煙と黎明
東洋魔窟4
仰向けで死んでいた女性は、間違いなく写真の従業員だった。周りに散らかったドラッグの残骸…状況から見て、死因はおそらくオーバードーズ。
部屋の中は荒れていた。というか貴重品だけ持って逃げ出したような感じ。おそらく部屋の主は、この女性に薬を流していた売人だ。もうここには帰って来ないだろう。
猫は持ってきたラムネの小箱を動かない飼い主へと差し出し、まわりをトコトコ歩いていた。
カサッと音がする。そこにはビニールの小袋が貼り付いていて、中には塩のようなもの。ドラッグだ。
「お前…運び屋だったんだね」
売人というものは基本的に、馴染みの上客以外には出来れば素性を知られたくない。風貌や情報を必要以上に晒す事によって生まれる余計なリスクを減らしたいからだ。
なのでこの売人の場合、おそらく初回以降、猫を
猫というところが手堅い案と言えないが、正直この女性は売人にとってたいした売上にならない些末な客だと初手で判断されたのだろう。
金が届けば薬を送るだけ、届かずとも特に差し支えはない。そんな程度。
けれどある日、売人が送り返した猫は女性のもとへ戻らなかった。
猫が気まぐれで散歩コースを
そうこうしているうちに禁断症状が出て一刻も早くドラッグが欲しかった女性は、なりふりかまわずに出来る手段を全て使って、どうにかして突き止めた売人の元へ直接訪れた。
売人はそれを
なのでいっそのこと女性をどこかしらへ売り飛ばしてしまおうと考え、親切ぶってわざと必要以上の薬を与えその場で接種させた。
ら…うっかり死んでしまった。仕方ないので売人は金目の物だけを持って消えた。
「ってとこかなぁ」
言って、
行った時点でもう手遅れで、自分に出来る事も特になかったので、
よく懐いているので触ってみようかと
「
「うん、今から行く。この
「それはそうかもな…てか、随分な量持って帰ってきたな薬」
「部屋にあったやつ全部。
「俺が
虚無顔の
死体はそのうち誰かが発見し、どこかへ運ばれるのだろう。使える部位は使われて使えない部位は棄てられる。九龍ではよくある事だ。遺体が身内に引き渡されるほうがよっぽどめずらしい。
当然だが、
それを持って屋上へあがると、ちょうど朝日が差しはじめた所だった。
全てが灰になるまで、
今日も、何も変わらない、1日がはじまる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます