<episode 26> 悪役令嬢、近代兵器と3連戦。

 頼みの武器が通用しないとわかった傭兵団の動きは迅速だった。

 回れ右。全速前進。猛ダッシュで逃げていった。

 名も知れぬ傭兵団のリーダーは、半べそかきながら「ちくしょー、覚えてやがれ!」と、ワタクシが過去に聞いてきた捨て台詞ランキング堂々の第1位を叫びながら去っていった。


 ともあれ、おかげさまで新たな武器をゲットできた。拾ったサブマシンガンを天に掲げて喜びを表現する。

 てってれー♪

 エトランジュは『WSCウージー地獄改』を手に入れた!……なんてね。


「……もはや完全に盗賊ですね、お嬢様」


 いやいや、何をおっしゃる、スイーティアさん。これは彼らが落としていった燃えないゴミを拾って再利用しようとしているだけ。地獄にやさしいエコシステムなのだ。

 さあ、引き続きこのエコシステムのサイクルを回していくとしよう。


 傭兵団の皆さんもなかなか協力的で、最新鋭の武器を次々と持ち出して立ちはだかってきた。

 彼らもお給金をもらっている以上、相手が誰だろうと戦うしかないのだろう。働くって大変だなぁ。


【2回戦:vs 10式戦車+オリハルコン装甲地獄改の場合】

「地球における地上戦の花形兵器といえば戦車(タンク)であり、戦車(タンク)こそが陸上戦闘の王者と言えるだろう。そして、その戦車の中から我がワルサンドロス商会が選んだのは『M1エイブラムス』でも『レオパルト2A7+』でもねえ。『陸自10式戦車』、通称ヒトマルシキだ。へっ、数ある名高い名戦車を差し置いて、何でコイツを選んだんだ?って顔をしてるな、お嬢ちゃん。確かに、分厚い装甲とロングレンジから巨砲をブッ放すのは男のロマンさ。だけどな、今や地上戦も大艦巨砲の時代じゃねえし、安定した運用を考えれば燃費だって馬鹿にできねえ。何より分厚い装甲ほしさに戦車を鈍重な鉄塊にするのはスマートじゃねえ。そこで目を付けたのが、この10式戦車ってわけだ。防御力という弱点(ウィークポイント)こそあるが、軽量ゆえに機動力は抜群。そして何よりも高性能な射撃管制装置による射撃精度の高さが最大のウリだ。起伏のあるスラロームを走行しながらでも行える連続射撃とその命中精度の高さは、まさにこの地獄で活躍すべく生まれたような機体ってわけよ。唯一の弱点である防御力を伝説のオリハルコンで魔改良したのがこの『10式戦車+オリハルコン装甲地獄改』だ。こりゃあ、もう無敵だぜ。どうだい、お嬢ちゃん。今度こそ、俺たちの勝ち───」


「黒の聖霊よ、迷える羊どもを悪しき夢見へといざなうがいい。ナイトメア」


 万が一にも大切なワタクシの戦車を傷つけてはいけない。そこで、中にいる操縦者たちを悪夢の虜にして差し上げることにした。いかに戦車(タンク)とやらが優れものであったとしても操縦者が使い物にならなければ無用の長物でしかない。

 しかし、青ざめて出てきた悪魔たちがワタクシを指さして悪魔だ悪魔だと泣き叫んでいたのは、なぜだろう? きっと悪夢のせいで頭が混乱していたに違いない。


【3回戦:vs AH-64アパッチ+ギルティ誘導ヘルファイアver.459改の場合】

「へへ、どうだい? さすがのお嬢ちゃんも鉄の塊が空を飛ぶとは思わなかったろう? コイツは上部に設置された巨大なローターを回転させて空を自由自在に舞うことができ、上空から敵兵を制圧する恐怖の象徴『戦闘ヘリコプター』ってやつさ。戦場で出会ったが最期、歴戦の勇士も小便チビって泣き叫ぶ代物だ。近代戦闘においては空を制した者が戦いを制すると言っても過言じゃねえ。そして、そんな戦闘ヘリの中でも俺が選んだのは、最強の攻撃ヘリとの呼び声も高い『AH-64アパッチ』だ。メインローターは4枚ブレードのチタン製、メイン武装は30㎜のM230チェーンガン、更にはヘルファイアミサイルやロケットポッドの運用も可能ときたもんだ。コイツもまた地球で開発されたものなんだけどよ、地球って人間世界の連中はよっぽど戦争好きなんだろうな。戦闘民族同士が常に戦争し殺し合っているイカレた終末世界に違いねえ。おかげで地獄は千客万来の大賑わいだぜ。今回、ワルサンドロス商会が魔改良したのは、本体ではなく武装のほう……そう、空対地ミサイル『ヘルファイア』だ。その結果、生まれたのが地獄の兵器、その名も『ギルティ誘導ヘルファイアver.459改』だ。コイツは対象の罪や罪悪感に反応して、地獄の底までターゲットを追撃し、地獄の業火で焼き尽くす恐怖のロケット弾だ。出会ったら最期、逃げ道はないと死を覚悟するしかねえ。さあ、お嬢ちゃん。三度目の正直だ。今度こそ死んでもら───」


「常しえに定められし理を捻じ曲げよ。我は反逆する者なり。グラビティ・ヘル」


 そもそもワタクシには罪悪感などないのだから、せっかく魔改良したロケット弾とやらの出番はない。

 空飛ぶ鉄の乗り物を闇魔法で撃墜するのもたやすいことだ。

 しかし、わざわざ献上しに来てくれた品物を傷つけてしまうのは忍びない。だから、闇魔法グラビティ・ヘルで重力をコントロールし、そっと優しく地上に下ろして差し上げた。

 世間では誤解されがちだけど、ワタクシって結構優しいと思う。


【4回戦:vs GBU-57A/B+ドリル地獄改の場合】

「やれやれ、GBU-57A/B……通称『バンカーバスター』を使わせるとは、俺を本気にさせちまったらしいな。コイツは一言で言えば対拠点兵器の地中貫通爆弾だ。重量の大半を徹甲弾頭が締め、更には自由落下+ブースターで加速するコイツの貫通力を甘く見ちゃいけねえ。バンカーバスターにかかれば、敵さんがどんなに地中深くに逃げ込んだところで、貫通&炸薬で「ドカン!」って寸法よ。……おっと、お嬢ちゃん。皆まで言わなくてもわかってるぜ。地球の最強爆弾がコイツじゃないってことはぐらいは百も承知の上さ。けどな、お嬢ちゃん。核爆弾? 中性子爆弾? 劣化ウラン弾? あんなもの俺は認めねえぜ。確かにここは地獄だ。敵対するやつはルール無用の残虐ファイトで完膚無きまでに叩き潰すのは当然のことさ。けどな、どんな戦いにも最低限の美学ってもんがあるんじゃねえのか? こんな俺たちでも美学を持ってねえと鬼畜にも劣る外道になっちまう。無差別に非戦闘員を殺すなんてのは俺の美学に反する。ってなわけで、コイツを選んだのさ。例によって、ワルサンドロス商会がバンカーバスターを魔改良して完成したのが、この『GBU-57A/B+ドリル地獄改』だ。見ろよ、ミサイル先端に取り付けた巨大なドリルを! この美しき螺旋のフォルム! コイツの前じゃ、地下何百メートルに隠れようと無駄さ! まさに地獄の底の底まで掘り抜く、究極のミサイル兵器ってわけよ! これで本当にお別れだ。あんたのことは忘れねえ。あばよ、お嬢ちゃん……」


 そう言うだけ言って傭兵団のリーダーは虚空に向かって腕を振り上げる。それを合図に遥か上空で飛行している乗り物からくだんのバンカーバスターとか言うミサイルがパラパラと降り注いでくる。

 なるほど。よろしいですわ。そっちがそう来るなら、こっちは───


「暗黒星よ。闇に煌めく星々よ。我が呼びかけに応え、怨敵を殲滅せよ。メテオ」


 ワタクシが両手を天に掲げて呪文を唱えると、召喚された巨大な隕石群が重力を無視してミサイル目がけて上空へと飛んでゆく。

 闇魔法メテオ。闇魔法の中でも最上級に位置するもので、ワタクシを除く大半の国では禁呪とされている。

 メテオで召喚された隕石群がミサイルを一発残らず迎撃、爆発し、大空は見事な爆炎で覆われていった。


「まあ、綺麗。いつ見ても花火っていいものですわね」


 ローゼンブルク公爵家の当主たる者、折に触れて家来たちに芸術に触れる機会を与え、美的感覚を養ってもらうことも大切な責務だとワタクシは考えている。これこそノブレス・オブリージュ(高貴なる者の義務)の精神と言えよう。

 振り返ると、ネコタロー、スイーティアをはじめ、一同直立不動の姿勢で上空を見上げている。どうやら言葉にならないほど感動しているようだ。

 やはり、ここはメテオで正解だった。

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