ガラクタの国のプリンセス~エリートOLからゴミ人形に転生した女

不二川巴人

第1章・第1話 赤い空~プロローグ

 ――人生をやり直したい。

 そんな人って、少なくはないとは思うのよね。

 結論から言うけど、それって割とできるものなのよ。


 これはそういう話。

 因果応報って言葉を痛いほど味わった後の、あたしの不思議な話。


 ――見上げる空が、赤かった。

 おかしいわね? 朝、いつも通りに出勤するためにマンションを出たはずよ? もう夕方なんて、あるはずがないのに?


 そこまで考えて、自分が重大な事実を忘れていたことに気付いた。

 そうだ。さっき、車に轢かれたんだ。

 しかも、故意に向かってきたそれに。


 覚えているのは、運転席に座っていたのが、憤怒に顔を歪めた初老の女だったってこと。

 知らない顔だった。誰かから、殺されるほどの恨みを買ったっけ? 思い当たる節が……


 ……よくよく考えれば、あった。愛人関係にある、専務。きっと、その奥さんだわ。どうやってあたしのことを知ったんだろう? いや、別に不思議でもないか。浮気調査専門の探偵なんか、世の中たくさんいるし。


 はあ……。それにしても、徹底的にやってくれたわね。人をボロ雑巾になるまで轢くって、どれだけよ? 全身から、奇妙に微笑ましいぐらい、出血してる。痛みは、限界を突破したせいなのかなんなのか、感じない。


 どうやら、もうダメみたい。それだけは分かる。賭けてもいいぐらいだわ。

 「弱冠二十八歳にして、都市銀行の課長」って肩書きは持ってるけど、もっとのし上がりたかったなあ。何のために、専務って以外に値打ちが一切ないような、あんなヒヒジジイの女になったのか分かりゃしない。ま、まだ若造と言える歳で課長に抜擢されたのも、専務の口添えあってこそだったし、出世の手段兼ATMとしては、それなりに使えたけど。


 天国とか地獄とかは、特に信じてない。

 ただ、仮にそういうのがあったとしても、別にどっちへ行こうが、どうでもいい。


 出血は、止まったら奇跡ってレベルだった。

 だんだん、意識が混濁していく。

 たとえ一瞬で救急車がここに来ても、絶対に助からない。

 自分の身体のことだもの、自分が一番よく分かるってものよ。


 はあ……も、う……マジで……ダメ、ね……。


 もっと……偉くなって……

 大勢を……あごで使えるように……

 なり……たかった……なあ…………


 ああ、ほんとうに、空が赤い、わ……。


 ……その赤い空がにじんでいき、世界が暗転した。

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