第3話 女神のお手伝い
「ちょっと悠久、後1つで武器強化の素材が集まるから周回に付き合いなさい」
と言ってヴェルサロアはポータブルゲーム機を起動させる。
「ああ、ヴェルか。今日の分の課題はどうしたんだ?
確か文明を育てて規定の信仰値を貯めるってやつだったろ?」
「設定するだけして後は文明が育つまで待つだけだからしばらくやることないわ」
悠久が問うと、返ってきたのは随分と慣れた返事であった。
「ならいいか…で、どこを周回するんだ?」
いつの間にか天界にも慣れ、庭でゴロゴロしていた悠久はそう言ってゲーム機を取り出す。
実は課題に難航するヴェルサロアにゲーム制作で培った知識を教えた時、よくわからないから実際にやってみたほうがいいわねと言って悠久の記憶からゲーム機とソフトを具現化してしまったのだ。そして見事にはまった。
今ではゲームだけでなく漫画やラノベなども具現化しており、そこから学んだ知識を元に課題に取り組んでいる。それらを学んでからは悠久が手伝わなくても順調に課題を達成していっているため、良い教材にはなっているようだ。
もっとも、単純な反復作業だったりスキルや素材などの種類の多いデータ設定だったりは今でも苦手なようで悠久の手伝いが必要なままだ。
そんな日々を過ごしていたある日、遂にその時がやってきた。
「やったわ!これで遂に全課題達成よ!」
ヴェルサロアが喜びを露わにして言う。
「ようやくか……ここまで長かったな」
今までの日々を思い出しているのか悠久が感慨深そうに呟いた。それもそのはずで、既に時間感覚は狂っているためどのくらいかは覚えていないが、練習用空間で人生何回分もの時間を過ごしているのだ。途中もう別に転生とかしなくていいかなと思う事すらあった程だ。
「それじゃあ早速試験を受けて許可を取ってくるわね!
悠久にもスキルとか魔物とか手伝ってもらうから考えときなさい」
ヴェルサロアはそう言って何処かへ出かけて行った。おそらく他の神に報告しにいったのだろう。
ついこの間もヴェルサロアに先輩と呼ばれていた女神が遊びに来ていたのでその神かもしれない。
その際には悠久と軽く話をしてやけに驚いていたが、その後すぐ元に戻っていたので誰も突っ込まず、その理由は不明である。
(当初の念願だった転生をする世界だしな、楽しめるように本気で考えるか!)
そう考えているとヴェルサロアが帰ってきた。
「許可が下りたわ!早速世界を作りにかかりましょうか。
あ、でも転生先の世界が全部わかってても面白くないだろうし、私の知らないシステムが有っても管理に困るだけだからシステム関係は私がやるわ。私も後で追加するけどスキルと魔物のリスト作成だけやってちょうだい」
「あいよ、了解だ」
それからは世界生成の日々が始まった。
大体の生成が終わったころ、ようやくヴェルサロアから転生についての説明が始まる。
「後は軌道修正をしながら文明が育つのを待つだけになったし、そろそろ転生について説明しておこうかしら。
まず、あなたの種族はランダムよ。既にある肉体に憑依させるパターンだとチートつけるのも面倒になるし、私が一から肉体を作るんだけどあらかじめ分かってるのもつまらないしね。
それで、人里離れたところで突然赤ん坊が現れる感じで転生する事になるわ。もちろん両親はいない状態でね。
そしてある程度の年齢…多分5歳くらいかしらね、そこで記憶が戻るように設定してあるわ。
あ、そう言えば向こうでの名前はどうするの?」
「おい、それって状況によっては転生直後で詰まないか?
というかそもそも記憶が戻るまで生存出来る気がしないんだが?」
ヴェルサロアからの説明を聞いて悠久は思わずツッコんでしまう。
「大丈夫よ。流石にそうならないよう手は回しておくし、転生してからも出来る範囲内でサポートはするわ。
まあそのせいもあって確実に周囲に誰もいない環境に転生させる必要が出てきたのだけれど。
そうそう、向こうのシステムとか知識は向こうで教えるからね。転生後の楽しみにしておきなさい」
「お前な…はぁ…
…名前だったな、ならユリスにしておいてくれ」
悠久は説明を聞いてどことなく不安な気分になったが、楽しそうに言うヴェルサロアを見てまあいいかと許してしまう。
ちなみにユリスという名前は悠久がゲームをする時にいつも主人公につける名前だ。
「あなたいつもその名前ね…まあいいわ、その名前で設定しておくわね。
さて、そろそろ私もスキルを考えようかしら。
にしてもさっき見て思ったんだけど、あなたにしては随分と無難なスキルばかりだし種類も少なかったじゃない?
何か問題でもあった?」
「いやまあ、実際の世界だと同じような効果のスキルが多くあっても混乱するだけだしな…」
(スキルの習得条件もわからない状態なんだ。もし転生時にランダムで決まったスキルを一生使って生きていくなんてシステムだったとしたら、いつもみたいにネタや無駄満載のスキルを入れたら大惨事になるに決まってる。
まあそんな事言ったら、絶対こいつは面白がって追加しまくるに決まってるから言わないがな)
ヴェルサロアの質問に内心ギクっとしながらも、平静を装って答える。
だが長らく一緒に暮らしてきたヴェルサロアにはバレバレなようで、笑いながら言われる。
「ふふ、安心しなさい。
詳しい内容は説明しないけど、スキルはある程度好きなものを選べるわ。しかも後で自由にスキルを付け替える方法もあるしね。
ただユニークスキルみたいに一生固定のものも作る予定だから、出来るだけたくさん考えてちょうだい。名前被りは困るけど効果の方はほぼ同じ物でも変な物でも何でもいいわよ?そっちの方が面白いし。
どのタイプにするかは私のリストと合わせてから振り分けるわ」
「お、そうなのか。ならもっと増やすことにしよう」
(なら、前に考えたはいいけど没にしたネタスキルを全部入れてやろう。ただそれだけだとカオスなことになるからちゃんとしたのも入れておかないとな。
アーツ系も1つのスキルとして作っておくか。でも、強制的に体が動かされるのは嫌だし、それは無しで倍率補正だけにするか。あ、でも構えとか軌道の指定とかの条件はつけておこうかな…?)
ヴェルサロアの言葉を聞いた悠久は手のひらを返すようにして作業に取り掛かる。
それからはちょくちょくヴェルサロアが何処かへ消えていくのを見かけることもあったが、神の仕事が何かあるのだろうと特に気にも留めず、思いつくままにスキルを追加していくのであった。
そしてしばらくして……
遂に、ヴェルサロアから文明がある程度育ったので転生の準備ができたとの報告があった。
(いよいよだな…なんか緊張するな)
待ち続けた転生に期待と不安が入り混じったような面持ちでヴェルサロアと初めて会った場所へ行く。
「それじゃあ転生させるけど、心の準備はいいかしら?」
「ああ、大丈夫だ。
ヴェル……初めは無茶言って悪かったな。それにお前の手伝い、結構楽しかったよ」
誰かと長い期間一緒に暮らしたことなど幼少期の数年間以来で、前の世界では30歳になるまでずっと1人で生きてきた悠久。どれだけ長い時を過ごしてもその1人だった頃の記憶が色褪せることはなかった。
そのせいかヴェルサロアとの別れを目前にしてつい本音が口から出てしまった。
「そう?それならよかったわ。
でもまだまだ手伝ってもらうわよ。ようやく駆け出しになれたってだけで一人前には全然届いてないんだから。作った世界にもちょっと問題が起きちゃったしね。
まあ、約束したサポートはしっかりしてあげるからまた向こうで会いましょ」
そう言った直後に悠久の転生が始まる。
「…ん?まだ?向こうで?
しかも問題って一体どういう…」
ヴェルサロアの言葉に疑問を感じた悠久だったが、問いかける間も無く転生が完了してしまう。
「それじゃあ良い異世界人生を。
いってらっしゃーい!」
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