第17話 11:19 a.m. comfortable breeze

そして私たちは、彼女の言葉を待った。少女は、薄く閉じた目で、斜めに身体を捻り、木製のトランクを見ていた。それは奇妙な感情のうねりをもって、場が踊るように空気感が波打っていた。爽やかな風が、ここに届いた。少女はこちらを見た。まだ自我の目覚めていない、眠たげな少年のように、しかし、ハッとするほど美しい顔つき。


「私たちにはもちろん親がいて、だからこそここに生まれました」


はっきりと発音される言葉は、もはや目覚めたもので、一瞬前のまどろみの不安定さはなんだったかと思わせる。


少女は腕を前に差し伸ばした。緩く斜めにされた手のひらを天に向けて、まるで貴紳に手を預けるように。


「そしてこの宇宙が、ない状態から、ある状態に生まれたことは、そこに神さまという親の存在を思うのです」


散歩をしている人のリールに繋がれた大きな犬が、激しく吠えた。まるでその犬がメフェストフェレスの変化へんげで、神の安寧の手から遠ざけるために、人間を脅かすように。


手は胸元に置かれて、伸ばされた指が、少女の皺ひとつない淡いイエローのブラウスにいくつかの窪みを作る。


「ならば、そこに親の願いがあったのではないかと。この宇宙は、地球は、わたしたちは、祝福されて生まれてきたのだと……」


そして両手を後ろ腰に回したら、少し悲しそうな顔をする。


「ならば、なぜ死があるのでしょうか? そして、事故死や病死、自殺が? 限りなく愛で満たされた宇宙ならば、悲しみはないはずなのに」


また、先の不安定さが、今度は、目に現れた。そこに深い苦悩の影が潜むように、しかし、少女は首を振る。


「わかりません。わたしたちは、永遠に解けない謎と共にこの世界に存在してるのです。ただ、願わくば愛を。神々こそ我らが導き手であれば」


少女は白いスカートの裾を片手で掴むようにした。うつむき、何か、思うところのあるような、思案気なものうい表情をした。


そして決意の目の強さで顔を上げた。


「わたしは、この目で見たいのです。神さまの、その白い衣装の裾だけでも」


私たちは、しーんっと静まり返った。場に、言いしれない高揚感が満ち満ちていた。神、を求めるもの。この非-現実な祝祭。


「それでは、また、詩を聞いてください」


少女は小さなノートを持ち、背筋を伸ばした。

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