悪役令嬢のアドバイザー ~悪役令嬢はアドバイスをもらって破滅の未来を回避します!!~

タカナシ

アドバイス1 アヌラ・プルトーネ

 ドンドンドンドンドン!!


 木製のドアが小気味良くとはかけ離れた必死さを醸し出す程のノックを受ける。


 ドンドンドンドン!!


「先生っ! いらっしゃいますのでしょう? 開けてくださいましっ! 開けないようでしたら、この公爵令嬢、アヌラ・プルトーネが実力行使させていただきますわ!」


 甲高い声に急かされ、その部屋の主はドアを開けた。


「も、もうひはけございましぇん申し訳ございません。うぐっ、んん」


 部屋の主、テスタ・ビランチャは口いっぱいに頬張っていたスコーンを紅茶で流し込みながらアヌラを出迎えた。


「申し訳ございません。ちょっと遅い朝食を取っていまして、お嬢様の前でお見苦しいお姿を見せないよう全力で飲み込もうとしていたんですが、えへへ」


 なかなかドアを開けなかった理由を説明しつつ、テスタは妙齢の女性にしては手入れの行き届いていない髪越しに頭を掻いた。


「それくらいで、このわたくしが気分を害するとでも。急な来訪はこちらに責があります。ですが、居るのに返事もせず出て来ないのは少し失礼ではなくて? そもそも先生も淑女たるもの、一度にものを頬張るのはどうかと思いますわって、違いますわっ!!」


 アヌラは急に壁に頭を打ち付ける。

 目の前で眉目秀麗、才色兼備、ザ・お嬢様オブお嬢様と言っても過言ではない、公爵令嬢が急な奇行に走り、彼女よりいくらか年上のテスタであっても、その行動に驚きを隠せず思わず大声をあげてしまう。


「アヌラさん。どうしたんですかっ!?」


 アヌラは手でテスタを制し、奇行の代償として乱れた金髪縦ロールを整える。


「申し訳ありませんでしたわ。少々悪癖が出てしまいまして。今日はそのことで先生にお伺いをたてに参りましたわ」


 何事もなかったかのように凛と立つその姿に、テスタは今の一連の時間は白昼夢か何かではなかったかと疑うほどで、しばらく呆けていたが、目の前に自身よりはるかに爵位が高い令嬢を立たせているという事実に気づき、急いで椅子を薦めた。


「あ、アヌラさん。椅子にどうぞ。それと粗茶ですが、紅茶も」


 優雅な動作とは一ミリも言えない手つきで椅子を薦め、紅茶を用意する。

 そして、自身も椅子に座ると、目の前のテーブルに置かれた資料という名の紙束をどかす。


「す、すみません。片付いていなくて、普段は私のところに好き好んで来る生徒はいないもので、えへへ」


 照れ笑いを浮かべるテスタは、ここ王立魔法学園の教員で、召喚魔法の講義にて教鞭を振るっている。だが、彼女の講義は高度過ぎてついて来られるものが学園でも一握りしかおらず、授業はいつも数人しか受講していない為、ここを訪れる生徒は皆無といってよかった。

 

「余計なことかもしれませんが、先生、素体は良いのですからそんなおかっぱヘアーや瓶底メガネを止めて、身綺麗になされば婚約の申し出の1つや2つあるのではなくって?」


「えー、本当ですか? えへへ。それなら、アヌラさんのお悩みが解決したら、気を配ってみます。それでこんなところにどのようなご用件で?」


 髪を手ぐしで整えながらテスタはわざわざ公爵令嬢が訪れた用件を伺う。


「実は、先生の実力を見込んでお願いがあるのですっ!! どうか、わたくしの破滅の運命を変えてください!!」


「破滅の運命ですか? なぜ、そうなるとお思いで?」


 ぼぉーとしている印象が強いテスタだったが、興味深い話にメガネの奥の瞳が光る。

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