第三話:裏切り


『それでどうすんだよ?』



 雷天馬にそう聞かれアザリスタは飲みかけていたお茶のカップをテーブルに戻す。


「まさかキアマート帝国がこうも早く動くとは…… これは想定外ですわ」


 キアマート帝国とはレベリオ王国のはるか西にある新興国。

 奴隷からなり上がったと言われる現皇帝が闇の森の者を従え近隣諸国を侵略していた。

 現皇帝ロメルは和平や協定を一切受け入れず死か服従かの二択しか選ばせないことで有名だ。

 レベリオ王国が近隣諸国と関係を強める為に自国の宝である姫君を他国へ嫁がせている理由でもあった。



「カーム王国に我が妹フィアーナが嫁ぐ前だと言うのが唯一の救いですが、カーム王国はもって三ヶ月と言う所ですわね……」


 既にこのレベリオ王国へも救援の要請は来ている。

 これから関係を強めようとしているカーム王国のその要請は無視できない。

 とは言え、レベリオ王国の兵は約一万二千。

 キアマート帝国の勢力は闇の森の者も含めて約十万と言われている。

 カーム王国の兵も一万と五千程、北のアルニヤ王国で約二万と言われている。

 もしレベリオ王国とアルニヤ王国がカーム王国に支援に出てもその総戦力は四万と七千。

 倍近くいるキアマート帝国の進軍を止められるかどうかも怪しい。



「もしベトラクス王国とエンバル王国が加わっても総勢九万に届くかどうか…… カーム王国が抜かれれば次に標的になるのは我がレベリオ王国かアルニヤ王国になってしまいますわ」


『なんだよ、ここってあぶねぇんじゃねーかよ! そういやこの世界って魔法が有るんだろ? 魔法で戦力差を何とかできねーのかよ?』



 アザリスタの中にいて雷天馬もある程度アザリスタの知識を得ていた。

 この世界は剣と魔法の世界。

 だから単純に兵士たちが斬り合う戦争とは訳が違う。



「大賢者様がいらっしゃったら違っていたかもしれませんわ。しかしカーム王国もアルニヤ王国も保有する魔法使いは少ない。我が国の魔法騎士団がいたとしてもそれは一騎当千と言う事では無いのですわ」



 アザリスタは魔法学園を筆頭で卒業した実力を持ってはいた。

 しかしそれは大賢者には遠く及ばぬレベル。

 大賢者クラスになれば空から隕石を呼び寄せる魔法が使える。

 だがそれだけの力を持った者は残念ながらレベリオ王国はいない。



『はぁ~、打つ手なしかよ……』


 雷天馬のその言葉にアザリスタはぎりっと奥歯を噛む。

 と、扉がノックされる。



「お姉さま、お姉さまいらっしゃいますかしら!?」


「お姉さま、大変です!!」



 どうやら妹たちのようだ。

 軽くため息を吐いてからアザリスタは立ち上がり扉を開ける。

 するとそこには腹違いの妹フィアーナと実妹のロメスタがいた。



「どうしたのですの? そんなに慌てて……」



「どうしたもこうしたもありません、お姉さまアルニヤ王国が!!」


「お姉さま、落ち着いて聞いてくださいですわ。アルニヤ王国はキアマート帝国に服従をしたとの話ですわ……」




 フィアーナからアルニヤ王国の裏切りを聞いてアザリスタは思わず言葉を失うのであった。

  

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