真剣勝負

鈴木まる

第1話 きつねとたぬき

 きつねのこん助とたぬきのぽん太はにらみ合う。


「今日はぼくからいくよ!」

「のぞむところだ!」


ぽん太の気合の入った声に、こん助が怒鳴るように返事をする。ぽん太はサッと木の葉を取り出すと、額の上に置いた。


どろんっ!


音ともに煙がもくもくと立ち込めた。しばらくして煙が消えるとそこにはもうぽん太の姿はない。


「すぐに見つけてやる!」


こん助はぎらりと目を光らせる。秋の森には様々な物がある。落ち葉、栗、松ぼっくり、どんぐり、そして…


「あ、このきのこでしょ!」


ぽんっと軽い音を立てて、こん助の指差したきのこはぽん太に変わった。きのこには、ぽん太の目の周りの模様と同じように黒い帯があったのだ。


「ぬうぅ…ばれちゃったか。今度はこん助の番だぞ!」


悔しがるぽん太に、ニヤリと笑みを返してこん助は木の葉を額に乗せた。今回の勝負に勝てば、こん助の勝ち越しだ。負ける訳にはいかない。


どろんっ!


ぽん太は黒く縁取られた目を真ん丸にして、秋の山を観察する。制限時間の3分以内に、変化したこん助を見つけなくてはいけない。必ずここから見える場所にいるのだ。集中、集中…。


「あ、この紅葉でしょ!」


ぽんっ!


「なんでわかったんだよー!」


こん助は悔しくて地団駄を踏んだ。こんなに沢山ある紅葉の中から見つかってしまうなんて、納得できない。


「こん助の毛の色とそっくりだったんだよ。というか、もう、そのまんま!」


ぽん太はそう言って、ケラケラと笑った。こん助はぎりりと歯を食いしばった。


「たぬきなんかに見抜かれるなんて…!」


 こん助とぽん太はかれこれ1年ほど、この化かし合い勝負を続けている。実力は拮抗しており、どちらかがずっと勝ち続けることはなかった。


きつねとたぬきは、昔は仲が悪かった。しかし、最近では縄張りが安定し、争いはなかった。お互い特に干渉することもなく、ごくごく平和に過ごしていた。


とは言え、会っているとなるとお互いの種族はいい顔はしないだろう。2匹は仲間には内緒で、この化かし合い勝負を続けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る