【雷帝の魔術師】の成り上がり~魔術が扱えないからと追放された【雷帝の魔術師】は底辺冒険者パーティに拾われる~

天野創夜

その少年、【雷帝】なり

 この世界は、人間界と魔界という二つの異なる世界がある。

 地図から見て、西側。広大な土地が広がっているが、そのどれもが荒廃としている。そこが魔界と言われるところだ。


 そして東側——海を挟んだ東側にあるのが人間界だ。土地は魔界と比べるとやや小さいが、栄養を沢山含んだ土地や資源などが沢山ある。そこが僕たちの住む人間界。


 現在、魔獣と人間は争っている。


 魔獣の中の王——『魔王』は僕たちの土地を侵略すべく、魔獣達を次々に送っている。人間界にもダンジョンや迷宮等があり、それを解決するのが僕たち――『冒険者』だ。


「——レイ! ユイが怪我を負った!」


「了解! 理よ我に従え――【治癒ヒーリング】!」


 レイと呼ばれ、僕はすぐさま怪我をしたピンク色の少女――ユイの元へと駆けつける。一節まで省略した詠唱を唱え、僕は即座に治癒魔術を唱えた。

 腕に負った傷はすぐに回復し、『ありがとう、レイくん!』とユイはその翡翠色の瞳を僕に向けながら、直ぐに前線の方に駆けていった。


「レイっち! ゴメン【身体強化パッシブ】切れちゃった! 後少しで倒せそうなんだけど!」


 息つく暇も無く、今度は左方面から声が聞こえた。

『レイっち』と呼ぶのは彼女だけだ……そこには、動きやすい格好をした、首にスカーフを巻いているシーラが、ナイフを構えながら目の前にいるムカデ型の魔物を相手している。


 赤色のムカデは、足の何本かはシーラの攻撃によって切り落とされていた。

 確かに、あともう少しで倒せそうだ……! 僕は彼女に無詠唱で【身体強化パッシブ】を掛け直した。


「ありがとう、レイっち!」


 彼女はそう言うと共に、疾風の如くナイフを振るってムカデの足を切り落として、強化された脚力で狭い石部屋の中を飛び周り、その強烈な一撃を以て、ムカデを倒した。


 見てみると、シーラの方も魔物を倒している。良かった……複数の魔物に囲まれた時はどうしようかと思ってたけど、まだ希望はある。


「レイ!」


 その時、幾度と無く呼ばれた声が聞こえた。

 僕はすぐ様足を動かして、一人の少年の後ろに立つ。

 金髪の碧眼をした、かなりモテそうな顔をしているのは、僕の親友にして、このパーティのリーダー、グラムバーン・アストレア。


 彼はその両手に持つ魔剣【強奪の魔剣】を降りかざしながら、目の前にいる大きな猿型の魔獣と対峙していた。

 その魔獣の奥には道があり、そして多分、この奥には――。


「ようやくここまで来たんだ! この先に【四天王】がいる!」


 魔王直属の護衛部隊である【四天王】

 その中の一人が、このダンジョンにいるとの連絡が入ってまだ二日と経っていない。ギルド界隈では誰が行くのかと言う会議があり、そして白羽の矢に立てられたのが、丁度その街にいた僕たち――Sランク冒険者パーティ【夜明けの星】だった。


 僕たちの他にSランク冒険者はいなくて、救援を待つ頃には逃す可能性があるとして、多額の報奨金が出たこともあり僕たちは引き受けたのだ。十の月の事だった。


 だが、何も金の為という訳でもない。


 僕は生まれた時から両親がいなかった。魔物に殺されたのだと、孤児院のシスターがそう言っていたのを思い出す。その他にも、この四人のメンバーで魔物に不幸な目に遭わされた事の無い奴なんていない。


「レイ! 残りの魔力量は!?」


「さっき補助魔術を使ってあんまり無い! でも、なら撃てる!」


 猿の轟音が響き渡り、グラムは双剣を翳して、猿の前に巨大な炎の壁を作り上がらせる。


「私、ポーション持ってるよ! 魔力回復のやつ!」


 シーラが腰に掲げた鞄をの中から緑色の液体が入った小瓶を見せる。

 それを見たグラムは、一歩引いてから僕に頷いた。長年の付き合いがある僕とグラムに、もはや言葉は不要。僕は一歩前に出ると、詠唱を唱えた。


「理よ我に従え――」


 その時、炎の壁が猿の薙ぎ払いで消される。

 猿が僕目掛けて剛腕を振るった。その圧倒的なパンチは速くて、でも――僕の詠唱の方が速かった。


「【麻痺パラライズ】!」


 僕の出した右手から、青白い電気が放電したかと思えば、猿の動きがピタリと止まった。時間が止まったかのように、微動だにしなかった。だが、意識だけはあるのだろう、瞳孔が開いた赤色の瞳を僕は真っすぐに見ながら、続けて次の魔術を撃ち込む。


「雷帝よ! どうか我に力を貸したまえ——【白雷剣ライトニング・ソード】!!」


 動けない大猿に向けて、僕は上級魔術を行使した。

 瞬間、白い電気の形をした一本の大剣が、大猿の胸を深々と突き刺さった。

 口から血を吐きながら、倒れる大猿。僕は軽く息を吐くと、後ろにいる仲間たちに、んっと、グッドポーズをした。


 ==


 魔力回復促進ポーションを飲み干した僕は、諸々の素材の回収を終えたであろう皆と合流した。


「やっぱ凄ぇよな! 流石【雷帝の魔術師】!」


【雷帝の魔術師】——それは、僕に付けられたあだ名だ。

 この世界には魔術というものがある。神秘を操り、奇跡を起こす職業。

 なるためには素質がかなり重要となってくるため、魔術師は他の職業と比べてマイナーであるのは否めない。それが上位の魔術師となると、数は限られてくる。


「四大属性全てに適正アリ! 史上最年少で【王級魔術師】にまで登り詰めたお前なら、この先も行けるかもしれないな!」


 魔術には属性がある。基本的に火・水・風・土の四属性だ。

 治癒魔術や強化魔術といった物は、スキルボードで一定以上の経験値をつぎ込まないといけない。僕は何故か四大属性全てに適正があって、一応その全てを上級まで上達させた。経験値を貯めて残る二つの魔術も会得した。


 確かに、僕の事をそう呼ぶ人は確かにいる。だけど――。


「グラム……止めてくれよ。みんながいてくれたお陰だ」


 その言葉に、僕は首を振りながら、そう言う。

 そうだ、慢心してはいけない。僕がこの地位にいるのは偏に仲間がいてくれたからだ。詠唱が長引けば隙が出来る。その隙をカバーしてくれるみんながいるからこそ、僕は輝けるわけで。


「それに……僕にはこれしか取り柄が無いからさ」


 そう言って、右手からビリビリと電気を飛ばす。


【雷魔術】——世界で僕しか、扱えない魔術。

 とても希少な【固有魔法】の一種だ。

 これが無ければ、僕はここにいなかった。


「でも、俺たちは知ってるぜ。お前が毎晩夜遅くまで魔術の練習していた事」


「なっ……! 知ってたの!?」


「勿論。レイ君いつも頑張ってるなって。だから私たちも負けないぞ~っていつも思ってたんだ」


「レイっち超頑張ってたからね~」


 は、恥ずかしい……。バレない様にコソコソやってたけど、バレてたのか……。

 僕がそう赤面していると、グラムが空咳をして注目を集めた。


「あー、あーちょっといいか」


「んもう、何よグラム。相手はこの先にいるのよ?」


「わぁーってるよ。だからその前に一言、言っておきたくてな」


 そう言うと、グラムは右手を僕たちの前に差し出した。

 ユイたちは、無言でその上に手を乗せた。これは、危険なクエストを受けたときにいつもやる、円陣の様な物だった。僕は彼女たちの手の上に、ポンと右手を置いた。


「最初は、俺の下らない野心から始まったよな……いつか立派になって、バカにしてきた奴らを見返してやるって」


 グラムはそう照れくさそうに鼻を擦る。今思うと、本当に懐かしく思えてきた。


「親友のレイを無理やり参加させて、そこからシーラ、ユイが加わって……気づけば、十数しかいない最高ランクのSランクまで行き着いちまった」


 覚えている。まだ魔術師としてひよっ子だった僕を連れて、野原を駆けまわった。

 泥と傷だらけになりながら、時に命を落としそうになりながら、僕たちは星空を見上げては各々の夢を誓ったんだ。


 あー、だからーと、そこでグラムは恥ずかしそうになりながら、僕たちに言った。


「ありがとう――今の俺がいるのは、お前らがいてくれたお陰だ。これからどんな事があろうと、俺たちはずっと仲間だっ!!」


 そうして、手を上へと上げる。グラムは嬉しそうに、シーアはノリノリで、ユイは少しだけ目に涙を浮かべながら。僕は――少しだけ感慨深くなりながら、手を離した。


 そうして、僕たちは【四天王】のいる部屋の扉を、開けたのだ――。











 ――その先に絶望が待っていると知らずに。







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