第22話 初投稿


 読んでもらいたいと言ったものの、私はまだ八歳。

 小説発表なんて目立ちすぎる。

 児童書の世界では七歳で受賞なんて天才もいたみたいだけれど、そうは言っても児童書だ。私が書きたいラノベとは話が違い過ぎる。

 ライトノベル新人賞での最年少受賞者は、十六歳というのが圧倒的に多い。単行本におさまるような話を一定以上の完成度で作り上げるには、どうしてもそれ位の年相応の能力が必要なのだろう。


 なら、どうしよう?

 童話を書いてみるか? 一瞬そんな考えが頭をよぎったが、即座に却下した。

 童話に興味がないわけじゃない。子どもにもわかる簡易な言葉で、短い話の中に物語のエッセンスを詰め込む。その発想力とテクニックは凄いと思うし、興味がないわけじゃない。

 でも、違うのだ。


 私は、私が楽しいと思う物語を作りたい。

 それは童話じゃなくて、やっぱりライトノベルだ。


 じゃあ、どうするか?

 前世の私にとってはこの問題は難題だったかもしれないけれど、今の私は割と簡単にその答えに辿り着いていた。


 ネット小説。

 前世の私の頃は、あまり耳にしなかった言葉だ。むしろ自分のブログで連載していたブログ小説なんて言葉の方が聞き覚えがあったかもしれない。まあ、それも小耳に挟んだくらいでほとんど話題にも上がらなかったのだけれど。クビになる少し前に、ブログ小説で凄いのがあるらしいなんて話題を聞き始めたくらいだ。


 しかし、今はまるで事情が変わっていた。

 きっと本好きの人はわかってもらえると思うけど、私は図書館や本屋が好きだ。

 心落ち着く紙とインクの匂い。

 見渡す限りの本に囲まれた静寂の空間。

 あそこに机と椅子、そして紅茶さえあれば、私は一週間だって入り浸っていられる。


 って、話が逸れた。

 まあ要はそんな本の最前線が大好きな私は、そこに頻繁に出入りしていた。

 すると、自然と現在の出版事情も見えてくる。

 なろう小説。

 もはやそんな新たなジャンルを確立したネット発の小説が、ラノベに取って代わろうかという程に棚を占拠していたのだ。


 ネット小説。

 慣れない分野ではあるけれど、そこに私は光明を見出した。

 ネットの特徴の一つ。

 それは発信者の匿名性だ。

 その戦場であれば、私は自分の年齢なんて気にすることなく作品を発表することができる。間違いない。私はヒカ〇の碁でそれを学んだ。

 ネットの海に潜む史上最年少小説家。ウフフ。私、ワクワクしてまいりましたわ!


 私は初めてのネット小説投稿とまだ見ぬ読者に心を躍らせて、サイトの登録手続きを進めた。


   ◇◇◇


 早速、転生後に書いた作品を投稿してみた。

 ドキドキする。ネット投稿自体初めての体験だし、自分の作品を自分以外の誰かに見てもらうのは生まれ変わって初めてだ。どんな反応が来るのだろう。


 ……ん? そうだ。どうやって反応が来るんだろう?

 そもそも、私はネット投稿のシステムがわかっていなかった。


 私はサイトをあれこれ操作してみるとともに、サイト上に投稿されていたサイトの評価システムを確認した。

 私が使用したサイトは前世で憧れでもあったDENGEKI大賞とリンクしている小説投稿サイト、コウヨム。

 そこに投稿した時の読者反応は多岐に渡るらしい。


 PV。

 これは単純に自分の投稿作品が何回アクセスされたか。つまりどれだけの読者が来てくれたかだ。

 ☆。

 これは読んだ人が付けてくれる評価だ。私も前世でお世話になった某大手ネット通販サイトの商品の☆評価と似てるかも。

 フォロー。

 作品を文字通りフォローすること。作品が更新されたときにわかるようになるので、その作品を継続して読もうとしてくれている人の数とも言えるし、ちょっと違うけれど本にしおりを挟んでくれているようなイメージかもしれない。

 応援コメント。

 これは読者が読んだ感想。ファンレターより短いかもしれないけれど、その分お手軽にもらえそう。

 レビュー。

 文字通り作品の批評だけれど、基本的に作品を応援してくれるものだ。読者がこれを書いてくれると、サイト利用者はこのレビューをもとに作品を読んでくれたりする。


 以上は作品への反応だけれど、これと別にフォロワーなんてものもある。

 これは作品のファンじゃなくて、その作者のファンだ。作者が作品を投稿した時にわかるようになる。作家買いしてくれるファンみたいなものかもしれない。


 ……うん。わかったけれど、覚えることが多い。頭と目がどっと疲れた。


 いいや。細かいことは使いながら覚えていこう。

 私は家電を使ったり、ゲームをする時、説明書を読まないでとりあえずやってみる派だ。ゲームなんて楽しいことをするのに楽しくない勉強からなんて始めたくないし、大抵のことはやってみればなんとかなる。


 ということで、私はとりあえず投稿をしていってみることにした。

 あ、凄い! PVが伸びてる! 無名な私の作品でも読んでくれてる人がいるんだ! 嬉しいっ!


 応援コメントが来た!

 優しい雰囲気が素敵です。

 嬉しいありがとう!


 キャー、ネット投稿いいじゃん、いいじゃん!

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