第37話 パラメーター測定不能
アオイは、エメリーヌとイリスがどのくらい強いのか、具体的に知りたかった。
とはいえ、実際に二人の実力を自分で味わったら、挽肉になってしまうだろう。
だがこの世界には、手合わせしなくても相手の強さを測る手段がある。
「あ、そっか。冒険者ギルドの水晶玉を使えば、二人が私たちと比べてどのくらい強いか、数字で分かるもんね」
クラリッサは納得した声を出す。
「冒険者ギルドかぁ。興味はあったが実際に行ったことはないのじゃ」
「私もよ。うっかりドラゴンだってバレて、大騒ぎになったら嫌だもの。けれど、一回くらいは騒ぎに巻き込まれるのも楽しいかもね~~」
「いや、騒ぎは困ります。ボクが信頼している受付嬢さんがいるので、その人を頼ります。ロザリィさんなら、二人の正体を知っても、むやみに騒いだりしないでくれるはずです」
というわけで四人で冒険者ギルドに行く。
「アオイくんにクラリッサさん。と、そちらの二人は……どちらさま?」
ロザリィは呆気にとられた顔をする。
まあ、メイド服にゴスロリファッションの二人がやってきたのだ。どちらも冒険者ギルドではかなり浮いている。
ギルドの受付嬢ともなれば、色々な新顔を見ているだろうが、こういうタイプは現れなかったらしい。
「エメリーヌさんとイリスさんです。ご縁があって、あの屋敷で一緒に暮らすことになりました。二人ともかなり強いので、水晶でパラメーターを見たいんですけど……ここじゃなくて、ほかの人がいないところでもいいですか?」
ロビーには大勢の冒険者がいる。
とてつもない数値が出て大騒ぎになるのは避けたい。
「なにか訳ありな感じ?」
ロザリィはそれ以上聞かずに、奥の部屋に案内してくれた。
「これに手をかざして念じればよいのじゃな? まずは我がやるのじゃー」
テーブルの上に置かれた水晶球にイリスが腕を伸ばす。
光があふれ、空中に文字を描いていく。
――――――
名前 :イリス
職業 :真祖吸血鬼
レベル:░░
HP :測定不能
MP :759
攻撃力:935
魔力 :測定不能
防御力:571
敏捷性:測定不能
――――――
真祖の実力はどれほどかと楽しみにしていたアオイだが、この結果は想定外だった。
装備による加算なしで攻撃力900超え。ゲームでもこんな数値見たことない。
「むむぅ? いい数字なのかどうか分からぬぞ。測定不能が多すぎるのじゃ。あとなぜ職業が真祖吸血鬼なのじゃ? そこは種族と書くべきじゃろ」
「こ、この水晶は三桁までしか測れないので……測定不能というのは、つまり999オーバー……レベルが表示されないのは、人間用の装置だからで……種族じゃなくて職業と表示されたのは、人間以外が使うのを想定してないからだと思うわ……」
ロザリィは声を絞り出すように答える。
「ふむ。その唖然とした顔を見る限り、我は強いのじゃな。えっへんなのじゃ」
「強いっていうか強すぎるっていうか……し、真祖……真祖がどうしてこんなところに!?」
「真祖が冒険者ギルドにいちゃいかんのか?」
「いけないってことは決して……ひっ、食べないで!」
「食べん! 我はそんな酷いことはせんぞ!」
怯えるロザリィを見て、イリスは頬を膨らませた。
「あれ? イリスって真祖の威厳が欲しいんだよね? 恐れられるってことは威厳があるわけだから、望むところなんじゃないの?」
クラリッサがそうツッコミを入れた。
「む、むむ。そういう見方もあるが……我は威厳を出しつつ、人間と仲良くしたいのじゃぁ! なにもしてないのに怯えられたら悲しいのじゃぁ!」
イリスはスカートを握りしめて訴える。
「あら~~。イリスったらつい本音を出しちゃって、可愛いんだからぁ」
「あ、今のは違うのじゃ。我は真祖じゃから、そんな人間と仲良くなんて……あ、そうじゃ! 我は人間を油断させるために仲良くしたいのじゃ。それで我に気を許した人間どもが、自ら血を差し出してくるようにするのじゃぁ」
イリスはエメリーヌに撫でられながら野望を語った。
内容だけなら『狡猾な吸血鬼』という感じだが、語っているイリスが目を泳がせているので、とってつけた感が否めない。
「か、可愛い……確かにこの子になら血を飲まれてもいいかも……」
しかしロザリィはイリスの野望通りの感情を抱いたようだ。
可愛いは正義、というやつだろうか。
「次は私の番ね。うふふ」
エメリーヌは楽しげに水晶へ手をかざす。どんな数値が出るのか楽しみという様子だ。
――――――
名前 :エメリーヌ
職業 :ドラゴン(光)
レベル:░░
HP :測定不能
MP :測定不能
攻撃力:測定不能
魔力 :測定不能
防御力:測定不能
敏捷性:測定不能
――――――
ところが彼女のパラメーターは全て測定不能だった。
残念そうに唇を尖らせる。
「つまらないわぁ。四桁も表示できるようにしてよ~~」
「私にそんな技術力は……そもそも人間の場合、三桁の後半に至るのも珍しいので……四桁を測定できるようになることは、おそらくないかと……」
「そうなの? 参考までにアオイくんとクラリッサちゃんのも見たいわぁ」
アオイたちが以前に計測したのはゾンビ屋敷を浄化する前だった。
あれから結構時間が経ったのでレベルアップしているかもしれない。
そう思ってやってみたが、クラリッサはレベル21のままだった。このくらいになると、なかなか上がらないという。
――――――
名前 :アオイ
職業 :魔法師
レベル:8
HP :40(+200)
MP :48(+639)
攻撃力:28(+1)
魔力 :37(+203)
防御力:23(+206)
敏捷性:24
――――――
7から8に上がっていた。頑張ったご褒美のようで嬉しい。
アオイが満足していると、なにやらエメリーヌとイリスが青ざめた顔になっていた。
何事かと思っていたら、二人はアオイとクラリッサに抱きついてきた。
「人間が弱いって知ってたけど……具体的な数字で見せられると気の毒になってくるわ!」
「お、お前ら……こんな脆弱な体で生きていたのか……転んだだけで死にそうじゃ! 我が守ってやるからな!」
装備による補正値はアオイにしか見えない。だからこの二人には、二桁の数字が並ぶ脆弱なパラメーターしか映っていない。
そして装備の加算があったとしても、二人からすれば間違いなく格下だ。
弱すぎて小動物かなにかに見えているかもしれない。
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