新チームと初仕事

 両鳳連飛4






 眼下に広がる不格好なマンション群、ともり始めた綺羅びやかな花街のネオン。スイの自宅バルコニーから景色を眺める宝珠ホウジュはポツリとこぼす。


「やっぱり、街の中心は華やかだなぁ…」

「壁際も壁際で小ざっぱりしてて良くない?閑静な住宅街ってヤツでしょ。可樂コーラいる?」

「あっスイ、俺百事ペプシがいい!」

「無いわよ百事ペプシは」


 冷蔵庫を開くスイ大地ダイチのリクエストを秒速却下。‘スイは瓶の可樂コーラが好きなんだもん’と付け足すと、なるほどと頷いた大地ダイチが人差し指を立てる。


「じゃあ、今度スイにお土産で瓶の百事ペプシ買ってくるね」

「いや瓶ならいいってわけじゃ…てかアンタ百事ペプシ推しなの?」


 言いながら、冷えた可樂コーラの瓶底を大地ダイチの頬に押し当てた。冷たい!とハシャぐ大地ダイチスイは続けて宝珠ホウジュネイの分もカチャカチャ取り出し栓を抜く。ポンと爽快な音が響いた。

 大地ダイチ可樂コーラをグビグビあおりつつパチンコをいじる。窓枠によりかかって、壁に貼られたポスターをさし示すスイ


「あれ、まとにしてみてよ。おデコに当てたら100点ね」


 例の黄色いツナギを身につけた香港スター…を模した、ぽっちゃり熊猫パンダのイラスト。まとにされても李小龍ブルースさながらの凛々しい表情は崩さない。燃えよ熊猫パンダ

 大地ダイチスイがいくつか寄越してきたピンポン玉を受け取り、熊猫パンダへショット。ポヨンと腹へ当たって跳ね返る。もう1度ショット、肩にヒット。数回試すがなかなか狙いが定まらず頬を膨らませる。


「この前、アズマゴーが的当てメッチャうまくてさぁ!ナイフと銃だったけど」


 テーマパークで景品を取ってもらった際の話だ。俺もバシッと決めたいのに!と再びゴムを伸ばす大地ダイチ


「目線の高さまで腕をあげてみたらどうかな。それで、真っすぐ垂直に引っ張るの」


 室内へと戻ってきた宝珠ホウジュがにこやかにアドバイス。こんな感じ?とポーズをとり弾を撃つ大地ダイチ…すると若干、熊猫パンダの顔の中心へと狙いが寄った。


「わ、良くなった!宝珠ホウジュもしかしてこーゆーの上手?」


 やってみせてよと大地ダイチは道具を宝珠ホウジュに渡す。宝珠ホウジュは軽く身体を傾けて斜めに構え、立て続けに3連続で玉をショット。全て熊猫パンダひたいへコココンッと軽快に当たった。300点。


「え!?うっま!!」

「私、よく兄様あにさまと狩りに出掛けていて」


 長く続けていた田舎暮らしで、食料や毛皮を得るため短弓で野山の動物を獲っていたらしい。驚く大地ダイチに、‘弓は兄様あにさまより私のほうが得意なの’と少し胸を張る。スイが小首をかしげた。


宝珠ホウジュ達って中国寄りの村の方に居たんだっけ?これからは九龍に住むわけ?」

「どうかなぁ。とりあえずお家は借りたけど、まだ本当にとりあえずだし」


 兄様あにさまがどうするかによる、と答え、ネイの隣に腰掛ける宝珠ホウジュ大地ダイチは返却されたパチンコのゴムに指を引っ掛けクルクル回し、勘案。


インがわざわざマオとか探して来てくれたなら、イン九龍城ここに居るつもりなんじゃん?」

「でも宝珠ホウジュは病気がちじゃない。九龍城ここは空気も衛生状態も悪いし、だったら近隣の山あたり行ったほうが環境いいと思うけど」

「動物狩って自給自足ってこと?」

「それだけじゃなくて。これまでだってインも普通に仕事してたでしょ、田舎でもさぁ」


 だよね?と宝珠ホウジュに確認するスイ宝珠ホウジュ一瞬いっしゅんだけ表情をかげらせたように見えて、ネイはまばたきをした。


「そうだね。兄様あにさま仕事・・は、どこに居たって出来るものだから」


 普段と変わらない調子で微笑む宝珠ホウジュの服の裾を、テーブルの陰でつまむネイ。‘ネイ宝珠ホウジュに居てほしいよね’との大地ダイチげんにコクコク頭を縦に振る。


「とにかく…兄様あにさまが決めたことに私は従うの。お父様とお母様を早くに亡くしてから、兄様あにさまがずっと独りで私を育ててくれて…沢山迷惑かけてきちゃって。これ以上は足手纏になりたくないの」


 兄に恩を返して手助けをしたい。力は尽くすつもりだが、けれどもしも、もしもこの先───自分が邪魔になるようなことがあるのならば、万が一・・・の事態も覚悟をしていると。


「もともと身体も弱いし」


 眉尻を下げる宝珠ホウジュに反して、スイはピクッと眉を吊った。


宝珠アンタね、そういう覚悟はもっと役に立つ方向で使いなさいよ。インがせっかくアンタを守ろうとして頑張ってんのに、当のアンタが投げやりでどうすんの。それだけ想ってるんなら何でも出来るでしょ」


 命賭ける!っていう意気込みはイイけどさぁ、とコキコキ首を鳴らす。宝珠ホウジュは背中を丸めて申し訳無さそうにんだ。


スイちゃんはしっかりしててカッコいいね。私と歳、変わらないのに…すごいな…」

「今さらぁ?そうよ、スイはすご───…」


 顎をあげたスイが途中まで言いかけ、やめて、ペロッと舌を出した。


「くないよ、別に。スイも前にそーゆー感じのことあって。そん時、猫目ネコめ垂目タレめが言ってただけ」


 …猫目マオ垂目ゴーかな?思いつつ、大地ダイチは窓際の椅子の上で片膝を抱える。

 スイが両親のかたきを討った時の件については耳にしていた。そして皆がわずかずつ、力を貸したということも。‘覚悟を決めている’と発したスイマオたしなめ、ゴーが上手い具合に責任を持っていったとか。一部始終いちぶしじゅうを掻い摘んで語るスイは態度こそプンスカしていたが、瞳には怒りとは全く違う色が見えていた。


宝珠ホウジュも話してみたら?アイツら伊達だてに年食ってないわよ。ほら、300点の景品あげる」


 土産の月餅──グルメ御用達!品質保証!──を宝珠ホウジュへ手渡すスイほがらかに頷く宝珠ホウジュネイと半分こしはじめる横で、大地ダイチはヒソヒソとスイの脇腹をつついた。


スイがゆった、って事にしといてもよかったのに」

「馬鹿ね。誰かから教えてもらっといて自分の手柄みたいにしちゃダサいでしょ」


 またペロッと舌を出すスイに、大地ダイチはシシッと笑って指先でハートを作る。


「カッコいいじゃん♪」

「そぉ?」


 スイはそれをチラリと見やり素っ気なく答えてから、‘でも’と悪戯な顔。


「もっと褒めてもいいよ」


 その台詞にケラケラ笑う大地ダイチ。しかしふと、ネイが身体を縮こませているのに気が付いた。


「どしたのネイ

「あ、ううん…えっと…みんなは、いろんなことが出来て羨ましいなぁ…って」


 モゴモゴと呟いて、うつむく。俺は何かが出来てる訳じゃないと大地ダイチが場をつくろい、てゆーか何か出来なきゃいけないってこともないわよとスイが述べるも、ネイは依然どこか落ち込んだ様子。


 と。スイが出し抜けな提案を次いだ。


「そしたらさぁ。ネイも仲介屋、手伝ったら?スイが用心棒してあげる」


 ここん事務所に使っていーよ、普段けっこう姐姐ジェジェ居ないし。と続けるスイに、大地ダイチの心臓が高鳴った。輝く双眸そうぼう


「ほんと!?いいの!?」

「面白そうだしね♪アンタもメンバーよ?宝珠ホウジュ


 スイ宝珠ホウジュを指でバンッと撃つ真似をした。同時に玄関から聞こえたノック、ネイが駆け寄り扉を開くやいなや満面の笑みで飛び出す吉娃娃チワワ


「お待たせしましたぁ!!」


 お宅訪問で集合していると聞きつけデザートを運んできたのだ。スイは照準を宝珠ホウジュからレンへとズラし、‘ついでにアンタもね’と微笑びしょう。‘何がでしゅか’と吉娃娃チワワはキョトン。


 これは───楽しいことになってきた。もはや仲介屋に留まらず、万屋よろずやができるのでは?そりゃイツキみたいにとまではいかないけど…大地ダイチはニンマリし、口元にこぶしを当てて咳払い。注目を集めると仰々ぎょうぎょうしく言った。


「諸君、諸君。それではさっそく、ひとつ…依頼解決といこうか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る