第一章 6   世界<ニルヴァーナ>の真実



(……大虐殺? 物騒だな、でも虐殺ってことはそれを行った奴らが居たってことだよな? 狂った奴らが核兵器みたいなもので世界が崩壊して人類が滅ぶくらいの爆撃とかしたのか?)


 虐殺だから誰かが行ったというのが妥当だろう。自然破壊で滅ぶってのも、巨大隕石が落ちたってのもなんか違う気がする。


《そうですね、人間を絶滅させるくらいの兵器とかはあったでしょう。それでも一人も残さず絶滅させるとなると、不可能ですね。シェルターのようなものに避難したり、運良く助かる者もいるでしょうから》


 ダメだ、俺の頭じゃそんな芸当が出来そうな人間はいるわけがない、としか考えられない。ん、待てよ。確信がないがそれが出来そうな存在なら居るのは居る。でも……、まさかだけど。


《カーズさんの推測は当たっていますよ。そんな芸当が出来るのは人間以上の存在》

(ならやっぱり……)

《……神です》

(マジかよ……。何となく察しはついてたけど、神様直々に手を下すとか普通にない気がする。でも俺の勝手な見識だし、地球で神の存在なんて感じたこともないしな)

《地球の神々は基本的に無干渉ですね。気が向いた時だけ歴史を修正する程度ですから、決して人前に姿を現しませんし、宗教なんて人間が勝手に創ったものですよ。中には人に紛れて遊んで暮らしてる神も居たりしますが。ですがこの世界ではもうすでに2回も神による大きな変革が行われています》

(てことは2回もその大虐殺が行われたってことだよな? ……どうしてそんなことが?)

《1度目は約1万年前。そのとき私はまだ生まれていませんでした。2度目は5000年ほど前で、それがニルヴァーナというこの世界の成り立ちです。でも人間たちはそのときの歴史に関することを知りません。そしてニルヴァーナという意味すら知らずにこの世界をそう呼んでいるに過ぎません。誰がそう名付けたのさえ知らないのです》

(2回も世界を変革したのはなぜなんだ……? 人間は何をしたんだよ?!)


 滅ぼされるなんてよっぽどだ。地球でも同じことが起こる可能性もあるけど、最早俺には関係のない話だ。地球なんざ1回滅んだ方がいいと思う。アリアはふう、と溜め息を漏らしながら、また話し続ける。神様が溜め息を吐くほどのことなんだろうか?


《1度目は今の地球と酷似していると言った方が分かり易いですね。人間は互いに互いの利益の為に争いを続けました。続く戦争や兵器で大地は荒れ果て、環境も汚染が進み、荒廃した世界になっても尚戦争を継続する彼らを見て、神々は自らの力で全ての人間を粛清として滅ぼしました。環境を生命が誕生する時点までリセットし、時間を加速させて再び人が誕生することになりました。そして2回目の世界が豊かな世界になるように願っていました》


 もしここが地球なら俺も神々に滅ぼされることになったのかもだ。しかし、スケールが大き過ぎる。


(じゃあ2回目は? 今度は何が起きたんだ?)

《……1度目と全く変わらない世界になりました。人間はまたも同族同士で争い汚染し、星を荒廃させました。手を下さなくともどうせ滅びるだろうと、神々は最初は不干渉でしたが科学を発達させた人間たちは他の惑星にまで進出するようになりました。そして他の惑星でも争い、破壊する。その愚かな行いに遂に神々も業を煮やし殲滅作戦が開始されました。そしてその殲滅部隊には私も参加する命を下されたのです》


 マジか……、人間って本当に愚かだな。本当に救えない。でも俺もそんな人間の一人だ。偉そうなことは言えないし、自分の命は惜しいし愚かな部分だって自覚してる。人間って一括りにすると馬鹿としか言えない。もちろん自分も含めてだ。でも親切でいい人だっている。前世で世話になったり仲良くしてくれた人も。殲滅された中にはそんな人達も混じっているはずだ。そう思うと何とも言えない気分になる。


(本当は参加したくなかったんだろ? アリアの為人ひととなりを知ればそれくらいはわかるよ。きつかったんだろ?)

《あははー、やっぱりそう思いますかー? でも実はノリノリだったかも知れませんよー? まだ若かったですしー》

(確かに正義と公平を司る女神様だから、そんな人間達を粛清するのは正義だろう。人間だけが何でも好き勝手やっちゃいけないから公平さにも引っ掛かると思う。そんな人間に振るう刃は正義だと思うよ。でもそれに加担してない人間もいたと思うんだよな。さすがにそういう人までも巻き込むのは違うかなーと思う。ノアの箱舟じゃないけどさ)


 本心だ。たかが人間が言えることじゃないけど。アリアが辛そうな顔をしているような感じがする。


《そうですね、カーズさんの仰ることは正しいです。これが神々の総意だから仕方なかったですけど。無実の人たちを手にかけたことは今でも後悔していますね……》

(やっぱりなー。アリアはそういうやつだってのはわかるよ。そこに触れるのはアリアの心に土足で踏み入るようなものだし、湿っぽくなるのは嫌だから次の展開のことを話してくれよ)

《カーズさんは不思議な人ですねー、あははー。分かりました、では3度目の世界はどうなったのかを話しましょう。2度目の大虐殺を経て神々が考えたのは、知能を人間だけが持つ強者であるということが傲慢さに繋がるということです。なので2回目のリセットの際、この世界に人間以外の種族を創るということでした。進化の過程に変化をつけて、人間以外に魔族、獣人、龍人、有翼人、エルフやドワーフ等、そして2度の大虐殺の際に人間から奪い取った魂。それを全ての人類、知識ある種族の共通の敵とすることで、人類同士が争うことのない世界にするということでした》

(じゃあこの世界にいる魔物って……?)


 いや、何となく察しはついていた。2回目の世界が終わるまで魔物の話も他の種族も出てこなかった。ただ『人間』とだけ、そして人間が中心のような歴史だったし。


《いやはや、本当に頭が切れますねー、カーズさん。努力家だし博識ですしー。その通りです。魔獣やモンスターと呼ばれる類の動物は且つて神々が刈り取った悪しき魂を進化の過程で組み込んだものです。悪の心に大きく傾いた人間の魂のみ魔獣に組み込まれます。そして悪に傾いた天秤の重さが大きいほど狂暴な魔物となります。そして今もその循環がこの世界では起こっています。悪の人類は死後、人類の輪廻から外れ、魔獣として永遠に転生を繰り返します。中には例外もありますが、それはまたの機会でー》


 なるほどそれは効率がいいシステムだ。だが利用されて知らずに悪事を働くこともある。それが当たり前として育てられたのなら、自分じゃあ善悪の区別は付かないしな。わからないことはどうしようもない、いちいち話を遮るのもなんだ。しかし、悪意が強い奴ほど死後は当に地獄だな……、自業自得だろうとは思うけど。しかも死んでまで迷惑な奴らだ。


《先程カーズさんが気にされていた無辜むこの民についてですが、そういった人々は新しくできた世界に輪廻転生出来るようにしています。そうしなければ彼らの犠牲が無駄になりますから……。ですがカーズさんとは異なり生前の記憶は持っていません》


 救済措置ってことか、でもそんな人たちがまた良くも悪くも人生を送れているならいいか。魔獣にされるよりはずっとマシだ。さすが天界、神様のアフターケアまで規格外だな。


《こうして出来たこの世界ですが、やはり科学の大規模な発展が起こるとトラブルが生まれます。そのために魔力という概念が生まれたのです。それを使えれば科学力に頼らなくてもある程度は何でもできますからね。そして過去の過ちから人間の魔力は他種族に比べ低めに設定されています。それでも科学力がある一定のラインを超えるとその国に『裁きの雷ジャッジメント・ヘヴンズフォール』と呼ばれる一撃が天界から発射されるように設定されています。これは魔法技術が天災クラスの魔法を創り出したりして発展し過ぎたときも同様です。魔法を使えるカーズさんは理解できると思いますが、強大すぎる威力の魔法は超化学兵器に相当しますからね》


 それもそうだ、今日散々誤射した魔法だって人に向けたらとんでもないことになるしな。武器を所持せずに出せるんだ、考えなしに使うと危ないに決まっている。


《そうして『ニルヴァーナ』と名付けられたのがこの世界です。二度の大虐殺を経て均衡を保っている世界がここです。神々に直々に命を絶たれるということは神聖なことであり、それが過ちを繰り返した人間が『死という救済』を経てまた輪廻する所謂『悟りの境地』であると天界では伝えられています。『涅槃ねはん』とは『死』を意味する『悟りの境地』、ということで『ニルヴァーナ』です。管轄を任されている私としてはあまり好きではありませんけどね、ネーミングに悪意と皮肉たっぷり過ぎませんか?》

(確かに神様にしちゃあ趣味が悪いな。悪意もシニカルさもたっぷりだ。その上神々が歴史を変えてる。人間にとっては神の傲慢って思う奴もいるだろうし。んで管轄はアリアか。じゃあ他の神様はここにはいないんだな? だったとしたら唯一神じゃないか。すげーなあ)


 世界を一つ丸々管理ってスケールがデカ過ぎる。


《そうですねー、今のところはそこまでの問題もありませんし。一応それなりに見えないように修正もしたりしていますしね。それに人類がやり過ぎたら『裁きの雷ジャッジメント・ヘヴンズフォール』が天界から勝手に落ちますから。逆に問題もあるんですよね。超発展を天界が嫌うので。文明が発達しないんですよ。魔法技術もSクラスともなると人の手に余るので、そういうものはロストマジック失われた魔法技術とされていますから。比較的平和で魔力が最低限あれば困らないんです。だから文明の進歩が遅くて…、中世辺りの封建文化で止まってるんですよねー》


 ファンタジーと言うと中世だしなー、俺は特に気にしてないけど。それに発展し過ぎたら滅ぼされるんだろ? そりゃあ発展しないよね。


(なるほどなー。色々分かったし、そろそろ眠くなってきた。まあ今の俺にとっては滅ぼされたりする心配もないし、良いことだと思うしね。聞きそびれたことはまた教えてもらうよ。明日は街に行くか、というわけでおやすみーアリアー)


 いつの間にか真っ暗だ。目をつぶってアリアと対話というか、念話してたし。空を見上げると星空すっげーキレイ! 写真撮りたい! 俺のド田舎よりももっと明るい夜空だ。


《この世界の成り立ちを知ってもそこまで驚かないし、さっさと寝るとは肝が据わっているというか……強心臓ですねえー……。おやすみなさーい》


 朝起きたらのんびりと街に行くか。そう思いながら俺は目を閉じた。




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  世界観が見えてもそこまで驚かないしさっさと寝る主人公です


 続きが気になる方はどうぞ次の物語へ、♥やコメント、お星様を頂けると喜びます。執筆のモチベーションアップにもつながります! 

一話ごとの文字数が多いので、その回一話でがっつり進むように構成しております。

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