序章 白の館でいらっしゃい
カウゼン・ディストリーはため息を無表情の下に隠して、黒づくめの長い脚を義務的に動かした。
母と友人の強い勧めで『白の館』と呼ばれる屋敷に学園の休日を選んで、わざわざ足を運んだけれど、騎士たちの自主訓練に明け暮れているほうがまだ利益があると思っている。そのうえ、不満たらたらでやってきた自分を出迎えたのは、慇懃な館の家令だった。頭を下げつつ、主人は支度中だとのたまったのだ。
館の主人との謁見は、完全なる予約制だ。最短でも一年は待つと言われているほどで、しっかり日時が決められている。つまり、カウゼンと会うことはわかっていたはずで、それでも待たされる理由がわからない。
待合室で待つようにと言われたけれど、座ったところでむずむずとする。結局、五分と経たずに部屋から見えていた中庭へと向かっていた。
謁見の予約をとったのは母で、逃げようとするカウゼンをここまで連れてきたのは友人ではあるが、それでも釈然としない気持ちを抱えて、控えめな花が咲き乱れる中庭を無造作に突っ切る。華美過ぎない絶妙な配置で植えられている庭であろうが、今のカウゼンを止めるものではなかった。
そのまま道に沿って進み、緑の生垣の先に白い小さな東屋が見えたときも、特に気にせずに近づいた。咎められたところで、先に無作法はしたのは向こうだという思いがあったからだ。
だが、東屋の真ん中に置かれた小さなテーブルの上に熱心に見慣れない絵のついたカードを並べている少女の小さな頭を眺めて、歩みを止めた。
白に近い白金の髪はくるくるの巻き毛だ。それを藤色のリボンで左右に二つ結わえている。同じく藤色のレースをふんだんに使ったドレスを着込んだ少女は、楽しげに鼻歌まじりでカードをせっせと並べていた。
可愛らしい格好に、愛らしい声がよく似合う。
そんな少女はふと、気配に気が付いて顔を上げた。
透き通るような真っ白な肌に、同じく透明なアイスブルーの瞳が大きく見開かれて、そして細められる。
五歳ほどの少女だというのに、妖艶ともいえる真っ赤な小さな唇が動くのを、ただ茫然と眺めていた。
思っていたとおり可憐な少女ではあったが、なぜか醸し出す妖艶さに何を言われるのかと身構えた。
「あら、ようこそ本日のお客様。ところで、明日死ぬ運命にあるのは、どういう心地がするのかしら?」
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