第45話 六年生 & 修学旅行のしおり


 六年生になった。

 いよいよ小学校生活も最後だと思うと感慨深いものがあるけれど、のんびりとそれに浸ってられるような暇は私にはなかった。

 プライベートでは改稿に次ぐ改稿をこなし、いよいよ最終校正。KODAIラノベ大賞受賞作の出版はいよいよ来月だ。


 そんな多忙の只中にありながら、学校生活もドタバタだ。

 六年生。つまりは来年は進学試験がある。

 清澄はエスカレーター進学。とはいえ、それはあくまで清澄本来の生徒、つまりはお坊ちゃんお嬢様に限った話。

 私みたいな偏差値を上げる、引いては清澄の売名目的な特待生という名の傭兵部隊は、その役割を果たせなければこの機にあえなくお払い箱だ。

 だからAAA新人賞の時のように授業中に寝ているわけにはいかない。ただでさえ、学年が上がるにつれ前世の知識チートだけでは厳しくなってきているのだ。


 そんな風に勉学が忙しいかと思えば、それだけじゃない。

 六年生といえば小学校の一大イベント、修学旅行がある。

 そして、清澄はクラス替えが二年に一回で、クラスの委員等も五年の頃から変わらない。つまり、私は今年もあえなく学級委員という名の貧乏くじ、クラスのまとめ役をしなくてはならない上に、それで修学旅行を乗り切らなければならないのだ。



「さて、どうしよっか?」

「どうするもこうするもやるしかないでしょう」

 放課後。秀一君と顔を向かい合わせて、私はため息を吐く。

 机の上には一冊の薄い冊子、『修学旅行のしおり』。今目の前にあるこれは昨年のものだが、今年のこのクラス分のこれは私達が作らなければならない。面倒だ。

「そうだね。そうするとどうやって作るかだけど」

 秀一君はチラリと私を伺い、

「自分達で作った方が早そうではあるよね」

「そうですね」

 秀一君の提案にとりあえずは頷く。


 先生曰く、このしおりはクラスごとに作成。その作り方もそれぞれのクラスに任せるそうだ。もちろん、行先・タイムスケジュール等は先生達が決めていて、そこは全クラス共通、変更できないけれど、行先の説明などはそれぞれで作るとのことらしい。 

 小学生にこんなことやらせる? と思うけれど、清澄としては将来上に立つことが想定されるお坊ちゃんお嬢様を預かっているので、決まった定型作業をこなすような学習だけじゃなく、自分達で何かを作るという学習の機会も与えるということらしい。だったら行先やスケジュールも決めさせてよと思うけれど、さすがにそれは自自主性に任せ過ぎということだろう。


 思考が厄介ごとを与えられた時にもどったけれど、前提はさておき今だ。

 残念ながら、これを作ることは決定事項。逃れられない。そして、学級委員がメインで話を勧めなければならないのも確定だ。

 あとはどう作るか、というか誰が作るかという問題。与えられ方は学級委員が作りなさいではなく、クラスで作りなさい。

 ということはクラスで相談、分担してやれということの可能性が高い。しかし、こんな薄っぺらな大したこともない冊子。下手に分担してやるより、自分達でパパッと片付けてしまった方がはるかに楽だ。


「葉月ちゃん」

 天使の声に振り向くと、エレナちゃんがおずおずと私を見ていた。


「エレナちゃん。どうしたの?」

 なあに、と首を傾げると、蓮君がエレナちゃんの隣に立つ。

「僕達も手伝うよ」


 思わぬ申し出に目を見開く。


「いいの?」

「余計なこと片付けないと、また葉月ちゃんが部活来るのが減っちゃうからね」

「うっ」

 悪戯な蓮君のからかいに、私は言葉に詰まる。ち、違うんですよ。部活には行きたいんだけど、やることが多くて。受賞作の出版準備とか、次巻の構成とか。


「葉月ちゃんと一緒にいたいから」

 そんな言い訳をしてたら、天使がそんなことを言ってくれた。あまりの可愛さに鼻血が出るかと思った。少なくとも私は泣いた。


「それじゃ、シュウが部活に出れるように俺も手伝ってやるよ」

「いたっ!?」

 バンッと、翼が荒々しく秀一君の背中を叩いた。

「お前な」

「気にすんな。俺とお前の仲だろ」

「お礼を言ってるんじゃなくて、不満を言ってるんだよ!」

 翼と秀一君は嚙み合ってないながらも、息の合った掛け合いをしている。

 良かったね、秀一君。君もそんなやり取りができる友達ができたんだね。

 ぼっちな王子様に友達ができたことに、私は目頭を押さえた。


「あなた達だけでやっては、不満に思うクラスメイトが出ましてよ」

 幼馴染組で和気あいあいとしていると、聞き慣れたお嬢様な声が入ってきた。

「瑛莉ちゃん」

「勝手に決めるのではなくて、クラスメイト全員に聞いた方がいいでしょう。その結果、あなた達がすることになるのだとしても、これはあなた達の修学旅行じゃなくてクラス全員の修学旅行なんですから」

 もっともな意見。

 当たり前すぎて、至極もっともな意見なんだけど、私は瑛莉ちゃんがそれを秀一君に意見をしてでも言ったことに驚いた。

 目を丸くして瑛莉ちゃんを見れば、瑛莉ちゃんはふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

「そうだね。でも、その時はあなた・・・・じゃなくて、瑛莉ちゃんも入れて私達・・でよろしくね」

「はあっ!?」

 瑛莉ちゃんは私に振り向いて声を上げる。

「だって瑛莉ちゃんも私達の幼馴染でしょ?」

「誰がっ」

 瑛莉ちゃんは反論を言いかけて、けど秀一君を含めた私達の視線に止まる。

「……人手が必要なようでしたら」

 うんうん。ツンデレお嬢様はやっぱりいいよね。


 ということで、ホームルームでしおり作り班の立候補募集。

 でも、ただの厄介ごとだから男子はお任せ状態。王子目当ての女子は瑛莉ちゃんの立候補を見て、表立っての抗争を避けた。思わぬ効果だ。

 よって、ここにめでたく我が幼馴染'sの修学旅行のしおり作りが確定した。

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