【中編】亜人の王[The King Of Demi-Humans] −汝は亜人なりや?−【5万字以内】

石矢天

序・燎原よりいずる


〇 亜人(デミ・ヒューマン)


 それは“人”という種の亜種を意味する。


 亜種という言葉が、元の種のであることをかんがみれば、この言葉に『“人”こそが上位の存在であり、亜人は人に似たまがい物である』という、さげすみの意味が込められていることは明白である。


 故に人は、亜人を見下し、そして搾取する。

 従わない者がどうなるかは語るまでもない。



▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△



 燃え盛る炎は肌を焦がし、家はもちろん、ボクが生まれ育った村の全てを焼き尽くさんとしていた。父も、母も、紅蓮の炎の中に消えていった。


 弾け飛んだ火花が頬に触れ、刺すような痛みが走る。


「――――――ゔうっ!!」


 痛みを訴える声は、掠れたうめき声のまま、炎の中へと吸い込まれていく。

 ノドはすっかり煙にかれてしまったらしい。



 パチパチと炎がぜる音。

 家が崩れて重低音と共に空気が震えた。

 

 不意に響き渡る悲鳴と、愉快そうな笑声しょうせいに心臓が跳ねる。


 誰かが襲われているのだ。

 だけどボクには、仲間を助けに行けるような勇気もなければ力もない。

 ただ逃げるように、声が聞こえる方向とは逆に足を向けた。


 ――なにが『逃げるように』だ。

 逃げているのは、まぎれもない事実ではないか。

 我が身可愛さに村を捨て、仲間を見捨てて逃げている卑怯者。


 せめてボクにあいつらに抗うだけの力があれば……。自らの小さな体躯と、細い手足に歯噛みすることしかできない。


 ふらつく足腰に精一杯の力をこめて、ボクは村の裏手にある林を目指した。



「おいっ! こっちにも亜人がいるぞ!!」


 背中に下卑げびた声を浴びせられ、スッと血の気が引いていく。

 思わず振り向いたボクの目に、人影がふたつ飛び込んて来た。


 恐怖で足を必死で前に出す。

 しかし林に入ったところで、ついに追いつかれてしまった。


 もう追いかけっこは終わり。

 ニヤニヤと愉悦の笑みを浮かべるふたりの男が、ボクに一歩、また一歩と近づいてくる。



 なぜボクたちが、こんな目に遭わなくてはならないのか。

 そんなことは誰かに問うまでもない。



 ――彼らが『人』であり、ボクたちが『亜人』だからだ。

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