第9話 西洋占星術の歴史④四人(四組)の占星術師たち
前項で述べたコス島のベロッサスも伝説上の人物として捉えられている一面もありますが、占星術には更に伝説に近い人物たちも後世に伝わっています。①で述べたような占星術の発明を行った人物が、実は4人(4組)いるのです。
紀元前3世紀ごろ占星術に関する記述が少なくなったというのは、前の文章でお話ししました。しかし、紀元前1世紀ごろになると、また占星術に関する記述が増えてきます。年代は詳しく分かりませんが、4人(4組)の人物が占星術に関して書き残しています。
この4人(もしくは4組)の人物は、占星術の歴史の中において、とても重要な位置づけをされている人物たちです。
ヘルメス・トリスメギストス
舌を噛んでしまいそうな名前です。ヘルメスとは、おそらくギリシャ神話におけるヘルメスでしょう。その名の通り、伝説的な人物として語られています。占星術のみならず、錬金術の祖とも呼ばれています。
ヘルメスはどういった人物だったのでしょう?
たった一人だけで、当時の最先端の学問の始祖と呼ばれるには、ちょっと荷が重すぎるのではと思うのです。そもそもたった一人であったのかどうかすら分かりません。一部からは2,3人の占星術の大好きな人たちの集まりだったのでは、と言われています。
Wikipediaでは、第一から第三のヘルメスが、各時代にいたとも記されています。トリはラテン語で3ですので、なんとなくですが三人なのでしょう。
ます第一のヘルメスはノアの箱舟神話の前のヘルメス(なんでもアダムの子孫だとか)。二人目はノアの箱舟の洪水以降のバビロンにいたヘルメス(ピタゴラスの師匠だったとか)。三人目はエジプトにいたヘルメスです。
時代ごとのヘルメスが紹介されていますが、占星術の始祖といわれるヘルメスが、どのヘルメスのことを言っているのかは分かりません。
そもそも本当にそのような神人が実在したかも謎に包まれています。しかし後の占星術師たちが、彼の書いた本を参考にしたと後世に伝えています。間違いなく、彼(ら)の書いたものが、後世の占星術師たちに大きな影響を残していることは確かなのです。そのため占星術の本を書いたヘルメスは実在したのでしょう。
またヘルメス神の名を語る全くの別人が書いたものではと、師はおっしゃっていました。この時代は「偽典」といって、著作者の名前を神や神話の人物にして、本来の名前を匿名とした本があったそうです。
ヘルメスの文章はとても分かりにくいものだったと、後の占星術師たちは書き残しています。残念ながら原書は歴史の波にのまれて消えてしまいましたが、後に彼の本を読んだ占星術師たちの手によって、その存在は語り継がれています。
アスクレイピオス
言わずと知れたギリシャ神話に登場する医聖アスクレイピオスです。
神話の神そのものではなく、ヘルメスと同様にその名を語る別の人物であったと考えられてあり、その存在は謎に包まれています。
彼は自身の残した文献にヘルメスに占星術を習ったと書き残しています。そのためヘルメスよりは後の時代の人物であったとされています。
さらに後の時代の占星術師であるヴァレンスやフィルミクス・マテルナスは、ヘルメスやアスクレイピオスの残した文章を読んでいたそうですが、彼らの文章はどう解釈していいのか分からないと残しています。とても分かりにくい文章であったようです。また、本当に大切なことを隠すために、わざと分かりにくく書いていたとすら言われていたようです。
残念ながらアスクレイピオスの残した文献も原書は残されていません。しかし後の占星術師たちに大きな影響を与えたことに変わりはありません。そして後の占星術師たちの記述によって、その存在が証明されています。
ネセプソ・ぺトシリス
四人、もしくは四組と書きましたが、最後の二人はセットで書きたいと思います。
ネセプソとぺトシリスという名前はエジプトをルーツとしています。
ぺトシリスは、紀元前4世紀後半の第28王朝の時代にいた実在の神官だそうです。ネセプソは第26代王朝の初期の王の一人として、6年間統治したとされていますが、おそらくこれは創作だとされています。
ネセプソはぺトシリスより前の時代の人物のようです。ネセプソは真偽が定かではありませんが、おそらく二人とも実在の人物であるとされています。
この二人本人が占星術をしていたのか、はたまた彼らの名を語った全く別の人物が占星術をしていたのかですが、おそらく後者であると思われます。
この二人には今日まで残されているものがあります。ぺトシリスからネセプソへという、占星術のことを説明したであろう手紙が残されているのです。しかし、この手紙は紀元前2世紀ごろに書かれたとされていますので、実在の彼らが実際に生きていた年代と合いません。そのため、この手紙は歴史の中に生きたネセプソとぺトシリス本人ではなく、その名を語った人物たちが書き残したものだと思われます。おそらく上記の二人と同じで、全く別の人(神)の名前を語った偽典であると思われます。
占星術の説明であろう手紙を書いたネセプソとぺトシリスは、ヘルメスやアスクレイピオスの書いた文章や本から引用をしていたそうです。そのため、この二人はヘルメスやアスクレイピオスよりも、後の時代を生きた人物であったと思われます。
彼ら4人(4組)は、占星術の発展に大いに影響した人物であったとされています。
たびたび彼らの文章は後の占星術師たちによって引用されていますし、様々な技法が彼らの残したものの中から、次の時代へ残されたことは確かなようです。
残念なことは彼らの書いたものの多くは、現在まで残っていないということです。そのほとんどが長い歴史の中に取り残されてしまいました。消えてしまった文章は一体どこへ行ってしまったのか、それは誰にも分かりません。
しかし、幸いにも後の占星術師で、彼らの記述したものに触れることが出来た者たちが、自らの手記の中で引用してくれています。おかげで、そのような人物がいて大きな影響を与えたということがわかるのですから、とても面白いものだと思います。
占星術というのは、誰かが築いてくれたものを自分が実際に使ってみて、それを検証したのちに、きちんと誰から教わったと書き残して、はじめて残されていくものなのだと感じました。私の師はジョン・フローリーという英国の占星術師から占星術を学びました。そのことは、時々師の講座にて示されてきました。そして師の占星術は、私やほかの生徒の誰かが次へと引き継いでいくものなのだと感じます。
占星術というのは国や立場が全く違う人でも、まるで誰かにバトンを繋ぐようにして、引き継がれていく伝統でもあるのだと私は思っています。このような深い流れの一つになれるかもしれないことを、少しだけ誇らしく感じています。
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