電子メイドの体温と心の所在について(完結済)
佐熊カズサ
introduction ナナメの解法
「アルゴ」
午前8時の爽やかな陽光が差し込む部屋に、芯のない眠そうな声が響く。その声に反応して、ハードカバー本やビーカーで散らかっている作業台の片隅で、握り拳程度の白くてマットな質感の球体についた両目が青く光った。
「はい、セナ。僕に何をしてほしい?」
この建物を管理するアンドロイドと同じ、明るくあどけない声だ。しかし喋り方がフランクなせいで、すぐにはそうだと気づけない。
「過去3日以内に市内で発生した、アンドロイド関連の事件に関する記事を読み上げてくれ」
セリフの最後は欠伸で濁ってしまったが、アルゴは自ら意味を補正して問題なく理解した。
「オーケー、じゃあ読んでいくよー」
匿名投稿サイトや警察のデータベースから引用した事件の概要を、アルゴは淡々と読み上げていく。その声を、少女は灰色の目を瞬かせて癖のあるチョコレート色の髪を耳にかけ、ベッドに座ってぼーっと聴いていた。
特に興味を惹くことのない事件が続くなか、聞き覚えのあるパティスリーの名前が耳に入って、少女はぐっと集中力のギアを上げた。
「……でレシピを管理しているアンドロイドが襲われた事件が解決した。瑣末な事件だと判断し、警察は私立探偵に事件を委ねた。探偵は数日の調査の末、調教師から借りたブラッドハウンドを2匹使役して犯人を捕まえた。なお、犯人の少女は未成年であるため、処分は警察による厳重注意のみとした。次は……」
聞き終えた少女は視線を上げ、ほうっ、と息を吐いた。
「なるほど……犬か……」
少女は枕元のモバイル端末を充電コードから外し、犬に関する電子書籍を何冊かダウンロードした。
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