小学校高学年

第27話 四年生 & クラブ活動


 四年生になった。

 清澄はクラス替えは二年に一度だからメンバーは代わり映えしないけれど、新しく増えることが一つ。

「クラブに入りたい子は、来月までに入部届を提出してください」

 クラブ活動だ。


 他の小学校同様、清澄でもクラブ活動があるらしい。

 ただ違う点もちらほら。

 まず、入部が強制じゃない。

 清澄学院初等部の生徒は、私みたいな特待生とかを除けばほとんどお坊ちゃまお嬢様。クラブなんかに入るまでもなくいろんな習い事をしているし、忙しい。だから、学校側も家の方針を尊重してクラブ活動は生徒の自主性に任せている。

 もっとも、それでも入る子は多いらしい。

 先述の通り清澄に通ってるのは、多くがお坊ちゃんお嬢様。それゆえにクラブ活動のみならず清澄はお家のパイプ作りという側面も強い。小学生にしてそんな思惑があるなんて。清澄……恐ろしい学校。


 また、存在するクラブも多種多様な上にいくつでも入れる。

 普通なら小学校にないだろう華道、茶道。はては乗馬まで。それ小学校のクラブなの? なんてクラブがいくらでもある。流石お金持ち学校。

 ついでに先の通りパイプ作りの場なので、兼部も可能。



 なにはともあれ、肝心なのは私がどうするかだけど。

 バンッ! 

「いったー!」

「葉月! サッカー部入ろうぜ!」

「翼。何回も言うけど私はか弱い女の子なの」

 叩かれた肩を抑えながら、私はか弱いという部分を強調する。こいつは私を男と勘違いしてる節がある。

「だから?」

「だからっ」

 叫びかけて私は思いとどまる。確かにだからだ。清澄のクラブ活動はパイプ作りの場。まして、身体能力に性差が少ない小学生。それゆえ、男女を理由に入部できないなんてことはない。男女差別平等な素敵な世界だね! じゃなくて。

「私はサッカー部に入らないから」

 とはいえ、当然サッカー部、野球部に入る女子なんてほとんどいない。いても、マネージャーだけだ。当然、なにせお嬢様達ですから。男子に混ざってスポーツに興じるお転婆なんているはずがない。

「なんだよ、つまんねー。他に入りたいクラブでもあるのかよ?」

「そういうわけでもないけど」

 それはまだ考え中。

「いずれにしても、私はサッカー部なんて入らないから」

「チェッ、つまんねー」

 翼は舌打ちすると隣の秀一君に振り向く。

「それじゃ、蓮見は?」

 秀一君は目をぱちくり見開く。

「僕?」

「他に誰がいるんだよ」

 思わず首傾げる秀一君に翼は呆れたようにツッコむ。

 うん、そりゃ驚くよね。天下の王子様にこんな気やすく話しかける奴は中々いない。

「お前、足も速かったし運動神経もいいだろ。お前と俺なら天下をとれる」

 なんの天下だ。ああ、天皇杯か?

「サッカーしようぜ!」

 バカだ。バカなガキ大将がいた。

 秀一君は困り顔。うんうん、そうだよね。翼は悪気がない分、タチが悪いんだ。

 だから、秀一君も困りながらも無下にできていない。うんうん、いいことだね。腹黒王子もたまには素直なぶつかり合いをした方がいいと思うよ。



 さて。そうしてサッカーバカからは逃れられたわけだけど、クラブ活動の悩みから解放されたわけじゃない。

 まず大前提。私の最優先は執筆活動だ。ここは譲れない。

 となれば、その時間泥棒になるクラブには所属しないのが一番に思える。


 でも、部活動ネタってメジャーネタの一つなんだよね。引き出しが増えるわけだし、経験しておいても悪くはない。

 ということで入るか否かは置いて、とりあえず選定に入る。

 まずガチなところは却下。必要があれば執筆に全力で当たりたいから、比較的自由なところがいい。そういう目で見た時、清澄のクラブは比較的自由度が高いみたいだけど、運動系は選択肢から除外した。

 いくら自由度が高いとはいえ、集団競技はもとより、団結意識の強いクラブに私みたいな個人活動を優先するつもりの人間が入るのは迷惑以外の何物でもないだろう。

 同じ理由で合唱部、吹奏楽部も却下。加えるなら吹奏楽はお金がかかるし、前世で入ってたからもういい。

 となると、残るのはゆるい文科系、芸術系のサークルだ。


 そう思ってクラブ一覧を見ると、それでもまだこんなにあるのかと驚く。流石、清澄。うわ、奉仕部ってホントにあるんだ。ラノベの鉄板部活だし気にはなる。

「葉月ちゃん、部活入るの?」

「うわ」

 唐突に柔らかなソプラノが耳元で響いて、私は驚きの声を上げた。

「ごめん。おどろかせちゃった」

 振り向くとエレナちゃんが妖精のような顔に、シュンと申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

「ううん。エレナちゃんは?」

 大丈夫と首を振って、私も問い返す。

「葉月ちゃん達が入るなら、一緒に入ろうなって」

 可愛い。こんな妖精にこんな風に言ってもらえるなんて、私はいくら払えばいいんだろう。

「同じく。どうしよっか」

 邪なことを考えていると、蓮君も私達の会話に入ってきた。いつもの読書メンバー集合だ。 

「運動系だと僕はダメだけど」

 蓮君は苦笑気味に言う。蓮君は相変わらず体育は見学だけれど、大きくなるにつれて喘息は落ち着いてきているらしい。いずれ蓮君も運動ができるようになればいいなと思う。

「私も運動はいいかな」

 妖精さんもそのフワフワした見た目通りにそんなことを言う。ただ、エレナちゃんはスポーツができないわけではなくて、あんまり競争とかが好きじゃないだけだ。体育で見てる限り運動神経は悪くない。

「ここなんてどうかな?」

 エレナちゃんが一覧から見つけたクラブを指差す。

「いいね」

 それを見て蓮君が笑顔を浮かべる。

 うん。このメンバーがそろった時から、そんな気はしてたと私も笑った。


 コンコン。

「はい。どうぞー」

 ノックに返ってきた声に、私達はクラブハウスの一室の扉を開けた。

「「「失礼します」」」

「うわ。凄い可愛い子達が来た」

 私達が中に入ると、椅子に座っていた男の上級生が声を上げた。

「君達、入部希望者?」

 一番奥の女の先輩が少し疑わし気に聞いてきた。

「はい。私達、本が好きなんです。よろしくお願いします」

 そう言って私が頭を下げると、エレナちゃんと蓮君も続いてよろしくお願いしますと頭を下げた。

「そう。それじゃあ、とりあえず座って」

 私達の挨拶に少し警戒を解いてくれた女の先輩が着席を勧めてくれる。

「失礼します」

 私達は勧められるままに椅子に腰かける。

「私は由利咲寧々。このクラブの部長よろしく」

「僕は饗庭祐樹。一応副部長をやってるよ、よろしく」

 自己紹介してくれた二人の先輩に私達は名乗り返して頭を下げる。

「それじゃ、このクラブの活動だけど……」

「特にないかな。本を読んで、お茶してだべって。だから出席も自由だし、比較的緩いよ。今日もあと二、三人来るかどうかって感じじゃないかな?」

 言葉を選ぶ由利咲先輩に代わって、饗庭先輩がストレートに教えてくれた。うん。由利咲先輩はちょっとってたしなめてるけど、それ位の方がわかりやすくていいです。

「まあ、そんな感じだけど、それでもよければ見学していって」

「はい。ありがとうございます」

 それから私達はお茶をしながら、好きな本や作家を先輩達と語り明かした。

 みんな乱読派だけど、エレナちゃんは由利咲先輩と好みが合った。私は饗庭先輩と好みが合った。饗庭先輩は嬉しいねと笑っていたけれど、ミステリー好きの蓮君とも好みが合っていたので、単純にカバー範囲が広そうだ。凄い。

 いずれにしろ、とても楽しくて過ごしやすい空間だった。

 一週間後、私達は三人揃って文芸クラブに入部届を出した。



「葉月ちゃん達、文芸部に入部したんだって?」

「うん」

 秀一君に聞かれて私は頷いた。

「そっか。それじゃあ、僕もそこに入ろうかな。やっぱ葉月ちゃん達のそばが一番落ち着けるし」

「ご自由にどうぞ」

 はいはい。気を使わなくていいからだろう、隠れ腹黒王子。なんて気軽に応えたのだけど。

「えー、お前等全員入るのかよ! それじゃ俺も入ろっかな」

 え、翼? あなた大人しく本なんて読むタイプじゃないでしょ。

「それだったら私達も入りますわっ!」

 瑛莉ちゃん!? 腹黒ストーカー王子を好きな女もストーカーだった!?

 い、いや。これは恋する乙女の行動力と言うべき?


 そして。

「「「失礼しまーす」」」

「はーい……って蓮見君に姫宮さん!?」

 新しいメンバーに由利咲先輩が驚愕。普段ひょうひょうとしている饗庭先輩ですら目を丸くしていた。

「王子が文芸部に入るって本当!?」

 ギャー王子親衛隊ー!

 そんな風に、その日は天に地にの騒ぎでクラブ活動どころではなかった。

 そして由利咲先輩、饗庭先輩は丁重に秀一君にお断りのお辞儀をした。腹黒だけあって空気が読める秀一君は、こちらこそ申し訳ありませんでしたと頭を下げて文芸部入部を辞した。

 うん、かわいそうだけど仕方ない。翼と二人、サッカーに励んでくれ。

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