第7話 魔猫の主 聖女 クリシア
倒れるシャルの背後に現れたのは、聖女 クリシアだった。それまで、狂乱したシャルに恐れをなし逃げ惑う兵士や民は、ほっとした表情になり、いつしか歓声と拍手が沸き起こっていた。
「拍手は、やめて」
クリシアは、口元に優しい微笑みを浮かべると、背後から光の矢を受けて倒れたシャルの顔を覗き込んだ。
「困ったわね」
深くため息をつく。
「何が、困ったのです?」
足元にいる魔猫が、聖女の顔を見上げる。
「地這いの兄弟を追いかけてきたけど、どうも、この子が絡んでいる様なの」
「なかなかの魔女の様ですよ」
「魔女なのか、そうでないのか、わからないけど、とても、深すぎて、私の手に負えないかも」
クリシアは、光の輪で、シャルの体を拘束した。
「どうして、この地にいるのかしら?」
魔猫は、そっと鼻先を、シャルに押し当てる。
「どこから来たんですかね」
「地の果てよ。東の国」
クリシアは、周りの兵士達を見渡し、一人の男性に光の綱の端を渡す。
「しばらくは、眠っていて起きないわ。可能であれば、なるべく東に進み、彼女を置いて来なさい。次の新月に光の輪は解けてしまう。」
「任せるのですか?」
「私達は、急いで、行く所があるの。やむを得ず、関わってしまったけど」
クリシアは、あまり、関わりたくない様だった。
「もう少しで、私のお役目は、終わるわ。その前に、もう一つだけ、最後のお役目を終えないと」
「早く、お役目を終えて、砂漠の故郷に帰りましょう」
「そうね」
クリシアは、魔猫と一緒にその場を立ち去ろうとした。
「待って・・・」
掠れたような声が耳に届いた。
「待って」
今度は、はっきりと聞こえる。
「置いていくな」
声は、倒れているシャルからだった。
「え?起きてしまった?」
見ると、目は閉じたまま、口元だけが動いている。
「縄を解け」
「ごめんなさい。ここで、解く訳にはいかないの」
シャルは、睡魔に襲われる中、必死に、起きようとしている。だが、クリシアの力の方が強いのか、何度も、意識を失いそうになる。
「私を離せ」
「ごめんなさい。行くわよ。魔猫」
クリシアは、魔猫に声をかけ、急いで、立ち去った。何かが、気になり、魔猫は、何度も、振り返った。光の輪に拘束されたシャルの姿が、兵士達に囲まれ、見えなくなった時に、大きな悲鳴と人々のどよめきが広がっていった。
「何?」
小高い丘の上で、クリシアと魔猫が、見下ろすとバラバラになったシャルの体を、剣に刺し、天へと差し出す兵士達の姿が目に入った。
「狂っている・・・」
クリシアは、呟くと、首を振り、魔猫をせき立て、足早い立ち去っていった。
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