世間を知らない異能者は上京して毒味役になりました!
@fuku1022
エピローグ2
そんな青藍の人生を大きく変えた小さな出来事は人々への奉仕活動が九年目を迎えた早朝に起こった。
「行ってきます」
私は一人誰もいない寂しげなあばら屋に向かって出発の挨拶を告げる。
九年間過ごしているあばら屋も時が経ったからといって何かが変わるわけでもなく、相変わらず家具のひとつもない。
唯一変わったのは、自炊をするようになり必要最低限の調理器具が台所に置かれるようになったことだろうか。
しかし振り返ると、この小さな空間数々の思い出が鮮明に蘇ってくる。
誰からも愛されない苦しみに打ちひしがれる自分
そんな自分を変えたくて村の人々と関わろうと意気込む自分
村の子供たちと遊んで打ち解けていく自分
たくさんの思い出たちがまるで気泡のように青藍の胸を満たしていく。
決して全てが楽しい思い出だったわけではない。
しかし、それらの経験の一つ一つが確実に青藍を強く、凛々しい女性へと成長させてくれたのだ。
「よし!」
思い出に浸っていたら、ついぼーっとしてしまった。
こうしては居られまいと、しっかりと箒を持ち直し掃き掃除へと向かう。
辺りを山に囲まれた盆地にあるこの村はもう六時台だというのにまだ陽が昇っていない。
おかげで人々の行動開始時刻も遅く、村は静まりかえっている。
おそらく皆まだ眠っているのだろう。
落ち葉がある程度溜まっている場所にたどり着いた青藍は掃き掃除を開始する。
さっさっと落ち葉をかき集めるとそれらはあっという間に膝くらいの高さもある小さな山となった。
こうして落ち葉の山を膨らませていくのは妙に達成感があったが、あと二時間もすれば遊びに出てきた子供たちによってあっけなく蹴散らされてしまうのだろう。
そうこう考えながら、まだ集めていない落ち葉に視線を注ぐと焦茶色の葉の中に一枚だけ白いものがあるのを発見した。
「何これ、珍しいなぁ」
不思議に思いながらも興味を駆られた青藍は白い物体を指で拾い上げる。
見てみるとそれは一枚の紙が丸められたものであることがわかった。
この紙には一体何が書かれているのか、という分からないものへの好奇心と期待が青藍の鼓動を早くさせた。
紙を破いてしまわないように丁寧に広げる。
そこに書かれていたのは、とある職への求人広告だった。
急募(求人広告)
帝都の中宮家(本家)にて、二月三日に
毒味役の募集を行う。
毒味役は住み込みで働くこととなる。
詳細は現地にて。
と書かれている。
これは何かの運命なのではないか。
そんな考えが青藍の頭の中をよぎった。
なにしろ、落ち葉は木で何かを拾ったことなど九年間の中でこれが初めてなのだ。
それにこの村で今のままの生活をしていくのは厳しい。
村の人々は毎朝近くの市場まで山を越えて働きに出かける。
それは何より大変そうだ。
しかし、ここで働いてしまえばそんな心配はいらない。
青藍の心は決まった。
これは九年間の私の努力の末に神様が与えてくださったチャンスなのだと信じて。
「決めた。私、ここで働く!」
こうして青藍の人生は大きくうごきだしたのだった。
これから先、彼女はさまざまな人たちと出会い、悲喜交々しながら幸せを見つけていく。
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