「恋はあんま向いてへんみたいや」
彼女と別れて、初めてのクリスマス。余り物の独り者たちで集まった聖なる夜に、謎テンションになって始めた人生ゲーム。続々みんなが結婚していく中、僕は六度目の離婚をしていた。
不満げな僕に、リサさんは「ぷっ」と噴き出し、唇をきゅっと結んだ。一文字の口元に浮かぶ含み笑い。それは言いたいことを考えるとき、いつもする彼女の癖。今は見たくなくて、顔をそらす。紅茶の香りが鼻をくすぐった。
「ふふふ、向いてへんことはないやろ。てか、向いてるとか向いてないとか、恋はそういうもんちゃうよ」
「……ふぅーん?」
うなずきつつも、タコみたいに突き出していた僕の口。やけくそになって頬を膨らますと、リサさんがクスッと笑った声が聴こえた。
「でも、こうも失恋続きやと、落ち込むっていうかさ……。あーぁ。一応、結婚も考えてたのになぁ……。こんなこと言ってる間に独りのままで死んでいくんやろなぁーっ!!!」
叫んで投げたサイコロの目は、僕を借金地獄に突き落とした。
「どんまい!」
笑って、僕の頭をワシワシ撫でるリサさん。そして、いつもよりほんのちょっぴり小さい声でつぶやいた。
「ほな、あたしはどっちか出てあげるわ!結婚式かお葬式」
僕は自分のコマの先を見た。ここから結婚できるマスははない。コーラのコップを手に取る時間も惜しくて、顔を上げずに唾を飲む。心の中で彼女の声を反芻してから、自然な笑みで彼女に返す。
「ありがとー!
リサさんがそう言ってくれるなら、もっといろいろ頑張れちゃうわー!」
視界の隅ではマコが目玉をくりくりさせて、物言いたげな笑みを浮かべてた。ぶん殴りたい気持ちを抑えて、僕は冷たいコーラを流し込む。弾ける泡が喉をピリピリ突き刺した。
――と、まぁ。あれやこれやも今や昔。
「リサ、結婚しちゃったね」
マコが二重まぶたをパチクリさせて、そう言った。少し前に整形した彼女の目元に、まだ慣れない僕がぼんやり見ていると、その大きな目をパチパチさせ「見過ぎだ」と笑った。
何年ぶりかの同窓会。リサさんはあの後しばらくして、後輩と付き合い始めた。昔からよく知るリサさんが、彼氏と二人でいるとき、僕の知らない顔をしていたのを見た日のことは忘れられない。二人が結婚したと聴いたときには、なぜかホッと安堵した。
他の友だちもあれよあれよと結婚していくのに、僕は未だにひとりぼっち。人生ゲームで予行演習はしていたハズなのに、寂しい気持ちは変わらない。
「ミヨちゃんとはナイスカップルだったのにね」
ニヤニヤしながら、ポッキーを僕の鼻に突きつけるマコ。僕はうぇーと舌を出す。
「こんな甲斐性なしと一緒にされたらミヨちゃんが嫌やろ。ほら、僕はあの子みたいに既婚者に手出したりしてへんし」
「……ふぅーん?」
キラキラの目で顔をしかめる彼女。そんな彼女だって、もうお腹に赤ちゃんがいる。いろいろ『自由』にしながらも、もうすぐ一児のお母さん。
――あぁ。こんなに何度もムカついているのに。結局一度も殴れなかった。
嬉しそうな彼女から目をそらして近くの皿の唐揚げをとる。思いきって頬張ると、軽い胸焼けを覚えた。お酢でもかけてから、食べればよかった。
知らないふりをしてた おくとりょう @n8osoeuta
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