第二十六話 【生配信】つよつよ幼馴染と異世界探索!



「……へ? ついてきてほしい、ですか?」


 姉妹との配信を終えた翌々日の朝の事。

 珍しく我が家にやってきたシルビオが放った言葉に私は困惑を返した。発起人のシルビオが若干視線を彷徨わせながら口を開く。


「ほら、今は家と村の周辺しか配信に映せていないだろ?

 ただ森の中にも色々面白い光景があるからさ、俺と一緒に来ればそういうのも全部撮れるじゃないかと思ったんだよ」


「ほはーお? なるほどなるほど。

 ……いい案ですね、乗りましたっ。リリストアルトの不思議な光景、リスナーのみんなに見せてあげましょうか」


 シルビオの提案に一瞬思考を巡らせた後、私は大仰に頷いた。


 狩人として日頃からナナトの森の巡回しているシルビオなら、それはもう凄い光景を知っている事だろう。というか子供時以来入ってなかったナナトの森が今どうなっているか、他でもない私がめっちゃ気になる。


「……でもなんで急に? それなら最初の方に言ってくれてもよかったですよね?」


「あー、それはほら、カタリナも成人が近づいてきたわけだろ。

 万が一があった場合も最悪どうにかなるんじゃねえかと思ったんだよ」


「ふんふん。なるほど、完璧な理論武装ですね」

 

 シルビオの頬を汗が伝っているように見えるけど、まあ気のせいでしょ。

 いやあ、シルビオにもカタリナチャンネルのメンバーとして自覚が出てきたんだね。今までの苦労が報われた気がして、お父さん嬉しい。


「怪しい……怪しいよ。カタリナお姉ちゃん。

 大体、森の中を写すだけならシルビオだけで行けばいいじゃん。

 これはあれだよ。チャラい男が適当な口実で女の子を人のいない場所に誘い出す例のあれだよ。お姉ちゃん、よわよわだからシルビオに抵抗出来ず、食べられちゃうんだよ、エ〇漫画みたいに……エ〇漫画みたいにっ」


「二回も言わんでも分かるって。

 それならアネットも一緒にくるか? 元々そのつもりだったしな」


「勿論行くよっ。お姉ちゃんと年若い男を二人きりになんてできないからねっ」

 

「分かった。ただし俺たちの指示はちゃんと聞けよ?

 はぐれたりしたら洒落になんねえんだから」


「うん、わかってるよ」


 シルビオの忠告に、アネットが意気揚々と頷いた。

 うう、相変わらずアネットの中の私の評価がめちゃくちゃ低いよお。流石の私でもシルビオじゃなければ二人きりになったりしないって。

 と、それはともかく。


「本当に大丈夫なんですか?

 その、もし万が一があったりしたらーー」


「俺たち二人で気を付けて、あとは鈴でも持たせれば何とかなるだろ。

 そもそも俺たちもアネットくらいの年の時は森の中を遊び回ってたじゃねえか」


 うーむ。そう言われるとぐうの音も出ない。

 ま、今は強くなったシルビオもいるし何とかなるかな。






「リリストアルトは一体どうやって生まれたのか?

 その謎を解明するため、我々はナナトの森の奥地へと向かったーー

 みなさんこんにちわ。異世界の美少女冒険家にして調査隊隊長、カタリナ・フロムです」


「調査隊副隊長、アネット・フロムだよ。

 今日はシルビオの魔の手からカタリナお姉ちゃんを守護まもるために来ましたっ」


「あー、何の役職もねえただのヒラ調査隊員、シルビオ・グラントだ。

 今回は隊長の代わりに道案内役を務めさせてもらうぜ」


【おー、久しぶりの組み合わせ】

【おかしい、「まもる」になんか変なルビが見える……】

【カタリナちゃんが隊長とか不安しか感じない件について】

【アネットちゃんがいればへーき、へーき】


 というわけで、準備を済ませた私達はフロム家の裏山の入り口に立っていた。


 分別がつくようになった後はほとんど家の中に籠ってたから、大体6年ぶりくらいかな。ごくり、と喉を鳴らしてタブレットのカメラの方へ目を向けた。


「えー今回、私の右手はタブレットで、左手はアネットの可愛いお手々で塞がれていますので旅の安全はシルビオが完全に握っていることになります。

 男の子としてちゃんと私たちをエスコートしてくださいね、シルビオ」


「はいよ。ま、男の子っていう年でもないんだけどな」


「……リスナーのみんな、カタリナお姉ちゃんは私が守るから安心してね?」


【うーん、それならヨシッ!】

【当然のように主従逆転してるんだけど?】

【↑それはほらアネットちゃんだから】


 やっぱりそういう風に見えるよあ、と苦笑いを浮かべながら森の中へ。

 

 中に入ると、一気に視界が暗くなった。

 辺りに生い茂る謎の草と、空を閉ざす木々の葉っぱ、そして足元を通る剥き出しの土で出来た道。

 そんな懐かしい光景と匂いに、かつての記憶が呼び覚まされていく。


「あ、何となく覚えてますよ、この辺。

 確かあっちの方に樹液が出る木がありますよねっ」


「だな。夜に二人で抜け出して、くそかっけーカブトムシを捕まえた場所だ」


「おおっ、懐かしいですね。

 今でもあそこ、生きていたりするんですか?」


「勿論だぜ。……見に行ってみるか?」


「いきますっ」


「お、お姉ちゃん……」


【こうしてアネットちゃんの好感度が下がっていくんやなって……】

【いいなあ こういう女友達が欲しかった……】


「あ、いや。やっぱり私はどっちでもいいんですけどね。

 まあシルビオがそこまで言うなら、行ってあげてもいいかなって感じです」


「カタリナ、お前……」


 アネットの呆れた声に慌てて誤魔化せば、今度はシルビオすら半目を向けてきた。

 うう、女の子が昆虫好きでもいいじゃない。私の味方 is どこ? 


【あれ? でも確か稀人って穢者に襲われやすいじゃなかった?

 そんな子供が二人だけで森の中に入って大丈夫なん?】


「いや、思いっきり禁止されてたな。バレたらめちゃくちゃ怒られたし。

 でもカタリナの奴、全然懲りなくてさ。何度も俺を誘ってきたんだよ」


「はああ? 大体、最初に言いだしたのはシルビオの方じゃないですかっ。

 私は仕方なくついて行ってあげただけですよっ」


「なにをーー」


「やんのかーー」


「……やっぱりお姉ちゃんは私が守らないと」


 なんて一幕がありながらも調査は進みーー





「……えー、今回の調査では謎の究明は叶いませんでしたが、以下のことが分かりました。

 ・そこに住む動植物たちは独自に進化を遂げている。

 ・沸騰する川が存在する。

 ・村との交流がほとんどない部族が暮らしている。

 これらの情報はきっと今後の謎を解く重要なヒントとなるでしょう。以上、ご視聴ありがとうございました。

 どうか皆さんに素敵な幻想がありますように」


【それアマゾンにもあるで】

【それアマゾンにもあるで】

【それアマゾンにもあるで】


 ーー地球の大自然アマゾンに大敗北を喫したのだった。


 アマゾンって凄いっ!(小並感)


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