第21話 獅子の国 御祝

「で、薬はどこだ」

 タニアは捕まえ、ずたずたにしてからルドは聞く。


 王族を傷つけた罪は重い。

 このような私刑よりも、もっと酷い目に合わせられるだろう。


「もうない、川に捨てたわ」


「何だと?!」

 ルドはぐるると唸り、牙を剥き出しにする。


 赤い体毛の豹は全身に火を纏わせる。


「自分が何をしたかわかってるのか?」

 ミューズの命に関わる薬だとルドは聞いている。

 それがない、となると彼女はどうなってしまうのだろうか。


「ごめんなさい、ごめんなさい!」

 熱さと迫力に必死で謝るが、勿論許す気はない。


(このまま焼き殺してやろうか)

 火で燃える体で近づいていく、益々感じるその熱気にタニアは生きたまま燃やされるのではと怯えた。


「止まれ、ルド。勝手に殺してはいけない」

 その声にルドは止まる。


「サミュエル」

 ミューズの事を診てくれた医師だ。


 事の次第を聞き、ルド達を探していたのだ。


「法に任せろ、お前が手を汚すことはない」

 サミュエルは連れていた兵に命令し、タニアを連れて行かせる。


「ミューズ様はどうなる?」

 薬は最早ない。一体主の想い人はとうなってしまうのかと心配になる。


「大丈夫だ。ある意味いい結末だろう」

 遅かれ早かれこうなる気はした。

 ティタンがミューズを連れてきた時から。


「祝言の準備をしよう、ティタン様に春が来た」







「えっと、大丈夫ですか?」

 居ても立ってもいられず、ルドは主が部屋から出るのを待っていた。


 護衛としていただけで、他意はない。


「大丈夫そうに見えるか?」

 部屋から出てきたティタンは明らかに疲れていた。


「ミューズ様のお加減は如何でしょう」


「今は休んでる。それより薬はどうなった?」

 ティタンはミューズを起こさないようにそっとドアを閉め、廊下に出る。


 今は深夜だし誰も通らないが、ルドは小声で伝える。


「残念ながら、既に廃棄されてしまっていて。今新たなものを取りにいかせています」


「そうか」

 ふぅとティタンはため息をつく。


「発作というのは大変だな。だけどあんなに可愛くなるなら、たまにはいいのかもしれないが」

 ティタンは顔を赤くしていた。


「いやあの、詳細は言わなくてもいいですよ?」

 幼い頃から仕えていた主の、ちょっと大人になったところは聞きたくはない。


「だって何度も好きって言ってくれるし、抱きしめて頬ずりしてくれるし、可愛過ぎてこちらは動けもしないのに、ミューズは満足したのか抱きついて寝てしまう。起こさないようにと動けなかったのはきついが、あの幸せそうな寝顔を間近で見られたのは嬉しかった。あんな可愛い生き物がいるのを知らなかったなんて、辛すぎる」


「は?」

 要するに添い寝をしていたということか。


「手を出したとか、そういう訳ではなく?」


「まぁ抱き締め返したから、手を出してないとは言えないかもしれない。つい我慢出来なくて」

 ルドは天を仰ぐ。


(結構な勘違いをしていた)

 てっきり一線を越えたかと思っていたが、全然そんな事なかった。


 逆に男として心配になるが。


「責任は取りたいと思っている、だから父上に取り次いで、結婚の許可を得たい」


「そう、ですね」

 既に動いてはいるが、手を出してないならば、話は違いそうだ。


 まずは皆の誤解を解いて回ろう。


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