第1話 あの子の正体


 俺、立川怜たちかわれい。高校二年生。平凡でどこにでもいる男子高生だ。

 彼女はいない。モテるような要素はなく今まで女の子と言葉を交わしたことすらまともにない。何もかもが普通なのだ。

 しかし、そんな俺だが、実は童○を卒業している。それはどういうことかって? それは勿論あれだ。そんな相手がいる。行為だけの相手が。


「……ん、しょっと!」


 俺の目の前で○から服に着替える美少女。茶髪のボブヘアーで凛としたスタイル。化粧なんかしなくても整っており、可愛い顔をしている。

そして胸は爆乳とまではいかないが、大きくも小さくもない絶妙な膨らみ加減をしている。女性らしい丸みを帯びている。ザッと見たところBかCカップだろうか。そんな美少女を俺はあろうことかセ○レ相手としている。

奇妙な関係になってしまった俺たちはその関係を継続している。

それはこれからも続くのか、ある日突然終わってしまうのか。それは分からない。そんな危ない橋がある中で成立している関係だった。


「フゥ。たっちー。今日もありがとう。またムラッとしたら連絡するから」


「あぁ、うん……。こちらこそありがとう」


 相手はハッキリとした口調で話すのだが、俺はどこかぎこちないところは捨てきらない。何と言っても女の子とまともに会話をしたことがないのだから。


「そうだ。次から半分でいいよ」


「半分って?」


「お金。もう十回目だし、毎回正規の金額だとたっちーの懐の負担が大きいでしょ?」


「まぁ、こちらとしては凄く助かるけど。本当にいいのか?」


「ふふ。もう少し回数を重ねたら……タダでもいいよ」


 ボソッと彼女は内緒話のように言う。


「本当に?」と、俺は思わず声が高まる。


「うん。それくらいたっちーには信用をしているってこと。つまり今の段階で半分は信用できたってことだよ」


「そっか。じゃ、もう半分はまだ信用が足りないってことか」


「そういうこと。でも落ち込むことじゃないよ。女の子が身体を許す相手って相当な覚悟がいるから。その中でも半分も信用してもらえているってことは凄いことなんだよ?」


「まぁ、前向きに受け止めておくよ」


 完全に信用されるのはまだ先ってことは仕方がないとして可能性はある。

 これは大きな進展なのではないだろうか。


「じゃ、いつものように私から先に出るね。たっちーは私が部屋から出て十分後くらいに出てくれる?」


「あぁ、分かった。気をつけて」


「うん。ありがとう。じゃ、またね」


 そう言って彼女は笑顔で部屋を出た。

 部屋に一人で取り残された俺はすぐに行動に出た。


「よし。行くか」


 俺は十分という時間差を待たず、すぐに部屋を出た。

 彼女はどこに? ラブ○を出て周囲を見渡し、先ほど同じ部屋を出た彼女を探す。


「居た!」


 左の角を歩く彼女を見つけた俺はすぐその後を追う。

 今日こそ彼女の素性を知ってやる。

 そう、意気込む俺はセ○レである彼女について何一つ知らないのだ。

 名前、年齢、住所、趣味、特技、通っている学校、家族構成などなど。

 知り合いであれば知っていて当然の内容を何一つ知らない。

 知っていると言えば彼女の性事情くらいだろうか。

 これは彼女に限った話ではなく彼女も同様に俺のことについて何一つ知り合いであれば知っているような内容を知らないのだ。

 向こうは俺のことをたっちーと呼び、俺は彼女のことを『かのん』と呼んでいた。

 俺は苗字からもじった呼び方だが、彼女は俺が『立川』という苗字を知らない。

 彼女も自分のことは『かのん』と名乗っているが、それが本名なのか偽名なのか俺には分からない。

 だが、本名で『かのん』ってあんまり見かけないのでおそらく偽名だと思う。

 そんなことからお互いのことを知らなすぎる関係という奇妙なものだった。

 まぁ、セ○レの関係上、何も知らない方が何かと都合がいいのかもしれない。

 だが、俺としてはもう少し彼女の情報を知りたいと願望が出ていた。

 そんな訳で俺はコトが終わった後の彼女のあとを尾行しようとしていた。

 やっていることはストーカーと変わらないのだが、何か少しでも情報を知ってもいいのではないかと自分の甘い考えでこうしてあとを付けている訳だ。


「どこかに入ったな」


 かのんが入った先を見ると本屋である。

 俺も同じように店内に入って彼女と絶妙な距離を保つ。


(漫画や小説でも買うのかな? そういう趣味があると知れるだけでも大きな情報なのだが)


 かのんは娯楽用の漫画や小説コーナーを素通りしてあるコーナーで立ち止まった。

 そこは難しい本が並ぶ資格や参考書の棚であった。


「んー。お! あった」


 かのんが手にした本は何かの資格本である。

 それを何冊かパラパラめくり見定めているようである。


(かのんが何歳か知らないけど、多分俺と歳は変わらないはず。その歳から資格の勉強って意識高すぎだろ。俺なんて学校の勉強だけでも手一杯なのに)


 そんな妄想を膨らませている中、気に入った本があったのか、かのんは数冊の資格本を手に持ってレジに向かった。

 何の資格だろうか。場所が遠くてハッキリと見えなかった。

 レジで会計をするかのんから遠く離れた場所で俺は直視していた。

 会計を済ませたかのんが去った後、俺はかのんがレジ横で捨てたレシートを掴み取った。


「よく分かる日商簿記過去問?」


 やはり資格の本を買ったことは確かだ。

 俺が渡した金でこんなものを買っていたか。

 いや、渡した後にどう使おうが本人の自由なのだから俺がとやかくいう筋合いはない。少なからず遊びで使われずに感謝するべきではないだろうか。


「てか、こんなことをしている場合ではない。早く追いかけないと。見失う前に」


 俺は本屋から出て行ったセ○レ相手を追いかけるために走った。

 

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

諦めが悪いので新作出しました。

★★★よろしくです!

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