Aの告白
深川我無
第1話 彼女との出会い
大学でも僕は孤立していた。
大学どころか世界から孤立していた。
勇気を出して入った軽音サークルでも、上手く人の輪に入ることが出来ず、憧れのバンドは結成の段階でご破談になった。
その日も少し遅れてサークルのミーティングが開かれる大講義室に入って行った。
僕に気が付いた数名が手を上げて挨拶してくれたが、すぐに自分のグループのメンバーと話を再開してしまう。
誰に気づかれることもなく、僕の上げた手は静かに降ろされる。
居心地の悪い喧騒の中、孤独を紛らわせるために僕は隅の席に座ってイヤホンを耳に刺した。
GRAPNEVINEの「僕らなら」がサビの少し前に差し掛かった頃、不意に左のイヤホンが耳から抜き取られた。
「何聞きよん?」
そう言って二つ上の佳奈さんが僕の隣に座った。
彼女は僕の太腿に触れるくらいピタリと引っ付くようにして隣に腰掛けるとイヤホンを自分の左耳に刺した。
「GRAPNEVINE!? マジで!? うちもめっちゃ好き!!」
キラキラと光る真っ黒な瞳が僕の目を捉えた。
僕は黙ってコクコクと頷いた。
心臓が飛び出すくらいドキドキしていた。
女の子に触れるのなんて初めてだったから。
イヤホンのコードが短くて、佳奈さんは僕の肩に自分の肩を押し当てるような格好でGRAPNEVINEを聞いている。
幸せそうな顔をしながら。
その横顔と甘いシャンプーの匂いで僕の心臓は倍速のビートを刻んでいた。
これが僕と彼女の出会いだった。
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