殺意高め、愛情高めな彼女が出来ました

桜坂 はる

殺意高め、愛情高めな彼女が出来ました

 俺、戸田とだ尚文なおふみの彼女はちょっと特殊だ。別に全身金属製のアンドロイドタイプな訳でもなければ、特殊能力者な訳でもない。ただ、愛情に殺意がこもっているだけなのだ。


「あ、尚文君。おはようございます」


 そんなことを考えていると、先輩の姿が遠くに見えた。早川はやかわ千里ちさと、早川グループの長女で成績優秀、品行方正である生粋の優等生だ。成績は中の上、特に目立った実績もない俺とは釣り合うはずがない。まあ、先輩にこれまで彼氏が出来なかったのはのせいなのだろうが……。


「尚文君、今日は早いですね。何かあったんですか?」

「え、だって今日は先輩、生徒会の用事ですよね?」


 確か昨日の帰り道で『明日は生徒会の仕事があるんです!』って言っていた記憶があったんだけど……。


「もう、そういうところ……ずるいです」

「え、何がですか? 」

「べ、べべ別に何でもないです!」


 先輩は頬を染めると明後日の方向を向いてしまった。なんか、その仕草可愛いな。


「それにしても、先輩と一緒に歩く距離短いんですよね」

「まあ、高校の最寄り駅ですしね。もっと一緒に歩いていたい気持ちはあるのですが……」


 先輩とは、高校の最寄り駅で待ち合わせしている。非常に残念ながら先輩と俺の家は高校を挟んで反対側にあるのだ。


「尚文君、肩に埃が付いてますよ。私が払ってあげます! 」

「大丈夫ですよ。これぐらい」

「いいえ、衣服の乱れは心の乱れ。決して疎かにしてはいけないんです! 」


 そう言う先輩に押し切られるように壁際に追いやられる。こ、この体勢は所謂壁ドンというやつなのでは⁉︎ などとドキドキする反面、俺はこれから襲い掛かるであろうでもドキドキしていた。


「ふふ、隙ありです」


 先輩は不敵な笑みを浮かべると右手で袖に隠していたペーパーナイフを俺の頸動脈にそっと当てようとする。本当にいつも通りの展開だ。俺はナイフが首に当たるかすれすれのラインで先輩の手首を掴む。ああ、これで朝の暗殺体験は終了……などと思っていた刹那、先輩はナイフをから手を離すと左手でキャッチし、喉元に滑り込ませようと動く。想定外の動きに俺は反射的にナイフを蹴り飛ばしてしまった。


「あーあ、今日も失敗してしまいましたね」

「先輩、いつものように周りがドン引きしてますよ」


 ナイフが頭上を通過していった女性なんか涙目で崩れ込んでいる。駅のホームは人が多いからより危険だ。


「確かに今回はやり過ぎました、あはは……」


 流石の先輩も額に汗が浮いていた。言い訳をするなら別に先輩は異常なわけでは無い……と思いたい。先輩が言うに幼い頃に家の方針で習った近接格闘術にハマった結果、感情が昂ると反射的に攻撃してしまうようなのだ。決して、性癖の為に俺を攻撃してるわけでは無い……うん、きっと。


「今日のナイフは前回よりやや形状を長めに造らせたので当たると思ったのですが……」


 前言撤回。やっぱり先輩は異常性癖の持ち主なのかもしれない。


「な、何ですか? 私の事を殺人衝動のある危険人物のように見る視線は」

「あ、自覚あったんだ」


 言ってしまった。というか、本当に自覚あったんだ。


「尚文君、私はそこまで危険な人間じゃないんですよ」

「いや、危険か危険じゃないかで判別したら、危険人物だと思いますよ」


 ダメだ。いつもより早起きしたせいか、思ったことがすぐ言葉に出てしまう。早起きは三文の徳、なんて言葉はあるけど今回に限っては三文の罪だ。


「うふふ、それでも私が愛情も殺意も全部の感情を向けるのは尚文君だけなんですよ」


 そう言って、にっこりと微笑む先輩は美しかった。そう思ってしまうあたり、俺もだいぶ毒されて来たのかもしれない。


「あはは、そうですね。まあ、俺が死なないように手加減して下さいね」


 それだけ言うと、俺は先輩のところに駆け寄った。まあ、この先命の危険は色々起こるかもしれない。いや、十中八九起こるだろう。でも、大丈夫。きっと2人で……ん?やっぱ俺1人かもしれない。乗り越えていけるだろう。

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