世界の半分を滅ぼした魔女を倒した勇者。次の危険因子として処刑されそうになったから倒した魔女と仲良く暮らす

とりあえず 鳴

第1話

魔女


長い銀髪に白い眼、透き通るような肌をして、魔女と言われなければ美しい女性だ。


突如として現れたそれは三日で世界の半分を滅ぼした。


世界の半分を滅ぼした時に人類にこう告げた。


「もう半分を守りたいなら私を殺してみせろ。猶予は一ヶ月だ」


それは残された人類全ての脳内に直接告げられた。


だから残った人類のお偉いさん方は世界中から戦える者を集めた。そして集まった者を無理やり魔女と戦わせ全滅した。


そこでやっとお偉いさん方は無い頭を使って考えついた。普通の人間では勝てないのなら、自我を壊してでも魔法や薬でドーピングしたり、武器も腕のいい鍛冶師に寝ずの作業をさせて相当のものを用意した。


そしてそのドーピングに身体が耐えて、なおかつ馴染んだのが勇者レイ。


レイはただの一般人で、特に優れたところもないただの人間だった。


それがいきなり魔女を殺せと命令されて、あまりやる気が無かった。


レイにとってこの世界なんてどうでもよかったからだ。


でも、レイは魔女を倒した。


そしてレイが帰ると、レイを迎えたのは感謝などの感情ではなかった。


あったのは恐怖。世界の半分を滅ぼす魔女を単体で殺せる魔女を恐れない方がおかしいと言えばおかしい。


そしてレイはお偉いさん方に呼ばれて、最初に言われた言葉が「お前を処刑する」だった。


勝手に化け物にしておいて、怖くなったら即処分。そんな世界だからレイは魔女討伐にやる気が無かった。


もう全てがめんどくさくなったレイはその場に居たお偉いさん方を全員殺して、とある場所に向かった。


「で、それがここ」


「いや、なんとなく話は分かったけど、なんで倒した魔女の隣でお茶を飲みながらそんな話を真顔で出来る?」


レイは今、魔女と戦った場所で魔女の傷を治しながらお茶を飲んでいる。


「だって人間は元から嫌いだし。」


レイが少し拗ねたように口を尖らせる。


「じゃあお前が私を助けたのは人類への復讐の為か?」


「そんなんじゃないよ。魔女を倒せたんだから僕にだって人類を滅ぼすことぐらい出来るでしょ。知らないけど」


レイは魔女との戦いで手を抜いた訳ではないが、殺しはしなかった。


「じゃあなんで私を助けた?」


「うーん。綺麗だったから?」


「……は?」


「その髪とか、サラサラで綺麗だし。肌もそうだよ。触ったら柔らかいんだろうなーって。一番綺麗なのは目。魔女とか言うから目つきの悪いの想像してたけど、とっても優しい目で、瞳も綺麗だ。それから」


「分かったやめろ。私が持たない」


魔女がレイの肩を押さえて、遠ざける。


あと少しで鼻先が付くぐらいまで近づいていた。


「どうしたの? さっきまで真っ白だったのに、真っ赤だよ」


「うるさい。なんだ、お前は魔法や薬漬けにされて感情を失ったのか」


「うん」


「え?」


レイは様々なドーピングの末に感情を全て無くした。


「まぁ、元から感情は薄かったんだけど」


「でもそれなら私を綺麗なんて思わないんじゃないのか?」


「それは僕も驚いた。今までは世界か灰色に見えてたのが、この身体になって更にモヤがかかった感じだったけど、魔女を見たらその全部が晴れたんだ。なんでかは分からないけど」


「お、おう」


魔女の顔が更に赤くなり、顔をそっぽに向けてしまった。


「やっぱりまだ痛い? ごめんね、動けなくしないともう二度と会えないかもって思って」


レイが魔女に心配そうな目を向ける。


「その悲しげな目をやめろ。感情無いのに悲しさは感じるのか」


「悲しさ? そっかこれ悲しいんだ」


レイは悲しさを知った嬉しさからか、少しだけ笑う。


「それが嬉しいだよ。なんだ感情あるじゃないか」


「嬉しい。うん、魔女と一緒に居ると感情がいっぱい出てくる。魔女と一緒だと嬉しい」


魔女はまた顔を背けた。


「魔女……」


「あーもう、分かったよ。人類を滅ぼすなんてただの戯れだったからもうやめて、お前に感情を教えて人間に戻す。そっちの方が楽しそうだ」


魔女がそう言って、レイに笑顔を向ける。


「……」


「どうした?」


「綺麗だった。ん? 美しい? とにかく魔女のそんな顔をずっと見ていたいって思った」


「くっ。さすがにもう大丈夫、だし」


今度は魔女が踏ん張って顔を背けることはしなかった。


「よし。行くぞ」


「どこに?」


「どこだっていい。色んなとこに行っても、どこかに拠点でも作ってもいい。とにかく私はお前に感情を教える。ついてこい」


魔女が立ち上がり、レイに手を伸ばす。


「うん」


レイはその手を取り立ち上がる。


「でも、魔女の身体まだ完治はしてないからごめんね」


「え、いや、ひゃ」


レイは魔女の膝裏と背中に手を入れて、お姫様抱っこをする。


「下ろせー。歩くことぐらい出来るし」


「駄目」


レイが魔女の身体を強く抱き寄せる。


「魔女にもしものことがあったら自害の出来ない僕は一人になっちゃう」


レイにかけられた魔法の中には、自傷禁止の魔法も入っている。それは、魔女討伐という重責から逃がさない為の措置だ。


「分かったよ。完治までだからな」


「うん」


レイはおそらく生まれてから一番の笑顔を魔女に向けた。


そしてレイは歩き出す。ここではないどこかに向かって。

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世界の半分を滅ぼした魔女を倒した勇者。次の危険因子として処刑されそうになったから倒した魔女と仲良く暮らす とりあえず 鳴 @naru539

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