第三章 43 凶ツ者<マガツモノ>
ナギストリア? 誰だよ、俺の元の名を捩ったようなこいつは。
「ククク……、漸く自分の肉体を得ることができた。神の秘術を使って俺を転生させてまでその体から取り出すとはな。しかも貴様らはあの時の三人、それに大神までもがガン首揃えるとはありがたい。さあまとめてぶっ潰してくれる!」
背中から巨大な黒い大剣を抜くナギストリア。おいおい、いきなりバトル展開かよ、説明してくれ。
「待て、何なんだそいつは? ちゃんと教えてくれよ」
「……っ、彼は私達神々が二回目の大虐殺のときに救ったときのあなたです……」
アリアが口を開いた。
「ああ、だがまるで感じが違う。あんな物身に着けてはいなかった、何の力も持たない只の人間だったはずだ」
ルクスも知っているのか。だが俺の心の中で語り掛けてきたヤツの証言と一致する。ここが全ての憎悪の始まりとか言ってたしな。
「あれが……、遠い過去の俺の姿なのか?」
「ええ、その通りよ。彼とあなたの大切な人、今はアヤと名乗ってるのよね、彼女と一緒に救出したときのあなた。でも、まだその時の姿を保っているなんてね……」
サーシャも現場にいたということだな。
「だがあの異常な禍々しさは何だと言うのだ? あの時のヤツにあのような力などなかったはずだ……」
ゼニウスは大神だ、さすがに知っているってことか。アリアと話して聞いた限りじゃ、単なる普通の人間だったと言ってたしな。それにしては異常だ、とても人間には見えない禍々しさ。鑑定しても何も視えない。体を乗っ取られた時も俺より遥かに強力な技を放っていたし……、わからないことばかりだ。
「やはり神というものは蒙昧だな。貴様らは自分達の行いが全て正しいと思っている。救済だと? 笑わせるな! 俺とアガーシヤを救うと言っておきながら、一緒にいた俺達の家族や友人達までを惨殺したクズ共が何をほざく。それに俺達はあの時言ったはずだ、大切な人達を殺されてまで、貴様らのそのくだらない救済など受けたくないと……。無力な自分に歯ぎしりしながら、泣きながら訴えたはずだ。彼らと一緒に殺してくれとな……。それを……、そして勝手な救済とやらで別世界に飛ばしやがった。そのせいで俺もアガーシヤも余計な苦しみを味わうことになったのだ……、気の遠くなるような年月をな!」
そうか、そういう理由があったのか……。恐らくアガーシヤとはアヤのことだ。ヤツを一概に悪とは言い切れない、あんな苦しみを何度も繰り返して来たのなら……。今の俺だってアイツのようになっていたかもしれないんだ。
「ですが……、あれは天界の総意。清らかな魂を持つあなた達を救うためには仕方のないことだったのです!」
アリアが叫ぶ。確かに救える者がいたら救うために生まれてきた彼女なら、そう思うだろうな。だが俺にはヤツの気持ちがわかってしまう……。同じ状況に置かれたらきっと、同じことを思ってしまうはずだ。それ程の絶望がヤツから伝わって来る。
「清らかな魂だと? 片腹痛い! 貴様のその下らない権能の為に俺達は家族を、友人達を、そしてアガーシヤとの未来までも失ったのだ! 神の傲慢とはまさしくこのことよな。無駄に永い時を生きることしか能のない貴様らが俺達人間の、短くも儚く、凝縮された生を語るなどおこがましいのだ!」
くそっ……、気持ちはわかる。だが、もう終わったことだ。いつまでも何かを恨み続けるなんて辛いだけだ。
「やめろ、お前の気持ちはわかる……。俺も人間だからな、その時の俺がお前だったら同じことを思っただろうさ。でも神だって全知全能って訳じゃない。それは一緒に行動してきた俺にはわかる。それに、もう終わったことだ。お前がこれ以上その憎悪をまき散らす必要なんてない!」
「黙れ、貴様のような腑抜けがほざくな。世界の、神々の押し付けてきた理不尽がどれほどのものかもわからず、名と共に俺を捨てた俺の半身よ。カーズ、貴様は大人しく世界と天界の崩壊を見ていろ」
「っ……、確かにそうかも知れない。俺にはその記憶がない。だが俺はお前の気持ちもわかってしまう。それに捨ててなどいない、名を変えたのは、今となっては過去との決別だと思っている。それにアヤとも巡り会えたんだ、もう終わったことで苦しむな……」
「フッ、お前如きがわかったような口を訊くな。最早問答無用! アガーシヤも俺がいただく、受けろ! 暗黒の魂の波動の
ヤツを中心に黒い神気を纏った衝撃が放たれる!!!
ドオオオオオ―――――ン!!!!
「「「うあああああああ―――!!!!!」」」
「「きゃあああ!!!!」」
巨大なドームの様な天井の壁を突き破り、果てのない天界の空高くまで投げ飛ばされる!! 何だ!? このとんでもない威力は!??
ドシャアアアアッ―――!!!
空中でも身動きが取れず、そのままエリシオンの花の園へと叩きつけられる!!
「がはっ……! 何だ……? 今の、とんでもない技は……、って、おい、アリア!!」
「カーズ、無事ですね、良かった……」
アリアが俺を抱き止めるようにして、地面への直撃から守ってくれている。義骸から抜け出したのか装備も見た目が変わっている。そして輝く様な真紅の鎧、これはアリアの
「ぐう……、中々やりよるの、小童が……」
「なんつー攻撃だ、俺達をここまで吹っ飛ばすとは……。普通の人間にできる芸当じゃねえ……」
「ええ、でもなぜ彼にあれ程の力が……?」
全員あの一瞬で神衣を纏っている。サーシャは金と紫の、ルクスは黄金、ゼニウスは白銀のような色合いの神衣だ。だがそれでも多少のダメージはあったように見える。それぞれがそれを堪えながらゆっくりと立ち上がる。
「教えてやろう、それが人間の思いの力というものだ」
大神殿の中から転移してきたのか? いつの間にかナギストリアが近くに立っている。
「無意味に永い時を生きるしか能のない貴様ら神々には決して扱うことなどできぬ力よ」
ヤツの言うことは何となくだがわかる。思いの力が奇蹟的な結果を生むことだってあるしな。人にとっての5000年と神のそれとでは密度が違うと言いたいのだろう……。
「だとしても、ここまでの力……。人間一人の力を大きく超えているわ……」
サーシャの言う通りだ。こんなの人間の扱える力じゃない。
「まだわからんのか。俺の中には永き時を共に過ごした何千、何百という俺自身の思いが存在しているということが……」
なるほど、そういうことか。人一人の力は小さくても集まれば大きなものになる。
「サーシャ、話すだけ無駄だ! こんな危険な奴、ここで潰すしかねえ!! 来い! 俺の神器よ、神剣
ルクスの手に炎を纏った大剣が現れる。凄まじい熱量だ、近づくだけでもあらゆるものが蒸発しそうな炎、いやマグマと言った方がいいかも知れない。軍神の闘志を表すかのような神器だ。
「そうね、その通りだわ。顕現せよ、我が神器!! 神槍
サーシャの手にも右に黄金のポールアックスのような槍と左腕にも黄金の丸い盾が現れ、装着される。これが戦いの女神の神器、なんて生命力に溢れ神々しい……。
「くっ、しっかりしろ、アリア! ヒーラガ!」
残った最後の力でアリアに回復魔法をかける。もう俺の魔力は0だ、男性体を保てない。自動回復で回復するのを待つしかない。闘っている彼らに魔力を分けて貰うことなどできないしな。
「カーズ、助かりました。あなたは体を休めていなさい。これは私達の業。私達神の手によって決着をつける必要がある、ゼニウス様! カーズを守って下さい!」
側に転移してきたゼニウスの巨体に抱え上げられる。悔しいが今の俺にはどうしようもない、それに万全でも神器のない俺には戦う手段がない。
「アリアよ、カーズは任せよ! ゆけ!!」
「はい! カーズ、待っていてくださいね」
アリアの背を見送る。
「くそっ、俺のせいで……!」
邪神戦のときよりよっぽど悔しさを感じる。無力だ。アイツが俺なら、俺が止めないとならないはずだってのに……。悔し涙が浮かんでくる。
「お主は何も気にするでない。あれは我らの過ちだ。神の手で決着をつけねばならん。余はお主を全力で守る。だからそこで我が子達の闘いをよく見ておくのだ」
離れた場所に降りるゼニウス、同時に強固な神気結界を張ってくれる。俺は背中に背負われたままだ。
「っ……、何もできないなんて……!」
「お主は先程の儀式で力を失っておる。戦わせる訳にはいかん。悔しいだろうが耐えてくれ」
「わかりました……。でもせめて自分の足で立ちたい。それくらいの体力、回復させてもらえないですか?」
ゼニウスから力を分け与えられ、体力が回復する。だが立っているのがやっとだ。おそらくこの人は俺が動き回れるようになったら飛び出すのがわかっているのだろう。それにいざとなればこの人も戦う必要がある。俺に力を少し分けてくれただけでも感謝するべきだな。もう体は女性体だ、魔力が足りていない。今は彼らの闘いを見届けるべきだ。
「来なさい! 神器
アリアの手にも以前俺が手にした神剣が現れる。鍔に天秤のデザインが施された眩い十字架のような聖剣。そしてルクスが先陣を切ってナギストリアへと突撃する。
「オラァ!!」
ガキィン!!! ドオオオオオーン!!!
ヤツの剣と斬り結んだ瞬間にルクスの剣から凄まじい爆発が巻き起こる! 辺り一帯が焼け焦げるほどの衝撃追加だ。
「ぐっ、さすがは軍神、大したパワーだ」
アイツ、爆風で後ずさりはしたが無傷とは……。どうなってるんだ。
「俺の神剣エクスプロージオの一撃に耐えるとはな……。何だ、その剣は?」
確かにあの強烈な一撃でもヒビ一つ入っていない。改めて見るとやはり禍々しい黒剣だ。
「これは負の感情、闇の力を結晶化してできた暗黒剣
なんて悪意の籠ったネーミングだよ。神に対しては皮肉たっぷりだ。コイツ、やっぱ腹立つな……。
「どいて、ルクス! ハアアアッ!!!!」
ギィンン!!! ズンッ!!!
戦いの女神の神器、巨大なポールアックスの斧の部分を大剣で受ける。その衝撃が地面にまで伝わり、クレーターのようなものが出来上がる! なんつー威力だ、しかもアレを防ぐのか? いや、さすがに衝撃が大きい、片膝をつくナギストリア。
「これを防ぐとは……、やりますね」
「フッ、愛など知らぬ只の戦い狂いの女神が……。吠えるな!」
ガギイィ!! パア――ン!!!
ナギストリアの横薙ぎの反撃を盾で防ぐサーシャ。
ズシャアアア―――!!!
「ああっ!!!」
「ぐはっ!!!」
地面を削りながら仰向けに倒れる両者。だが三対一だ、ヤツの力は底が知れないが、まだこちらに分があるような気がする。
「サーシャ、ルクス!! そこを空けて! アストラリア流ソードスキル・奥義!!」
両手で剣を頭上に構えるアリア。あの構えは……。
「
カッ!! ゴオオオオオオオ!!!!
やはりか、振り下ろした剣先から放出されるレーザー砲のような剣閃! 本家は違う、俺が放った威力の比じゃない。形容し難い威力だ! さすがにアレを受けて無傷はない!
「ぐおおおおおおおおっ!!!!」
ドゴオオオオオ――――!!!!!
大地が抉れる! 強烈な閃光が目の前を通過していく! 眩しくて目を開けていられない。これが神々の闘い……?! 例え神器を貰ったとして、俺がここまでの境地に辿り着けるのか? 否、想像も付かない……。凄まじい奥義の一撃が炸裂する!
「やった……!」
これは決まっただろう。俺の一撃でさえパズズを粉砕できたんだ。原型を留めているはずがない。
「いや、まだじゃ……」
嘘だろ!? あんなのを喰らって? 土煙が晴れていくと、ブスブスという焼け焦げるような音と匂いがする中、ナギストリアが肩膝を付きながらも剣を盾にして耐えている姿が目に映る。だが額からは血が流れ、冥界の宝石のような黒い甲冑もかなり損傷している。マントもボロボロだ、確実にダメージは入ったはずだ。
「ククク……、いいぞ、もっと俺に対して憎悪を燃やせ……!」
何なんだ、コイツは……。なんでそこまでして戦うんだ。コイツは本当に俺なのか? 俺はナギストリアの執念のようなものに恐怖を感じた。
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