第6話 お菊さんの除霊方法を考えろ!

(6)お菊さんの除霊方法を考えろ


武はお菊さんを除霊する方法を考えているのだが、お菊さんのスペックによって除霊方法が異なることを悟った。つまり、お菊さんがどのようにスペックを有しているかを想定し、それに応じた対策を採る必要があるのだ。


武はまず、お菊さんのスペックについて下記の5つの仮説を立てた。


・仮説1:お菊さんがこの世には9枚しか皿がないことを知っている

・仮説2:お菊さんは行動可能範囲がごく限られた地縛霊である

・仮説3:弾四郎が隠した皿がどこかに存在する

・仮説4:お菊さんは皿の色、図柄のみを把握している

・仮説5:お菊さんは皿の構成成分の情報を把握している



次に、武はそれぞれの仮説に対して、有効と思われる除霊方法を検討した。



【仮説1】お菊さんがこの世には9枚しか皿がないことを知っている


これは最悪のケースだ。武には対処のしようがない。

9枚しかないことを知っているお菊さんに『皿は10枚ある』と誤認させることは難しいだろう。

この場合は除霊師か霊媒師に依頼して、お菊さんを強制的に除霊するしかない。

武はできればこの方法は採りたくない。なぜなら、お菊さんは満足して成仏する訳ではないから。



【仮説2】お菊さんは行動可能範囲がごく限られた地縛霊である


お菊さんはごく限られた範囲でしか活動できない場合、お菊さんを強制的に除霊する必要はないかもしれない。

なぜなら、お菊さんの行動範囲を覆う防音の構造物を設置してしまえばいい。

お菊さんは毎晩皿を数えるだろうが、防音施設の中で数えているから外には聞こえないからだ。

お菊さんは皿を数えているのを誰かに聞いてもらえなくなるが、強制的に除霊されるよりはマシだろう。



【仮説3】弾四郎が隠した皿がどこかに存在する


もし、弾四郎が隠した皿が見つかれば他の9枚と合わせて10枚となる。そして、皿が10枚揃えばお菊さんは成仏する。

姫路は姫路城があったから空襲が少なかったと聞いている。可能性は高くないもののひょっとしたら皿が現存する可能性はある。

弾四郎の実家に隠した皿がまだ保管されているかもしれないし、弾四郎を殺したのはお菊の二人の妹だからお菊さんの実家に保管されているのかもしれない。



【仮説4】お菊さんは皿の色、図柄のみを把握している


お菊さんは1枚の偽物を見破った。見破った方法が、皿の色、図柄といった見た目の問題であれば、現在(1959年)の科学技術をもってすれば容易に解決することができるだろう。

つまり、皿の色や模様をコピーして、コピー皿を製造すればいいだけだ。



【仮説5】お菊さんは皿の構成成分の情報を把握している


お菊さんは皿の構成成分を把握している場合、仮説4と比較すると難易度は飛躍的に高くなる。なぜなら、お菊さんは9枚の構成成分と他の皿の構成成分を比較することにより、偽物か否かを判断しているからだ。

逆に言うと、9枚の皿の構成成分と同じ皿を作ることができれば、お菊さんには同じ皿が10枚存在していると思わせることができる。


1959年時点において、皿の構成成分とされる主素材と副素材は大まかに次のものだ。


・主素材:プラスチック、ガラス、土、金属、紙、木

・副素材:安定剤、紫外線吸収剤、釉薬(うわぐすり)、蛍光剤、ラミネート剤、漆(うるし)


お菊さんの時代の皿と言えば、陶器や磁器だろう。プラスチック、金属、紙、木が入っているとは思えない。

陶器と磁器の成分はガラス(長石(ちょうせき)、珪石(けいせき))と土だ。

陶器と磁器はガラスと土の構成比率が違うだけだから(下記)、青山家にある9枚の皿を調べれば何とかなるだろう。


磁器:長石30%、珪石40%、粘土30%。

陶器:長石10%、珪石40%、粘土50%


主素材の次は、どの副素材を使用しているかを調べれば、9枚の皿と構成成分が同一の皿を作成することは理論的には可能だ。

もし、姫路の研究施設にある成分分析装置を使用することができれば、より構成成分を精緻に把握することができるだろう。


***


武は猫に、考えたお菊さんの仮説とその対応策を説明した。


「お菊さんのスペックか・・・。アオヤマに聞いてみようか?」と猫は言った。


「そうだね。僕が立てた仮説のどれが正しいか分かれば、お菊さんを成仏させることができるかもしれない。」


こうして、武と猫はアオヤマに会いに行くことにした。

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