第7話 ギャング
「それこそ価値のあるものなら取引とかは出来るかもね。まー、手に入れてから考えればいいでしょ。ミツハが欲しがったらその時点で持ち出せないと思った方がいいだろうし、ふぁ」
リリスは欠伸をした。
「……」
確かにその通りだ。
「あー、あと日没まで身体休めときなよ? こっから東京市まで夜の間に四時間ぐらいは歩かないと、だから……」
リリスは横になった。
「東京市って」
見るともう眠っている。地べたでも構わず、慣れたものという感じだ。私を見張るはずじゃなかったのかと思うが、事情を説明されれば逃げ出すことを考えること自体がおかしい。
私たちは無力な人間なのだ。
妖怪?
「河童、とか?」
あまり具体的なイメージがなかった。
服が乾くまであの妖怪混じりの少年がやったように壁の木を剥がして焚き火を維持しながら、パチパチと爆ぜる音を聞き、膝を抱えて目を閉じる。意識していなかった疲労は静かに私を飲み込んでいった。
「出るよ。マコト」
「ん、ええ。はい」
起こされるまでしっかり眠った。
「悪いな、ちょっと遅くなった」
焚き火は消されていたが、ミツハは松明を掲げていた。リリスがその頭に包帯を巻いている。見ると血が滲んでいた。
「怪我を?」
「鬼が出たんだ。あいつらオレを見るとすぐケンカを売ってくる。追い返してやったけどな」
なんか胸を張っていた。
「はいはい。じっとしてて」
リリスも呆れているだけのようだ。
重傷、という訳ではないのかもしれない。
「おに……って角があって赤い?」
メジャーな妖怪はいないって話じゃ。
「それは天狗じゃないか?」
「天狗もいるの?」
どメジャーなんじゃ。
「自称鬼に、自称天狗。マコトが知ってるイメージとは違うよ。だいたい社会生活が営めない乱暴者ってだけ、ギャングみたいなもの」
「そう、なんだ」
勝手に名乗ってるってことなのか。
自分がなんの妖怪かわからないとなれば、適当にカッコいい? ものになったりするものかもしれない。軍でも男たちは変なところでカッコよさを競ってた。古い米軍のブーツを履くとか。
「はい。いいよ」
「なんか仲良くなったんだな、二人は」
包帯を金髪で隠しながらミツハは言う。
「現実を教えてあげただけ、東京からはもう出られないよって。マコトは冷静すぎるけど」
「ははっ。リリスがそれ知ったときはすっげぇ泣いたもんな。三日三晩? おかあさんだの、ものは投げるわ、食べては吐くわ……」
「やめて」
ガツン!
担いでいたライフルで頭を叩いた。
いい音がした。
「怖いだろ?」
ミツハは特に動じず、笑って言う。
「最初は東京に馴染めなくて苦労したのに、最近じゃ鬼のやつらから姐さんとか呼ばれてるんだぜ? 一回、誘拐されそうになったけど、リーダーの金玉をスナイプしたんだ。そのときリリスはなんて言ったと思う?」
殺伐とした話をほのぼのと語ってくる。
「なんて?」
反応に困る話題だが。
「……」
リリスは黙っている。
「言えって」
「……言わないから」
なんか赤面していた。
「リリスのキメ台詞はこうだ『たまたま』。金玉撃ち抜いてたまたま。くっ、カッケぇえ。くっくふっ、ふふふ。姐さんカッケぇえっす」
自分で言いながら思いっきり笑っている。
「……」
面白い? そんなに?
撃ち抜かれた鬼の人は無事なの?
誘拐犯なら心配しなくてもいいの?
「もー! バカ! 時間ないんだからさっさと行くよ! ミツハいないとあたしたち市内に入れないんだから。そのネタも何回目? 飲み屋に行くたびに色んな人に喋ってさ?」
憤慨しながらリリスは歩き出す。
「玉抜きリリスの異名を゛っ゛ぐ」
かかと落としが決まっていた。
「脚長い……」
私はちょっと見惚れた。
見事な振り上げと振り下ろし。
「それ以上言ったら、どたま撃ち抜く!」
ライフルがミツハの頭に向けられる。
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