第二十一話 彬③

 本家に行くために乗り込んだ電車で、運よく座席に座れたので、並んで座る。


あきらさあ、どうしてバレー部辞めちゃったの? はるちゃんが言ってたよ。彬、バレー部だったって」

「んー、母さんが大変だった話は知ってるよね?」

「うん。五色ごしきの地に呼ばれたんでしょう」

「そう。それで、母さんを見ていた方がいいねって話になったんだ、父さんと。みなとはそのころ、ちょっと、湊自身のことで大変だったし。それで、部活を辞めて、俺が母さんを見ていることにしたんだよね」

「ふうん」


「でもさ」蘇芳になら言ってもいいかな。

「うん」

「でも、俺、去年あたりから、異能の力が強くなってきて――まあたいした力じゃないけど、でも強くなったんだ。それでコントロールがうまく出来なくなったんだ。でさ、つい使っちゃうんだよ、うっかり。……たとえば、部活中に」

「ああ。……あたしもコントロール、苦手」

「うん、で、なんだかずるい気がして、ちょっと悩んでいて――ちょうどそのころ、父さんに頼まれたんだ。母さんを見ていて欲しいって」

 あー、今思うと、全部見透かされていた気がする、父さんに。

 俺は結局部活を辞めて、ほっとしたんだ。そして、本家でコントロールを覚えて。


 思いに耽っていたら、蘇芳が「今日は頑張ったから、なんか疲れた」と言って、俺の方に倚りかかってきた。「うん、頑張ったね」と答える。

「――今日のごはん、楽しみだね。樹里じゅりのごはん、好き」

 蘇芳が笑って言う。


 俺たちはなんとなくほっとしたようなそんな気持ちになって、お互いの身体の重みを感じながら、どちらともなく手を繋いで、目を閉じた。心地よい疲れだった。



 本家に着いたら、まゆみさんだけでなくまきさんもいて、真剣な面持ちで俺たちを迎えた、

「困ったことになった」とまゆみさんが言い、「こちらに来て欲しい」と俺たちを奥の間に連れて行った。

 そこには水を湛えた石臼のようなものがあった。

「水鏡だ」とまきさんが言って、手をかざした。

 すると、倒壊した家々が映し出された。――でも、どこだ、ここ?

 蘇芳を見ると、真っ青な顔をしていた。

「蘇芳?」


 そのとき、また地面がぐらりと揺れた――

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