第11話
翌朝も颯太と道の途中で一緒になった。
「おはよう」
「おはようございます」
颯太は会うと「昨日はどうだった?」と必ず聞いてきた。それは真奈美が気まずい雰囲気にならないように思慮してくれているようでもあった。
でも毎日顔を合わすようになると真奈美自ら、大学であったことを自然と話すようになっていた。昨日の話をしているうちに、笙子との約束を思い出した。
そのことで何となく楽しみになっていた毎朝の日課に、第三者を割り込ませることで何故か気分が沈む。澄み渡る空が急に薄暗くなっていくような陰鬱さ。
でも折角できた大学での居場所を無くすことは何よりも怖かった。
「あの! 颯太さん」
「どうかした?」
「笙子ちゃん。田中笙子ちゃんって覚えていますか?」
「ああ、あの飲み会でF市に住んでる。それがどうかした?」
「今度一緒に遊ばないかって言われて……あと、連絡先も……」
申し訳ないという気持ちと、自分が抱いた影のようなものを悟られたくないと思った。そして颯太はもしかしたら断るじゃないか。成海という名前に寄ってくる女性に、わざわざ会いたいと思わないんじゃないか。
そうであれば今まで通りだと。
「いいよ」
「え?」
「連絡先を教えてもいいし、遊びに行くのも」
「――」
「どうかした?」
「あ、いえ。じゃあ今日、笙子ちゃんに伝えておきます」
「わかった」
大事なものを取られて、何もいえなくなってしまった子供のように、真奈美は黙り込んでしまった。
「真奈美ちゃん?」
「あ、はい」
「どうかした?」
「い、いえ」
「そっか」
見上げる颯太は、朝日を浴びて眩しいほどの笑顔だった。それから真奈美の頭を軽く撫でた。それは大きくてどこか安心する手で特別な気がした。
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