第4話 騎士団長さんですか

「お姉ちゃん、朝だよ。起きて」


私はそう言うスイに体を揺さぶられ目を覚ます。


「んー・・・どうしたの?スイ」


「スイ、畑作り楽しみ。だから早起きした」


「そっかー、じゃあ朝ごはん食べようか」


・・・・・・


「スイは育ててみたいものは何かあるの?」


朝ごはんのパンを齧りながら私はスイに尋ねる。するとスイは目を輝かせながら言った。


「スイ、薬草作りたい!あと小松菜!」


わーお!異世界の派手植物と地球の地味野菜のコラボレーションだ!でも小松菜のタネなんてあっただろうか?


「薬草はタネ買ったはずだけど・・・小松菜のタネなんてあった?」


「大丈夫、スイ買ってある」ブイッ


今日のスイは何だかテンションが高い。それだけ楽しみだということだろう。まさかスイが土いじりが好きだったとは、知らなかった。これならタネを植えてからの畑のことはスイに任せて私はガルシアさんの手伝いが出来るだろう。


「それじゃあ、ご飯も食べたし畑作り始めようか」


「うん、スイ楽しみ」


ガチャ


「そっかそっか、じゃあ精一杯頑張っていい畑にしよう・・・」ムニュッ


ムニュッ?何の感触だ?何か妙に柔らかいような固いような?


私は恐る恐る下を見る。するとそにいたのは、


「人・・・?」


人が倒れていた。見た感じ女の人で・・・ダメだ、だとしても意味わからん。とりあえず私はスイに言った。


「畑、もうちょっと後になるかも」


・・・・・・


にしても、この人一体誰なんだろう?見たことないや。


けれどその顔立ちは寝顔であっても端正だと分かるしスタイルも抜群だった。あっ、起きた


「んっ・・・どこだここは?」


「ここは私の家です。お姉さん、私の家の前で倒れてたんです」


するとその女の人はすぐに立ち上がると私に頭を下げた。


「それはとんだ非礼を!申し訳ない」


「えっ!?いえいえ、全然大丈夫ですよ!それより頭を上げてください」


私がそう言うとその人は申し訳なさそうに頭を上げた。


「えっと、お姉さんのお名前聞いてもいいですか?」


するとその人は胸に手を当てて言った。


「ワタシの名前はヴァル。この国の女騎士団の騎士団長をしている」


「騎士団長さんですか・・・」


「うむ、とは言ってもあくまで女騎士団の団長であって騎士団全体の隊長ではないのだがな」


「そうなんですね、でも何でその騎士団長さんが私の家の前で?」


私がそう尋ねた瞬間、ヴァルさんの表情が明らかに強張った。そして私に目を合わせることなく話し始める。


「お恥ずかしい話だが、昨日、遠征から帰ってきてな。その打ち上げがあったのだ」


なるほど、でもそれだけなら問題ないと思うんだけど・・・


「その時に少し飲みすぎてな、3軒目以降の記憶がないんだ・・・」


あぁ、お酒に飲まれちゃうタイプの人だ。私にも覚えがあるのでヴァルさんのフォローに回る。


「そうだったんですね、でも遠征頑張ったんだから一回ぐらいそうなっても問題ないですよ」


「アハハ、まさか子供にフォローされてしまうなんてな。それより、親御さんはいるかい?」


やっぱり聞かれますよねー、まぁ答えることは決まってるんですけど。


「お父さんとお母さんはどっちも死んでしまいました。だから今はこの子と一緒に2人で暮らしてるんです。ほらスイ、あいさつ」


私がそう言うとスイは私の後ろからヒョコっと顔を出した。


「スイはスイです。スライムです・・・」


今ので確信したが、スイは私以外の人に人見知りするようだ。


「なるほど、それは失礼なことを聞いてしまったね。お詫びに何か、出来ることはないかな?何でもしよう」


「いやいやそんな・・・いや、そうですね。それじゃあ1つお願いしてもいいですか?」


・・・・・・


「流石ヴァルさん!助かります!」


「なにこのくらい、日々の鍛錬に比べれば楽なものさ」


「お姉さん、力持ち、スゴイ」


するとヴァルさんはスイの頭を撫でながら言った。


「アンタも十分力持ちだよ」ナデナデ


「エヘヘ・・・」


そしてヴァルさんは私の方を振り向いて話しかけてきた。


「で、今回は何のタネを植えるんだい?」


「えっと、メインは薬草と小松菜。空いたスペースにトマトとかかな。あとプランターにラディッシュを植える予定」


その言葉にスイも反応する。


「特に小松菜。スイ、楽しみ」


「そうかい、だったらちゃんと育つように丁寧にやらないとな」


「でも、何で小松菜?」


その問いにスイが間髪入れずに答える。


「美味しい。スイ、小松菜好き」


「・・・ということらしいです」


それを聞いたヴァルさんがスイを抱き寄せて言った。


「何よー!スイちゃん、可愛いじゃない!」


うんうん、きっとこの世界で1番可愛い。


「く、苦しいです。お姉さん」


・・・・・・


「ふー、これで完成だな」


「こうやって改めて見ると、案外広いな」


庭一面畑になった我が家を見て、私は思わず息が漏れてしまった。


「広い。楽しみ、はやく育たないかな?」


「まだまだだよ、早くてもラディッシュが1ヶ月後じゃないかな。だからスイ、その間畑のお世話よろしくね」


「うん、スイ、がんばる!」


その瞬間、家の向こうから声が聞こえる。


「おーい!ヴァル!どこにいるってんだい」


この声、シュナさんか、その声が聞こえたのかヴァルさんが答える。


「ああ、シュナ!私はここにいるよ!」


「おっ、ヴァル。ここにいたの・・・か、スゴイ広さの畑だな・・・」


シュナさんは、私の家に入ると苦笑いしながらそう言った。やっぱり?


「でも、広いとたくさんの植物育つ。だからいい」


スイがそう答えると、シュナさんは頭を優しく撫でて、そうかと答える。そしてヴァルさんの方を向いて言った。


「ほらヴァル、そろそろ帰るぞ。ガルシアの心配してるぞ」


「ああ、分かってるよ。2人とも世話になったな」


その言葉を聞いたシュナさんは、ヴァルさんの頭をこづくと、私の方を向いて言った。


「ルリカ、ヴァルが世話になったね。礼はいつでもさせるから好きな時に私の酒場に来な」


その瞬間ヴァルさんの足が止まる。


「ルリカ・・・そうかそうか、君が例の、なるほど・・・」


そう呟くとヴァルさんは勢いよく私の方を振り返る。なんだか嫌な予感が・・・


「君がルリカちゃんだったのか・・・」


「あっ、はい。そうです」


「噂はガルシアから聞いているよ。全ての魔法に適性があるそうじゃないか・・・だから、ワタシと決闘だ!」


「決闘!?」


マジですか・・・

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