第5話 寝たら判断力が戻ってきました

「貴様~! 罪人の癖に我が国の英雄を馬鹿にしおって!」


 ユーダケデス王子が顔を真っ赤にさせながら噛みついてくる。

 そういや、コイツ騎士見習いの時からずっと俺を目の敵にしてたな、女誑しとかなんとか。


「いや、実際馬鹿だろ、コイツ。まあ、アンタの方が馬鹿だろうけどな」

「き、き、貴様~!! おい! お前ら、やれ!」


 後ろの兵士たちが飛び込んできて俺を囲む。


「わた、私は……」

「マシロ! 戦え! 戦うのだ!」

「は、はい……!」


 マシロが瞳を揺らめかせながら立ち上がり、白銀の剣を構える。

 七光の一人と、王子の親衛隊。

 コイツらと一人で戦えるヤツなんてこの国にいやしないだろう。


「俺がこの国から追放されたからな」


 寝て頭がスッキリして分かる。

 何故俺はこの国に従っていたんだろう。

 俺は寝てればこんな奴ら、


「相手じゃない」


 俺は、身体中に魔力を渡らせ構える。


「いよっし! 俺はお前らをぶったおす! ぶったおす! ぶったおすっ!」


 俺がいきなり声を張ったせいか、オウジサマがビビッて後ずさりしてる。


「な、なぜ、三回言う?!」

「大事なことだからだよ!」


 一斉に襲い掛かる親衛隊。


 だが、俺からすれば、遅い。


 突きを躱し、腹に膝。肘で後頭部。両手組んで叩き落す。

 飛んでくる投擲武器。右、左、躱す。

 躱しながら、下で寝ている奴の手足を折る。


 さて。


 右に二人。

 左に一人。

 後方に回ってんのが四人。

 前方、待機が六人。計、残り十三人。

 その奥に、マシロとオウジサマ。


 寝て一番取り戻せたのは判断力だ。

 情報取得、整理、選択。

 これらがちゃんと出来るだけで、全てが大きく変わる。


 だから。


「これでラストだ」


 最初に転がした男を蹴り上げて投擲武器を防ぐ盾にする。

 そして、そのまま当身を食らわせ、投げてきた男に針まみれの男をぶつける。そのまま吹っ飛ばされ壁に叩きつけられた男が十四人目。右に五人、左に二人、後方一人、前方三人、足元二人、天井に突き刺さったの一人。


 残りは、マシロとオウジサマ。


「さて……続けようか」


 俺が歩みを進めると、オウジサマは下がり、マシロがかばうように前に出る。


「止めるか?」

「話を聞かせてくれ」

「もう、遅い」

「何故だ」

「追放は決定だろう? それに……お前以外の七光が俺の仲間を奪った。あのクソ共に何されるか分からん。先を急ぐ」

「駄目だ。それに、あの人たちがそんなことをするはず……」


 お前のそれは盲信だ。判断出来ていない。


「お前の目は曇りがない。故に情報をそのまま受け入れすぎだ。曇りも歪みも選択肢を広げる大事な要素だ」

「五月蠅い! では、私は何のために……! うあああああ! 私は、お前を、止める……『純潔』」


 そう呟いた瞬間、マシロの体に白い軽鎧が浮かび上がる。

 ほとんどの部位を守れていないが、あれは飽くまでイメージだ。

 実際は薄い白い障壁がマシロの身体を包んでいる。


「誰も傷つけることの出来ない……故に『純潔』!」

「くっくっく! そう! 無傷の女騎士! 正に無敵! 対するお前は、傷だらけの汚いゴミ! 勝敗は明らかだ! やってしまえ! マシロ」


 オウジサマがなんか言ってる。アレは判断材料にも値しないな。


「てやああああああ!」


 マシロが白銀の剣を煌めかせながら俺に迫る。


 美しい太刀筋だ。


 故に、読みやすい。


 流れるような連撃を流れるように躱す。


「く……な、なぜ!?」

「教科書通りの攻撃されてもな」

「な! ならあ!」


 無数の突きを放ってくるマシロ。白い刃のカーテンが俺に迫る。


「な、何故……何故! 当たらない!」


 呼吸が途切れ、後方に飛ぶマシロ。


「俺が傷だらけだから回避能力に劣ると思ったか? 残念。この傷は俺が自分でつけた傷だ……眠気をごまかす為にな」

「なああああああん!?」


 今度はオウジサマが鼻水飛ばして驚いている。


 そう、俺の体中にある傷は敵につけられたものではない。

 自分でつけたものだ。


 眠かったから。

 寝たら死ぬから。

 自分で斬って痛みで目を覚ました。


 そういう意味でもちゃんと寝られてよかった。

 もう痛い思いをしなくてすむ。


「傷つく辛さを知れば知るほどやさしくなれる、と吟遊詩人は言っていたがアレは嘘だな」


 俺は目の前の二人の方を向き、嗤う。


「やりかえしたくて冷たくなれるわ」


 マシロの方を向き、拳を握る。


「来るか……攻撃は無意味です!」

「無意味かどうか試してみようぜ。俺は、お前をぶっとばす。絶対にお前をぶっとばす。お前をぶっとばすんだ」

「だから、何故いつも三回言うのです!?」

「大事なことだからだっ……よ!」


 床を蹴り、マシロに飛び掛かる。

 ガードが甘い。いや、障壁で受け止めた瞬間、剣を振り下ろすつもりらしい。


「もらっ……! がへえええええええええええ!」


 諸に腹に一撃を喰らい、壁に叩きつけられるマシロ。

 思いっきり口からナニカを吐き出しながら飛んでいく。

 うずくまる純潔の女神(吐瀉)。


「げ、げえええ……何故?」

「お前な……少しは考えろ。いや、全て、ちゃんと、考えろ」

「げ、げえええ……何故?」

「お前が弱すぎる」

「こ、こんなことが……あるわけが……」

「ないと思うか? じゃあ、もっと強くなって出直せ。話はそれからだ。という訳で、行くぞ。じゃあな、オウジサマ……ん? オウジサマ……?」


 振り向くと一目散に逃げだしているその背中が見える。


「お、王子……!」

「あ~あ、なっさけねえなあ。マシロ、あれがお前の仕えるオウジサマの姿だ」

「ネ、ネズ……! 今、私をマシロ、と……」


 あ、やべ。


「も、もう一度。もう一度呼んでくれないか」

「やなこった。俺はもう仲間以外の言う事は信じない」

「な、なら、どうしたら、私はお前の仲間になれる?」


 俺はもうこの国に戻るつもりはない。こいつと会うのもコレが最後だろう。

 だが、コイツは悪い奴じゃない。コイツなら……。


「まず、よーく寝ろ。そんですっきりした頭で考えろ。今、何をすべきか。じゃあな」


 俺はそれだけ言い残し、その場を後にする。


「あー、すっきりした。ほんじゃま、まずは、一番近いギゼインところから行ってみるかあ!」


 俺は、王都を出て、仲間達を迎えに行くことにした。


「早くみんな助けて、気持ち良く眠りてえなあ!」

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