょっと派手にやり過ぎたか」
ルクスの言う通り、眼前に映るエリシオンの光景は酷いものだ。大地が焼け焦げ、技の威力でクレーターのようなものが至る所にあるし、倒壊した建物もある。神々の闘いとは、なんという凄まじさなんだと思い知らされる。
「そうだな、では一度大神殿に戻るとしよう。今後のことも決めねばならん。先ずはしっかりと休息を取ることにしようかの」
そうして俺達は大神殿で暫し休息することになったのだった。
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