第5話 青山家の試行錯誤
(5)青山家の試行錯誤
武は猫から青山家の苦難の歴史を聞かされ、青山家に少し感情移入している。
武には、400年もの間、青山家が何の対策も取らずにお菊さんを放置していたとは思えない。
まず、武は猫に青山家が過去に行ったお菊さん対策を聞くことにした。
「青山家はお菊さん対策を400年してこなかったわけじゃないよね?」と武は猫に聞いた。
「もちろん、いろいろ試したみたいだ。」
「どんなの?」
「お菊さんが数える皿を隠した。」
「確かに『い~ちま~い』とは言えないな。」
「失敗した。セリフが『皿がないー』に変わっただけだ。」
「そんな気がした。他には?」
「そっくりな皿を1枚買ってきて増やした。でも失敗した。」
「なんで?」
「お菊さんは『これじゃないー』って言うらしい。」
「へー。お菊さんには違いが分かるのか。そう言えば、落語のオチで『明日休むから2日分の皿を数えましたー』ってあったよね。」
※上方落語の『皿屋敷』で別名『お菊の皿』ともいいます。
「それは1日休むだけ。成仏しない。」と猫は悲しそうに言った。
「青山家って大変だな・・・。」
「そうだな。今の青山家の当主は80代なんだけど、息子は『お菊さん対応』が嫌で出て行ったらしい。」
「だろうな。自分の一生をお菊さんに捧げたくないよなー。」
「猫のアオヤマが言うには、最近、姫路市役所の職員が青山家に『事業承継』のプレッシャーを掛けてくるらしい。」
「これって事業なの?」
「ああ、青山家には姫路市役所から『お菊さん対応費』が支給されている。割のいい仕事らしいぞ。だから、今まで家業として続いてきたんだ。」
「でも、息子が出て行って事業承継できないから、お菊さんを除霊しようと青山家は考えた。」
「正解!400年以上も『お菊さん対応費』で贅沢な暮らしをしておきながら、今さらお菊さんを除霊しようとしてる訳だ。お菊さんも怒るよなー。」猫はしみじみと言った。
「そうだね。アオヤマは除霊を手伝ってくれって言ってるの?」
「もしお菊さんを除霊できるアイデアがあったら教えてほしいってさ。」
「暇だし、お菊さんの除霊方法を考えてみるか・・・。」
そう言うと、武はお菊さんの除霊方法を導くために前提を整理し始めた。
まず、青山家が皿を隠したということは、皿屋敷伝説の9枚の皿はまだ青山家が保管しているようだ。お菊さんは物理的に現世に存在する皿を数えていることになる。
つまり、その皿は霊的な何かではなく、物理的にこの世に存在している皿だ。
青山家に行けば現物を確認できるだろう。
次に、青山家が皿を隠した時にお菊さんは『皿がないー』と言っている。青山家の人間がいつもの皿の置き場所から移動させたから、皿が無いと言ったのだ。
つまり、お菊さんの移動距離は限られており、その範囲を超えて活動しない。
さらにお菊さんは皿を捜索する霊的な能力を有していない。
また、青山家がそっくりな皿を1枚買ってきて表面上10枚に増やしたものの、お菊さんに見破られている。お菊さんが見破った理由として武が考えたのは2つだ。
1つ目は、お菊さんは本物の9枚の皿の何かの情報(例えば、皿の構成成分や図柄など)を把握している。そうでなければ、そっくりな1枚の皿が他の9枚の皿と違うことを見破ることはできないだろう。
2つ目は、お菊さんは皿が9枚しかない事実を理解していることだ。この世に存在する皿は9枚しかないから、10枚あるとどれか1枚が偽物だ。お菊さん自身は、どの皿が偽物かは分からないが、偽物が1枚混ざっていることは分かるのだ。
この場合、どんな方法を使ってもお菊さんは誤魔化せない。
さらに、皿屋敷伝説では町坪弾四郎(ちょうのつぼ だんしろう)が皿を1枚隠したとされている。更に、町坪弾四郎は自分が隠した皿を手土産に帰順を請うているのだが、最終的には、弾四郎はお菊の二人の妹に討たれたようだ。つまり、皿屋敷伝説において弾四郎が隠した皿が破壊されたと明確に記述している箇所はない。
すなわち、探せば弾四郎が隠した皿が発見できるかもしれないのだ。
武はこれらの前提からお菊さんを除霊する方法を考えることにした。
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