死にたい俺と生きて欲しい君と
アントロ
第1話・面倒くさい彼女
「ゲホッ...カハッ」
便器を掴んだまま項垂れる。今日もまた、いつもと同じ様に吐いてしまう。
「...もう、無理だ」
生きる事など。
「何になる?」
近くのホームセンターまで歩く。死ぬには似合わない程、雲一つない青空。今日は休日なので、横の公園で親子が楽しそうに遊んでいる。幸せそうだ。
この辺りでは一番大きなホームセンター。駐車場だけでも途轍もない広さで、普段から日光を浴びない自分からすれば修羅の道だった。
なんとか入店してロープを買う。レジへ行く。人が多くて息苦しい。
「あれ、君、足立君じゃない?」
「あ...同じクラスの...」
レジでバイトをしていたのは同級生で人気者の綾瀬ナオ。ギャルっぽくて、登校拒否気味になる前から苦手だった。今日もバイトの緑のエプロンを付けているものの、服は短い丈のパーカーワンピ。The.ギャルな服装だった。
「それ...首吊る用だよね。でしょ? ダメだよ~」
「関係ないよ」
ニヤニヤと笑う彼女にそれだけ言って、店を後にした。
「...」
スタスタスタ...。
後ろから足音。
素っ気ない態度で店を出た後も、ナオはしつこく追って来た。
「何...?」
怪訝そうな顔をしても茶髪のポニーテールを弄りながら付いてくる。
「じゃあさ、一週間、生きてみない? 一週間生きて、やっぱり死にたかったら死ぬ事を許可するから」
「...?」
なぜ?
なぜこの関係ない人間に生きる事を強制される?
「ね、いーじゃん、一週間くらい。何ならアタシと良い事、してもいいんだよ?」
「えぇ...いや別に...」
「取り合えず、一週間生きよ~! 死んだら一生恨むぞ~」
それからも、家に着くまでずっとしつこく付きまとって来たので、仕方なく承諾した。
まぁ、たった一週間だ。家で死んだ様に眠っていればすぐに...。
そんな事を思って、昼間から眠ってしまった。
次の朝。少し目が覚めたが、二度寝をしようとする。
「足立君~! 遅刻だよ遅刻~」
「はぁ?」
エナジードリンクの染みがこびりついた、ボロボロの布団から這い出る。二階の自室の窓からそっと外を見ると、家の前から手を振っているブレザー姿のナオがいた。
「開けろ~開けないと怒るぞ~」
そう叫ぶ。近所に丸聞こえなのは絶対に駄目だ。慌ててドアを開けた。
「はぁ? 髪ボサボサ! 折角綺麗な黒髪なのに~。あと掃除してないね。玄関汚いぞ」
「上がりこんできたと思ったらそれって...何なんだよ...」
「まぁ死ななかったのは偉いな。もし死んでたらクラスの皆の前で『死なないでって言ったのに~!』って泣き真似するつもりだったけど」
「うわ」
害悪過ぎる。やっぱりギャルは、女子はこんなのばっかりだ。
怪訝な顔をしている自分にお構い無しにナオは辺りを物色し始める。
遂に二階にまで上がり込み、勝手に自室へ行かれる。押し入れの中に突っ込んでいた筈の学ランも何故か探し出されていた。
つまり押し入れの中を漁ったって事...?
「足立君不健康な生活してるねぇ。エナジードリンク...空き缶まみれ。インスタント麺のカップに...あーんもう! 見てるだけで不健康になりそー」
「じゃあ出ていけばいいのに...」
聞えないよう言ったつもりが、ナオは地獄耳だった。
じとりとこちらを睨んできたのでそっぽを向いて知らんぷり。
後頭部から視線を感じたが絶対に振り向かないからな。
「んもう! 今日は学校休む!」
「えぇ...言ってる事が変わりすぎでは...」
「あんたのせいだからね!? こんなゴミ屋敷このままにできるかい! 片付けするからね!」
「でもうち、掃除機も何もないけど」
「......私の家に高性能のがあるから、持ってきます」
あからさまに呆れ顔をして、掃除道具を取りに家へ帰って行った。
「...えーっと、見られて困る物は...」
エロ本なんかは持っていない。
吐く時はトイレで吐くのでそこは大丈夫。
あー、使ったカッター...錆びまくってるし隠さないと。
それと、風邪薬、睡眠薬、精神安定剤に...。
抗うつ剤、あと、えっと...。
何で
何で
同じ人間なのに、他の人と隠すものが違う?
何で薬ばっかり。
ハサミやカッターだって。
「っう...」
トイレへ駆け込んだ。
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