他郷とジジィ
一雁高空5
明け方。森の奥のこぢんまりとした高台で、
「こんなもんか…」
ボソッと呟き、出来上がった穴に持参した風呂敷包みを投げ込む。中身がカランと小さな音を立てた。土を戻し埋めると、ペシペシ叩いて形を整える。
向かってきた本家の人間を全員斬り倒した後、
この母親の墓があったから、父親は
「仲良くやれよジジィ」
ひとつ大きく伸びをし髪を結き直した。朝日を受けて輝くポニーテールが風に揺れる。
手元に残したのは路銀と刀と父親のパイプ…充分だ、荷物は軽い方がいい。
それから。
「へぇ…ここが九龍城砦か…」
細い路地を抜け砦内に進んでいく。
マフィア、麻薬の売人、
キョロキョロと上ばかり見ながら歩いていたら、転がっていた何かに気が付かずドカッと蹴っ飛ばしてしまった。
「…
一応謝りその身体を
あれ、道間違えたな…まぁそもそも全然知らねぇんだけど…そう思い
1人を取り囲んで罵声を浴びせている。取り囲まれているオッサンは小さくなり、飛んでくる拳から頭を守っていた。
「おい、貧困区ってどっちだよ」
「あぁ?なんだチビ」
振り向いた男が
「答えが
「アンタはこの辺に詳しいのか?」
「く、詳しいが…」
「あっそぉ。じゃ案内してくれよ」
「アンタなんでボコられてたんだよ」
「ん?あいつら、ちょっと迷惑な客でな…」
道中
オッサンは従業員を守ろうと毅然と対応してその場は収めたものの、報復に来たヤツらに路地裏で急に取り囲まれたとのこと。
「逆恨みじゃねーか」
「いいんだよ。そんなものさ。でも、店のみんなのことは私が守らないとな」
君は
「じゃあ君、私と一緒に仕事をしないか?」
言いながらオッサンは瞳を輝かせる。
話によると、行き場のない女性達を自分の店舗に招き入れ店を経営しているが、なかなか1人では手が回らないという。誰か力を貸してくれる人間がいたらな…どうかな…と呟きチラチラと
お願いの仕方が露骨だし、しかも上目遣いが全然可愛くない。そう
「いーよ。手伝ってやる」
何も考えずに頷いたが、オッサンは非常に嬉しそうに満面の笑みを見せる。反対に
「ジジィ、
「うーん。でもなんだか君は悪い奴じゃない気がする」
「そりゃ命取りだぜ」
「ははっ!私結構見る目はあるんだよ?」
「そうかよ。で、なんつうの?アンタの店」
「【酔蝶】」
「ふーん、
「君は何てお店にするんだ?」
「あぁ?気が
夜を迎えて賑わう九龍。雑談を交わしながら歩く2人の姿は、街の喧騒にまぎれて消えていった。
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