第一章 8   陰謀? そして始まりの街へ




「終わったよ。怖かったでしょ? もう大丈夫だからね」


 馬車を覗き込みながら言う。王女様は極限の緊張状態からは抜けたようだが、まだはっきりと喋れるほどはショックから回復はしていないようだ。


《カーズさん、恐らく彼女は恐慌状態にありますね。他の乗員も含めて。護衛の2人はカーズさんの戦いを見て実力差に驚愕して自失茫然じしつぼうぜんしてます》


 そんなすごいことはしてないが……、自失するほどか?


(そうなのか? どうしたらいい?)

《状態異常を解除する聖魔法『キュア』がありますが、全員を一気に治療できる上位の『キュアラ』が適していると思われますねー》

(わかった、やってみよう)


 王女様を含む一行に聖属性の魔力を練る。そして両手をかざした。


「キュアラ」


 優しく暖かい光が一帯を包む。その場の全員がはっと自我を取り戻し、心を落ち着かせることが出来たようだ。今度は喋りかけても大丈夫だろう。


「もう大丈夫だよ。心も落ち着いたはずだけど。他の皆さんも、大丈夫ですか?」


 王女様と思しき方が立ち上がり、侍女達を連れて馬車を降りる。護衛騎士二人に執事と御者のオッサンも姫の周りにぞろぞろと集まる。

 お姫様はドレスの裾を上げて一礼すると、俺の前にひざまづく。そうすると他の従者達も同じように跪く。彼女が話し始めるのを待っているようだった。


「あ、あのー? 頭を上げて下さい。そんな跪かれるような大したことはしてませんから……」


 こう跪かれて言葉を待つなど、何とも居心地が悪い。しかも今は女性体だ、さっさと出来れば逃げたい。


《あはー、カーズさん。慣れてませんねー? こういうことに(笑)》

(当たり前だ! こんなのどこぞの独裁者か魔王、昔の天皇か江戸の将軍だぞ? 慣れてるわけがないだろ)


 などと念話で話していると、王女様が口を開く。


「此度は危ないところを助けて頂き、誠にありがとうございます。何とお礼を申し上げたらよいか分かりません。私は隣国クラーチ王国の王都から参りました、クラーチ王国第二王女、アーヤ・クラーチと申します。勇敢な貴女のお名前を伺っても構いませんでしょうか?」


 やっぱ王女様だったのか。どうりでオサレな服装のはずだ。しかし、王女様含め全員が跪いているこの状況は何とも居心地が悪い。まるで印籠をかざしたじいさんだ。


「その前に皆さん顔を上げて下さい。偶然近くにいたし当たり前のことをしただけですし。ささ、立ってくれませんか?」

「いいえ、今我々全員が生きていることは貴女の御陰おかげです。そのような大恩ある方に礼を尽くさずしては我が王家の名折れです」

 

 うーむ、中々に強情な人だな。芯が通っているというか頑固というか。でも誠実そうな方だ。まあ本心なんだろうから嫌な気分はしないな。


「では立って楽にしてもらえるのならば名乗りますよ。こういうの慣れてないんで居心地悪くてー」

「貴様あ、小娘が! 我らが姫の心遣いを無下にするか!」


 お、執事のじいさんが怒り出したぞ。なんか悪いことしたかなあ? てかこういう奴もよくいるテンプレだなあ、助けてやったのに身分的な優位をかさに着て認めんぞー的な痛い奴。笑いそうになるがこらえる。魅了かけてやろうかな。はぁ、しかも小娘ときたよ、ちょっとムカつくな。


「無下になどしてないでしょう? 上から目線みたいな感じで話したくないだけですよ。楽にしてくれた方が俺も余計な気を遣わなくて済むんでね」

「ワルド、止めなさい! この方の御陰おかげで我々は今生きているのです、そのような無礼な口を訊くなど王国の品位が疑われます! なんならここで貴方を解雇しても構わないのですよ?!」


 おぉー、言うねぇー王女様。威厳があってこれぞ王族って感じだ。俺のような根無し草にも敬意を払ってくれるし。王族なんてどの歴史を見てもクソの掃き溜めと思ってたけど、そうでもないのかな?


「ぐっ、しかし……」


 苦虫を噛み潰したような表情の執事ワルド、こいつハゲてんなー、うんハゲ執事Aでいいな。こいつはなんか嫌い、もう帰りたい。モフモフな猫がいたら今すぐお腹に顔をうずめたい。


「申し訳ありません。私の従者が失礼を」

「ん、まあいいよ。王女様がどこの馬の骨ともわからない奴に頭を下げるのが気に入らなかったんでしょ? それにあなたのことを心配してるんでしょうし、俺は別に気にしてないから」


 俺は立ち上がらない強情な姫様に合わせるように、その場に座り胡坐をかいた。


「これならいいかな。目線を合わせて対等に話せるし。俺の名前はカーズ・ロッ―」

《ダメです! ファミリーネーム名字は!》


 突然アリアに止められた。なぜだろう、とりあえず従っておくか。


「っと、俺はカーズと言います。冒険者、根無し草の旅人ってとこですね。近くの街に行こうとしてたところです」


 昨日からだけど。まあ嘘ではない、住むところもないし街に行って冒険者登録もこれからするしな。


「ではカーズ様と呼ばせていただきますね。私と同じくらいの歳の女の子に見えるのに、素晴らしい戦いぶりでした! まるでおとぎ話の勇者様のようで……、素敵でした……!」


 がしっと俺の手を掴んでぶんぶんと振り、興奮気味に前のめりになって顔を近づけてくる。近い……。それにやっぱりお姫様だけあって美人だ、前世では見たことがないような美貌だし。

 まだ幼さは残るものの、これから成長すれば更に美しく色香を増すだろうな。大きく赤い瞳に透き通るような長い銀色の髪が輝き、純白のドレスもよく似合っている。女性らしいいい香りもする、香水とか使ってるんだろうか。どんな芸能人やモデルも霞んで見える。

 だが女の子に女の子と呼ばれるのも複雑だ、俺男なんだよ。ごめん。


「ああ、本当に美しい……。まるで女神様の様です……」


 うっとりとしてそんなことを言いながらどんどん近づいてくる、何だ、なんか様子が変だな。俺の頬に両手を当てて迫って来る。まあ女神の体だしな、ちょっと因子? が入ってるだけだけど。


(アリア、何だか様子が変だぞ!)

《あははー、カーズさん、魔眼の魔力切ってますかー?》

(いや、魔力切るって何だよ。もう使ってないだろ?)

《うーん、完全に遮断できてないですねー。魔力の残滓が眼に残っていますよー。Sランクの魔眼なので魔力が残ってるだけで無意識に魅了効果が発動しているようなものですからー。完全に遮断するイメージを眼に送ってくださーい》

(わかったやってみよう。もう姫さんの顔が近すぎてヤバいんだよ)


 眼からの魔力を遮断する。瞬間、アーヤ王女の魅了が解除される。そして彼女は自分の行動にはっとして驚き。真っ赤な顔をしてしどろもどろになりながらも、何故か頬に当てた手は放してくれない。


「ああっ、私としたことが! なぜこんなことに?! 申し訳ありません!」


 とりあえずアーヤ王女の手を掴んで顔から遠ざける。元気な子だなー。


「すいません、さっき使ったスキルの効果がまだ消えてなくて。でももう魔力を切ったので大丈夫です。まだまだ未熟なもので……。申し訳ない」

《あのままチューしても良かったのにー。ヘタレですねー、お姉ちゃんは悲しいですぅー、よよよ》


 こいつ……、絶対わかってて知らんぷりしてやがった。しかもお姉ちゃんポジション崩さないつもりだな、よよよとか言いやがって。女性体でゆりんゆりんな展開とか、頭が痛いわ。魅了怖い。近くに来たのが男だったら絶対殴ってた。


「うーん……」


 狼狽しているアーヤ姫を見ていると誰かを思い出すな……。頭に手をやって唸っている姫を見ていると……。誰だろう、懐かしい気持ちはする、顔立ちもどこかで……。いや、分からない。アリアが消した記憶の中の存在? いやそれはない、だって俺しかこのニルヴァーナに転生した人間はいないはずだ。今は何となく気になる程度にしとこう。すっごく可愛いからってわけじゃないよ。


「アーヤ姫、襲って来た連中に面識や心当たりはあったりしますか? 他の方にも同じことを訊きますが。こいつらのことを知ってたりします?」

「いえ、私には全く。なぜ私がここを通るのを知っていたのかも……」


 アーヤ姫は考え込むも、全く分からないようだ。他の従者達にも目をやるが、お互いに『??』って感じだ。


「賊共はアーヤ姫を攫って依頼者に渡すようなことを言っていました。そしてここを通るのが分かっていたかのような襲撃。おかしいとは思いませんか?」

「確かに……、そう言われればそうですね。なぜ知られていたのでしょう? 今日私がここを通ることは王族と関係者しか知らないはずですし……」

「それと護衛の人数やレベルです」


 むっ? と護衛騎士の二人が緊張感のある表情でお互いを見た。


「申し訳ないが、二人はまだ新米の騎士では?」


 護衛の一人が話し始める。


「えーと、俺はギグス。でこいつはヘラルドだ。確かにお嬢ちゃんが言う通り俺たちはまだ新米だ。お嬢ちゃんの戦いを見たが、目で追えないような動きが何度もあったくらいだし、あんな盗賊如きに負けるなど騎士団の顔に泥を塗ったも同然だ。お嬢ちゃんが来なかったら俺たちは確実に死んでいた、礼を言う」


 金髪の優男な感じのギグスと群青色の髪をした大柄で無口な感じのヘラルド。二人が頭を下げる。おぉ……、ちゃんと教育されてるなあ。さすが騎士って感じだ。


「じゃあギグスにヘラルド、二人はこの任務が自分達の実力に見合ったレベルだと思ってたか?」


 俺の言葉に考え込むギグス。代わりにヘラルドが答える、


「そう言われてみればなるほど、我々は王族の護衛を任されるほどの実力ではないな」

「おいヘラルド、簡単に認めるな。俺たちは王国の剣だ。どんな任務でもこなしていかなければならないんだぞ。そんなことでどうする!?」


 食って掛かるギグス。だがヘラルドはちゃんと自分の実力を把握しているようだ。


「なるほど、ギグスの騎士団の矜持きょうじみたいなのは分かった。だが実際はあんな雑魚盗賊に完敗だ。誇りを持つのは良いとは思うが、まずは自己研鑽すべきだな」

「ぐっ、確かに嬢ちゃんが正しいな。俺達では嬢ちゃん相手に瞬殺されるだろうしな」

「それが問題なんだよ。お世辞にもまだ強いとは言えない新米騎士二人で王族の護衛なんて襲ってくれと言ってるようなもんだ。人数が3、4倍いるならまだしもだ、それでも確実に誰か死ぬ。このレベルの騎士二人のみで任務、これを決定着けた奴がまず怪しい」

「そんな……。我々は捨て駒にされたのか?!」


 ヘラルドが何とも言えない表情をした。悔しいのだろう、何かしらの陰謀の為に捨て駒扱いされたのだろうし。


「偶然選ばれたとしても怒りはもっともだ。騎士団の任務決定の責任者は恐らく黒だ、更に盗賊と関りがある奴が王宮内にいる。こいつもきっと地位が高い。でなければ王女を巻き込むこんな大掛かりな陰謀なんて出来っこない」


「ではもしカーズ様が現れなければ……」


 アーヤ姫が自分の身体をギュッと抱きしめる。


「今頃依頼人のところに運ばれて、下手したら死んでいる。それにこの手の罠は厳重なはず。先遣隊が今のなら、王都に帰る際にも似たようなことが起こるはずだ。違う賊やもっとヤバい奴が襲撃に来る可能性もある」

「そんな……。王宮内や騎士団に裏切者が……?」


 アーヤ姫の細い肩が震える、出来れば力になってやりたいが……。王族の問題に巻き込まれるのはなあ……。せっかくのんびり生きたいと思ってた矢先だ。て言うか、もう巻き込まれてる様なもんだよな。


《カーズさん、ギルドに護衛クエストを出してもらって依頼をしてもらえるように頼むのはどうでしょう?》

(それは俺も考えた。王族が出す依頼だ、食いつく奴はいるだろう。だがこの国の冒険者がどんなレベルにあるのか分からなければ死体を増やすことになる。最悪それを想定して冒険者の中に通じてる奴が居るかもしれない。目立った行動をすると、相手の思うつぼだろ?)

《さすがですねー。 私にもそこまでの憶測は出来ませんでしたよ。切れ者ですよね、カーズさんはー》

(いや、最悪を想定しただけだ。それにそろそろ捕虜の尋問の時間だ。その前に――)

《有益な情報が出るといいですねー》

(最悪何かしらのスキルで口封じにかかるかもしれないしな)


 とりあえず残りの四人の証言を訊こう。メイド姿の侍女たちを見る。御者のオッサンはないだろう。


「えーと、侍女の二人には何か心当たりはあるかな? ここ最近起きたことや、この手の王族を狙った事件とかでもいいし、アーヤ姫の周辺で起こった不可解なことがないか?」


 侍女達はこちらに頭を下げ感謝を伝えてくれた。二人の名はククリとリアというらしい。背が高く茶色いロングヘアの女性がククリ、小柄で赤毛のショートカットの方がリアだ。メイドさんがいるって、王族っていいよね。


「私達は常にアーヤ様の傍でお仕えしています。アーヤ様を守れるようある程度の護身術の心得も多少はありますが……」


 ククリの言いたいことは分かった。おそらくレベルということだ。鑑定してもレベル10程度。この二人の護衛以下だ。リアも側付と言うだけでそこまでのことは分からないらしい。


 最後にハゲ執事Aだな。どうもいぶかしげな感じで俺を見ているし、イライラしているようにも見える。不審過ぎる。助けたのに礼の一つもないのは、まあどうでもいいが。とりあえず態度がイラっとくるし、なんかもう色々と分かり易い。


「ハゲ執事Aのじいさん、あんたは何か知ってるか?」


 俺の言葉にイライラを隠せないようだ、こいつ友達いねえだろうな。


「誰がハゲだ! 貴様如き卑しい冒険者に話すことはない。不愉快だ、仕切りおって!」


 ほう、辛辣だな。だが、ぶっちゃけ俺には身分がどうとかいう価値観はない。人間である俺が下賤なら同じ人間のこいつも下賤ってことだ。権力や身分を振りかざす奴なんて大抵クソだ。滅べばいい。


「そっか、じゃあじいさん、あんたが一番怪しいことになるな。賊への内通者も騎士団に手を回したのもあんた、ここを通ることを賊に伝えたのもあんただ。そういえば馬車の中で周囲がざわついているのに、あんたは嫌に落ち着いてたな。ハゲ執事Aなら姫様の身を案じて戦えなくとも傍についているはずだ。でもあんたは余裕な表情で落ち着いて姫様の対面に座ってたよな?」


 立ち上がりながら俺はスラリと女神刀を抜き、執事Aの首筋に切っ先を突き付けた。


「『疑わしくは斬れ』って言葉が俺の世界にはあってな……。とっととその偉そうな態度を改めてもらおうか。俺は身分差などない世界にいたんでね、身分がどうとか、ぶっちゃけどうでもいい。敵なら誰であろうと即斬る。それに非協力的な人間が一人でもいれば周りの足を引っ張ることにも繋がる。こんな国家転覆レベルの話に関心がないとは言わないよな……?」


 もちろん嘘だ。本当は『疑わしくは罰せず』だしな。ただこういう権力を振りかざして上から目線で弱者を小馬鹿にする人間が気に入らない。強力な圧でカマをかけているだけ。それにもし本当なら一瞬で解決だ。


《どうしたんですか? 女神刀まで抜いてー》

(ただのカマかけだよ、あと他人を見下す態度が気に入らん。当たればラッキーてとこだよ。外れてもこのジジイは一度わからせる必要がある、捜査するにも邪魔だけだしな。それに……、もしこいつのせいでアーヤが死ぬことになるのは何故だかわからんが途轍もなく気分が悪い)

《なるほどー、それで意味の分からない言葉を作ったんですねー。この人頭大丈夫なのかと思いましたよー(笑)》


 ……こいつには言われたくない。だがジジイには効果はあったようだ。俺の体から可視化できるほどの魔力の渦が立ち上る。所謂威圧いあつだ。ジジイに向けている殺気も本物、ぶっちゃけ斬りたいとさえ思う。


「どうなんだじいさん、何も知らないのか?」

「わ、私は何も知らん! 本当だ!」


 嘘くさい。明らかに胡散臭い。まーたテンプレ的な展開の気がする。


「本当か? なら、どんな些細なことでも構わんから王宮内のことを身の潔白を以て証明しろ。そしてその他者を見下す態度も改めろ。この場で一番無礼なのは一番の高齢であるあんただ。『稲穂は実るほどに首を垂れる』という言葉を知らんのか?」


 当然知らんだろうけど。もう俺はこのジジイを一瞬で斬れる。


「私が知っているのは精々今王宮内で起きている後継者争いくらい……です。今のクラーチ王には五人の子供がいる。第一王子のレオンハルト様、第二王子のアラン様、第一王女のレイラ様、そして第二王女のアーヤ様、第三王子のニコラス様、です。ご子息たちが特に不仲という噂も聞かないし、私には全くわかりません。それに……、馬車の中で落ち着いているように見えたのは理由があるのです」

「理由とは? 何だ?」


 俺はこいつを全く信用していない、怪しければ魔眼で自白させる。それにいちいちそんなどうでもいいところに反応するのがまた胡散臭さを助長させている。アホなのか?


「アーヤ様は国内でも屈指の魔導士なの……です。聖魔法も攻撃魔法も使える王族の中でも最高の魔導士なのだ、あんな盗賊如き相手にもならぬ!」


 また調子に乗り出した、お前の力じゃないだろ……。まあ俺も人のことは言えないが。


「で、あわよくばアーヤ姫を闘わせればそれで片付くと? そう言いたいのか?」

 

 いい加減ガチでイラついてきたので、ハゲ執事Aの胸ぐらを掴む。


「こんな女の子に戦わせる予定だっただと! 大の大人が仕えるべき主を矢面に立たせようってか? さっきまでの様子を見て彼女が闘える状態だとでも思ったのか?!」


 いくら魔力があって魔法が使えようとも、本人に闘う意志がなければできるはずがない。この他力本願ジジイ、殺してえ。しかも矢面に立たせたらその時点で襲撃は成功だ。これはもう完全に黒だろ。そして権力争いとは、これまた本当にしょうもないな。何度リセットしようが人間ってやつは……。


「アーヤ姫、このじいさんあなたを闘わせる予定だったんだとよ。従者ならまず自分が命を張るべきだ。自分は闘わず切り抜ける予定だったんだとさ。こんな無能な部下が必要か?」

「お待ちくださいカーズ様、ワルドはそんな人間ではありません。彼は――」

「魔眼発動・魅了テンプテーション! お前はアーヤ姫を攫おうとした奴らと関係があるのか? 黒幕は誰だ、どこにいる?」


 アーヤが止める前に魔眼を発動させた。自白させるための軽いチャームだ。


「フ、フフフ……、私は所詮監視と連絡役に過ぎん……。王宮にはすでに刺客が紛れ込んでいるのだ……。それにあの方の存在を貴様らが知ることなど……ぐっ、うあがああああああああ!!!」


 何だ? 突然苦しみだしたぞ。


《どうやら自白しようとすると発動するタイプの毒のようですね。今ならまだ聖魔法のキュアルガ状態異常完全回復で解除可能です》


「死なれると困るな、キュアルガ!」

「ぐ、う……、な、何だ?! まだ生きている。私は一体どうしたというのだ? 何が起きている!?」


 姫を含め全員が信じられないという表情でハゲジジイを見ている。取り敢えずこいつは黒決定だ。しかし、何だあの口上は? 四天王最弱かよ。昨今あんな安っぽい台詞を言う奴が本当にいるとは、そこに驚きだよ(笑)


リストリクション神聖拘束! お前の動きは封じた。大人しくしてろ」


 まるで天使の輪のようなものがジジイの体を何重にも縛り上げる。喚いてうるさいので一発顔面を蹴っておいた。もう寝てろよ。


「そんな……。ワルド、なぜなのです?!」

「アーヤ姫、こいつは間違いなく黒です。もう一方も尋問しましょう」


 賊の頭に近づき刃を眼前に突き付ける。さあキリキリと吐いてもらおうか。


「お前に依頼をしたのは誰だ。吐け、あっちの執事のハゲジジイはグルだったんだろ?」

「へへへ……、よくわかったな。最初から俺らは裏で繋がっていた。どの道その魔眼には逆らえないんだ、俺は素直にゲロってやるよ。いいかよく聞け、俺らに依頼を持ってきたのがそのジジイだ。そしてジジイは王宮の宰し――、がはっ?!」


 なっ、一瞬で事切れやがった。即効性の毒か、解毒できなかった。死人に口なしと言うが、ここまでやるか? 所詮チンピラだし、ハナから信用などしていないんだろうな。しかしこいつも台詞と言い小物感が半端なかったな。


宰相さいしょうって言おうとしましたねー。おそらくそいつが黒幕ですねー。後はさっきのジジイから聞き出しましょう》


「アーヤ姫、あなたの国の宰相が怪しい。というか恐らく黒幕だ。国政を担当する様な立場の奴だ。更に騎士団のトップの奴らもいる。もしかしたら他の兄妹も危ないかも知れない。だがあなたはこの国に用事があるんだろ? 帰り道も危ないはずだ。それにギルドに護衛依頼を出すのも目立つ。だから帰国の際は俺も同行しよう。帰る際には俺を訪ねてくれ。恐らくギルドにいるはずだし、顔は出すだろうからな。従者のみんなもそれでいいかな?」


 そこでのびているジジイはまた後程詳しく尋問するとして、他のメンバーは快く承諾してくれた。


「カーズ様ありがとうございます、何から何まで。私の公務は約1週間程で終わりますので、その時にギルドか宿の方に寄らせてもらいますね」


 仕方ない、乗り掛かった舟だ。最後まで見届ける必要がある。やれやれ、転生してもこの巻き込まれ体質は変わらないのかな。どの道、陰謀とも言えないガバガバな計画だけどさ。笑える。


「わかった、とりあえずこのジジイは俺が預かるよ。もっと情報が欲しいしな」


 ジジイを拘束したまま異次元倉庫ストレージにぶち込む。謎技術だがもうツッコミすら起きない。


「任せるぜ嬢ちゃん、俺にはもう何がなんやらさっぱりだ」

「じゃあ次は1週間後に街で落ち合おう」


 と、ギグスにヘラルド。侍女達は黙って頭を下げた。


「次は簡単にやられるなよ。公務の間ちゃんと護衛しろよな。騎士の名が泣くぞ」

「おう、任せとけ」

「ああ、応えてみせよう」


 お高く留まっている騎士ではなく、親しみの湧く奴らだな。いい奴らだ。


「カーズ様、『リチェスター』の街に向かうのであれば、馬車でご一緒しませんか? 私、まだまだカーズ様とお話がしたいのですが……」


 うるうるとこちらを見てくるアーヤちゃん。くっ、可愛い! 本音を言えば一緒に行きたい。だがこのまま同行しては女性体のまま街に入らなくてはならなくなる。一人になりたい。


「お気持ちはありがたいのですが。少し離れたところから警戒しておきます。まだ刺客がいる可能性もありますからね」

「わかりました。残念ですけど……」


 嘘だ。ごめんねアーヤちゃん。探知には何も見当たらない。とりあえず一人になりたいんだよ。


「カーズ様、ではまた……」


 手を振って見送った。



 ・

 

 ・


 ・



 馬車が小さくなったのを見て、茂みに隠れる。そこでアリアに魔力操作を習い、男性体へと戻る。やっと戻れた、まさかのネカマプレーみたいなことをやるとは思わなかったな。厄介な体にしてくれたもんだよ……。



 さあ街へ! 漸くだよ、といった感じで急いで向かう。街をぐるっと囲むような城壁の一部に街道から街の中の道が繋がる途上に大きな門があり、そこから入れるようだ。門番が左右に一人ずつ、怪しい奴がいるか見てるんだろうかね? だが特に問題なく街には入れた。門番、意味あるのか?


《ここ『リチェスター』は中立都市で、4つの国と国境が繋がっています。南に商業都市コルドヴァもあり物流も盛んな活気ある街ですよー。様々な人種が暮らしていますしねー》


 リチェスターか。なんか懐かしい響きがする。何故だろうか。


(なんかウキウキしてるな? この世界のことなんて全部お見通しじゃないのか?)


 アリアの感情が伝わってくる。まあ楽しそうだしいいかな。


《世界を見ることはできますけど、実際に人として入るのは違いますよー》


 そういうもんかーと思いながら、先ずは冒険者ギルドだ。The 中世って感じの街並みをどこか懐かしく思いながら俺達は街の探索を始めるのだった。




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一話ごとの文字数が多いので、その回一話でがっつり進むように構成しております。

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