第47話
復学し始めると同時に、真奈美は健吾に連絡を取った。毎日悠太郎を見ていると、どうしても思い出してしまい押さえきれなくなってしまった。そこに愛情があるかと聞かれれば、即答はできない。しかし悠太郎と血の繋がっている健吾の生活振りが、心配だった。
産んだ子供と血が繋がっている事を知らせるつもりはない。でも子供のためにも荒んだ生活を送って欲しくはない。
健吾はまた引っ越しをしていたが、住んでいるアパートは以前と同じような古い建物だった。電話で聞いた住所を頼りに、部屋のドアをノックする。鍵の外れた音がして、ドアが少しだけ開かれた。
「真奈美」
「健吾久しぶり」
「ちょっと待って」
チェーンが外されて、やっと扉が開いた。
「綺麗になったね」
「そう、かな」
「上がって」
「うん」
健吾の綺麗な顔立ちは変わってないが、髪はボサボサで、髭もしっかりと剃られていない。薄汚い様相だった。そして相変わらず部屋は汚かった。
「元気にしてた?」
「まあまあかな」
真奈美は十畳一間の部屋にある窓辺に立ったまま続けた。
「今は何をしてるの?」
「――ホスト」
「え?」
「少し前からホストをしてるんだ」
「そう……なんだ」
「ごめん。汚いから、座りたくないよね」
「そんなことないよ」
健吾が座れる場所を作ってくれる。真奈美はそこに躊躇うこと無く、腰を下ろした。
テーブルの上に置かれた、カップ麺の容器に食べかす。健吾がそれらを、一気に持ってきた袋に流し込んだ。それでもジュースの零れた痕や、スナック菓子のカスは残っている。
「ごめん。飲み物は何も無くて」
「いいよ別に」
健吾くらいなら、ホストをしていればお客が付いているのではと思った。部屋の状況からして女性の影が感じられない。
「ホスト、あまりお金にならないの?」
「え? そうでもないんだけど……使っちゃって」
健吾はまだ、ギャンブルから足を洗えていない。そういうことかと真奈美は納得できた。
「あ、あのね、真奈美」
申し訳なさそうに、上目使いをしながら健吾が言った。
「少しだけ、お金を貸してくれないかな? 一万、いや千円でもいいから」
ショックと同時に、彼をどうにかしなければいけない。悠太郎の血の繋がっている
父親として、恥ずかしくないように。真奈美は条件を付けた。
「いいわよ。でも条件が一つ」
「条件?」
「これから健吾に入ってくるお金、私が管理するっていうのはどう?」
「え?」
言葉に驚いたのか、目を大きく見開いている。
「部屋も私が定期的に片付けにくるね」
「え? で、でも……成海さんは?」
「大丈夫。大学の講義をごまかせば、分からないから」
「いいの? 本当にいいの?」
「うん」
「ありがとう」
そう言って健吾は真奈美を抱き寄せた。香水の香りと汗の臭いが混じっていて、あまりいい香りではなかった。
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