第21話 猫耳ローブをゲット

 アオイのMPは39だ。

 そこにペンダントの加護を加算すると239になる。

 ただ攻撃魔法を使うだけなら頼もしい数値だが、ゾンビ屋敷を浄化するには、まるで足りない。


 なにせゾンビの発生源をどうにかするのに目安として300のMPが必要らしい。発生源に辿り着く前に大量のゾンビと戦うことを考えれば、今の倍のMPでも心許ない。

 今からレベルを上げてMPを増やすのは現実的ではない。時間がどれだけかかるやら。


「というわけでボクは町で、加護枠がある装備を探すので、今日は別行動にしましょう」


「私はその加護枠ってのが分からないから、一緒に行っても邪魔になっちゃうね。分かったよ……寂しいけど……」


「邪魔っていうか。地道な作業なので、クラリッサさんは途中で飽きると思うんですよ」


「うん。地道な作業、嫌い」


 クラリッサは真顔で頷いた。

 朝食を食べてから、それぞれ別方向に歩いて行く。


(クラリッサさんと一緒にいるのが当たり前になっていたから……一人だと実際、物足りないな……)


 日本にいた頃は、たまに医者や看護師が病室に来るだけで、基本的にアオイは孤独だった。

 一人で過ごすのが日常だった。

 こんなわずかな日数でアオイを寂しがり屋にしてしまうとは、クラリッサは大した人だ。

 アオイはそんな自分の変化を好ましく思った。


 それに寂しいといっても、いざ作業が始まれば集中して、ほかのことを忘れてしまう。

 ゲーマーとはそういう生き物だ。


(服屋か……ここから見ていくか)


 そこは男性物も女性物も扱っている衣類店だった。

 アオイは、この世界の相場にまだ詳しくないが、高級ブティックでなく庶民向けの価格と思われる。

 適当に服を手に取り、鑑定スキルを使ってみる。

 どれも加護枠がなかった。厚手の服でも防御力が一桁を超えない。戦闘用の装備品としては期待できなかった。


(まあ、鎧じゃなくて服だもんな。普段着でモンスターの攻撃を防ごうってのが間違ってる。けど、それはそれとして、服は買っておきたいな……)


 アオイはずっと同じパジャマを着ている。その上にローブを羽織っているので目立たないが、いい加減、自分でも匂いが気になってきた。下着の替えも欲しい。


(服なんて自分で選んだことないから、どうしていいか分かんないや)


 考え込んでいると、女性店員が声をかけてきた。

 アオイは素直に「服を買いたいんですが、初めてなのでなにを選ぶべきか悩んでます」と伝える。


「そういうことでしたら、一緒に選びましょう。ところで一つ確認なんですけど……男の子で合ってます、よね……?」


 店員は自信なさげに言う。


「男ですよ」


「ああ、よかった。あんまり綺麗な顔なので、もしかして女の子かも、とか思ったりして。あ、ごめんなさい。私、失礼ですよね」


「いえ。そういうの気にならないので、大丈夫です」


 女と間違われたところで、なにか減るわけでもない。

 さすがに女子トイレとか女風呂とかに案内されたら、アオイ自身より周りに不快な思いをさせるので困るが、それ以外は「ふーん」という感じだ。

 極論、ここで店員に「これが一番お似合いですよ」と女性物の服を渡されたら、納得して買うかもしれない。


「プロと見込んでお願いします。ボクの服を見繕ってくれませんか? 全身お任せします」


「かしこまりました! 私、あなたみたいな美少年のコーディネートするの夢だったんです……!」


 そんなに美少年なのかな? とアオイは疑問に思うが、店員の情熱に水を差しては悪いので黙っていることにした。


「やっぱり美少年は半ズボンですよね! 白い上品なシャツに、リボンタイ……足はタイツ……いや、あざとすぎるか。今日のところは普通にハイソックスで! それからそれから……あっ、もしかしてお客様って魔法師ですか!?」


「はい」


「だったらオススメのローブがあります」


 アオイは店員が選んだ服に試着室で着替えた。

 悪くない。

 冒険者としてはキッチリし過ぎな気もするが、気品があって格好いい。

 そして最後に渡された白いローブは、とても頑丈そうな作りだ。山や森を走り回っても破けたりしないだろう。

 フードには猫耳の飾りがついていて、店員がイチオシするのも納得な可愛さだった。



――――――

名前 :猫耳ローブ

防御 :+10

加護枠:残り1

――――――



 デザインが優れているだけでなく、なんと加護枠があった。アオイは心の中でガッツポーズを作る。


「気に入りました。これ全部買います」


「はわわ……」


 着替え終わったアオイが試着室のカーテンを開けると、なぜか店員がうろたえ始めた。


「店員さん?」


「か、かわゆ過ぎる……私のコーデは神か……いや、この子が神か……」


 店員は口元を押さえ、プルプル震えている。

 アオイは渡された服を着ただけで、それ以外になにもしていないが、喜んでもらえたようで嬉しい。

 ほかにも何着か選んでもらい、ついでに下着も買う。


「それで代金は……」


「いらない!」


「いらないって、そういうわけにはいかないでしょう」


「いや、本当にいらない! その代わり、また来てね。絶対来てね! あなた、お名前は!?」


「アオイです」


「そう、アオイちゃんね! なかなか来なかったら冒険者ギルドに名指しで依頼出すから。『着せ替え人形になれ』って!」


 そんな依頼を出されるのは、ちょっと恥ずかしい。

 そうなる前に、またこの店に来よう。


「分かりました。今日はありがとうございました。次はちゃんと払わせてくださいね」


「お金なんていいってば!」


 そんな言葉で見送られながらアオイは店を出る。

 しかし『タダほど怖いものはない』という言葉がある。

 毎回、無料で服をもらっていたら、そのうち、もの凄い恰好をさせられるかもしれない。

 次は強引にでも代金を渡そう。


「さて。今まで使ってたローブと猫耳ローブを合成させるぞ」


 公園のベンチで作業に取りかかる。

 まずメインになる猫耳ローブを選択。それに布のローブを合成。



――――――

名前 :猫耳ローブ(+1)

防御 :+11

加護枠:HP+200 残り1

――――――



 上手くいった。

 布のローブの加護を引き継げた。これはゲームの仕様と同じだ。

 続いて、残った加護枠を埋める。



――――――

名前 :猫耳ローブ(+1)

防御 :+11

加護枠:HP+200 MP+200

――――――



 これでアオイのMPは400を超えた。もう一枠くらい欲しい。

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