【ゲーム化決定!・電撃マオウでコミック連載中!】 エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~
<episode 25> 悪役令嬢、近代兵器と相対する。
<episode 25> 悪役令嬢、近代兵器と相対する。
ワルサンドロス商会に至るまであと10分というところで、歴戦の猛者の空気をまとった悪魔たちと遭遇した。
ざっと見て、その数100は下るまい。ワタクシたちの襲撃はお見通しで待ち伏せしていたということか。
戦いにおいて、情報は最も重要な武器の一つと言える。地獄で一番というワルサンドロス商会の評判に偽りはないようだ。
敵もさるものだが、それに負けじと右手に控えているエリトが情報を提供してくれる。
「ご主人様。くれぐれもお気を付けください。彼らはワルサンドロス商会に雇われている傭兵団です。所有する武器はご主人様にとって未知のものでしょう。ワルサンドロス商会は地獄に堕ちた人間どもから、それぞれの世界で使われていた武器の情報を入手し、研究・開発・改良・進化させています。そして魔法のない人間世界にはマジックアイテムを高く売りつける。火薬のない人間世界には銃火器を高く売りつける。そうやってワルサンドロス商会はのし上がってきたのです」
人間の歴史は戦争の歴史と言ってもいい。愚かなことながら人は争いをやめようとしない。領土、宗教、経済、歴史認識、人種差別、食料不足、天然資源などなど。これらはすべて戦争の火種となる。
どれだけ戦争反対を口にしたところで、人が人を選別し、人が人を管理する仕組みが社会を形成し、金と欲が人の心を支配している以上、決して争いはなくならない。
そんな人間の愚かさを利用して商売をするとは、ワルサンドロス商会の経営者はこの世界の構造をよく理解しているということだ。
ワルサンドロス商会がただならぬ知恵と力を持っていることはわかった。
しかし、それならそれでワタクシは一向に構わない。あらゆる人間世界の武器を所有しているのなら、それらをまるっとすべて頂戴すれば、これからの地獄ライフがますます快適になり、地獄の住人たちとのコミュニケーション(主に戦闘)も円滑になるというものだ。
「いざ出陣ですわ。まずは彼らが持っている武器を根こそぎいただくとしましょう」
このまま移動要塞にこもっていれば身の安全は保障されるかもしれないが、それでは武器を入手することができない。第一、ワタクシは安全というものに、まるで興味がない。
ワタクシたちが移動要塞マカロンから降り立つと、傭兵団が一糸乱れぬ美しい所作で短い鉄の槍のような武器を構える。
初めて見る武器だが、はてさて、あれは何だろう?
逸る心を抑えつつ、ワタクシは優雅に単騎歩みを進めてゆく。
「おっと。そこで止まりな、お嬢ちゃん。この武器が目に入らねえのか」
傭兵団のリーダーと思しき悪魔が鉄の槍を向けたまま警告を発する。
左目には黒い眼帯。その原因となったであろう大きな傷跡。自分で切ったと思われる灰色の長髪がワイルドさを強調しているが、端整な顔立ちを隠しきれていない。
問答無用で攻撃してこないあたり、無実の婚約者を即日ギロチン送りにするどこぞの第一王子よりも、よっぽど紳士的だ。
「貴方がたの武器が欲しくてわざわざ遠路はるばる来ましたの。大人しく降伏して全部ワタクシにくださらないかしら?」
数秒の静寂───
そして傭兵団からドッと大きな笑いの渦が巻き起こる。
腹を抱えて笑う者。涙を流してひいひい言いながら笑う者。中には仰向けになって足をジタバタさせながら笑っている者までいる。
「何がそんなにおかしいのかしら?」
「……いいかい、世間知らずのお嬢ちゃん。よく聞きな。この武器は地球って別次元の人間世界で開発されたサブマシンガンで、その名も『IMIウージー』。ちと型は古いが、地球じゃ1000万挺以上作られた名器だ。発射機構はオープンボルト式で発射速度は毎分600発。重量は3.8㎏と人間にとっちゃ少々重いが、俺たち悪魔にゃ問題にならねえ。派生機含めて、コイツより高性能な銃は確かにごまんとあるが俺が高く評価しているのは威力や連射性能なんかじゃねえ。シンプルな構造ゆえのメンテナンスのしやすさだ。銃器ってのはな、お嬢ちゃん、一発ブッ放して終わりじゃねえんだ。戦場での長期運用を考えれば、手入れの手間は絶対に無視できねえ。その点、砂漠での運用実績が豊富なコイツは、まさにこの荒涼たる地獄にピッタリの代物ってわけだ。それを更に我がワルサンドロス商会が研究に研究を重ね、威力と命中精度を格段に高めたのが、この魔改良版『WSC(ワルサンドロス商会(カンパニー))ウージー地獄改』ってわけだ。お嬢ちゃんは大した魔法の使い手だと聞くが、コイツが相手じゃあ、あっと言う間もなく鉛弾で蜂の巣になっちまうぜ?」
余裕しゃくしゃくといった態度で手持ちの武器がいかに優れものであるかを語る傭兵団のリーダー。その恍惚とした表情を見る限り、よほど武器に愛情を持っているのだろう。どこの世界にもマニアというのはいるものだ。
それにしても、あの世でもこの世でも勝利を確信した悪党というのは、なぜか遠大なたくらみや所有する秘密兵器の素晴らしさを自慢して誰かに聞かせたがるものと相場は決まっているらしい。
こういう場面には過去に幾度となく出くわした。その後の彼らの末路は……まあ、ご想像にお任せする。
「ご丁寧に説明してくださって、ありがとう。1ミリも理解できませんでしたけど、とても良い品物だということだけは貴方の熱弁から伝わってきましたわ。さあ、ご託はもう十分でしてよ。とっととその武器を全部まるっとよこしなさい」
そう言って右の手のひらを差し出したまま、彼らのほうへ向かってずんずんと歩みを進める。
おっと、いけない。あくまでエレガントに。しずしず、と。
「コイツ……頭がイカれてやがるのか?」
失礼な。ワタクシは知性と理性の塊です。
あの鉄の槍の正体はなんとなくわかった。要するに鉛の弾を連続で発射する機械だ。別次元の人間世界で開発された『銃』と呼ばれる武器らしい。
正体さえわかってしまえば対抗手段はいくらでもある。わざわざ事前に種明かしをしてくれた傭兵団のリーダーの紳士ぶりに心から敬意を表し、地獄では初お披露目となる闇魔法をお見せしよう。
「お嬢様、危険です! お下がりください!」
「大丈夫よ、スイーティア」
「ちっ。仕方ねえ、これも仕事だ。───撃てっ!!」
「鉄血の英霊たちに告げる。盟約に従い、我が掌に集え。マグネチート」
傭兵団のリーダーの攻撃命令と、ワタクシが呪文を唱え終えたのは、ほぼ同時だった。
火薬の爆ぜる音が一斉に鳴り響く。ワタクシたち目がけて降り注ぐ無数の銃弾。背後にいる家来たちは初めて受ける攻撃に怯えて目をつぶり、耳を塞いで震えている。ヒャッハーに至っては股間が少々濡れているようだ。
しかし───
本来ならワタクシたちを一人残らず蜂の巣のごとく穴だらけにするはずだった銃弾は、すべてワタクシの突き出した右の手のひらに集まっている。
「はひぇ??」
おマヌケな声を上げた傭兵団のリーダーが、あごが外れるほど口を開けて目を見開いている。その他100人からの傭兵たちも皆、右にならえでビックリ仰天している。
何もそこまで驚くことはない。相手が鉛の弾で攻撃することはわかっていたのだから、放たれたそれらすべてを磁力で集めただけのことだ。
飛んできた物を受け止める。実にシンプルな対抗手段ではないか。
鉛のような通常の磁石には反応しない金属類でも闇魔法マグネチートなら、あら不思議。これこの通り吸い寄せることができるのである。
しかし、さすがにこれで終わりとあっては芸がない。相手を戦意喪失させるにしても、ローゼンブルク公爵令嬢としてエレガントに、そして美しくありたい。
「黒炎の女王に命ずる。我が道を妨げる存在を融解せよ。メルティアラ」
すると、手のひらに集まっていた銃弾がドロドロと溶け始めて地に落ちていく。高熱により鉛を溶かしたのだ。
もちろん、これだけだとエレガントさにも美しさにも欠ける。そこで地面に降り注いだ液状の鉛がどうなったかに是非ご注目いただきたい。さあ、ご照覧あれ。
なんと、ワタクシの足元には女神像(モチーフはもちろんワタクシ)が鎮座し、神々しく黒光りしている。これぞエレガント。これぞ美しさ。
ふっふっふっ。さあ、思う存分、この芸術作品に対して賞賛の言葉の数々を口にし、感動に打ち震えてむせび泣くがよろしいですわ。
「バ、バケモノめ……!」
しかし、傭兵団のリーダーからは思っていたのと180度まるっきり違った評価が返ってきた。
あれれ?
……なんてこった、この芸術が理解できないとは。
ワタクシのことを理解しない人々は、口をそろえてバケモノとののしる。
これでもお年頃の花の乙女。いくら強がってはいてもバケモノ呼ばわりされれば、かすり傷の一つぐらいは付く。
でも大丈夫。今はワタクシのことを理解してくれる頼もしい家来たちに囲まれているから。
「ひそひそ……」
「もはや人間に分類するには無理がある……」
「バケモノ……」
後ろに控えている家来たちからそんな言葉が聞こえてきた。
おい、お前ら(怒)
だが、この際きれいさっぱり右から左へと華麗に聞き流すことにしよう。快適にハッピーライフを満喫したいなら、時には見て見ぬふり、聞いて聞かぬふりも大切だ。
我がメンタルヘルスのために……。
【次回予告】
第2幕に突入しても我らがヒロイン、悪役令嬢エトランジュの快進撃(※暴走)は止まりません。
次回はまだまだ続く近代兵器との3連戦。
悪役令嬢エトランジュが戦車、戦闘ヘリ、ミサイル等々の近代兵器といかに戦うのか?
乞うご期待です!
次回更新は、6月16日(金)12:00頃を予定しています。
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